つい最近まで、デザインとビジネスは全く別物と考えられていました。デザインは、単に見た目をキレイにするだけのものだと考えられていたほどです。では、実際どうなのでしょうか。
近頃は、デザイナーも企業全体の流れを大きく動かす力を持っています。大きな枠組みで捉え、細かい視点を持って仕事をするスキルが彼らにはあります。そこにデザイン思考が加われば、顧客の望みやニーズをさらに引き出すことが可能でしょう。長い目で見た場合、早い段階でデザイナーをプロジェクトに参入させることでさらなるユーザーや利益が見込めるということです。
継続のためのデザイン
企業が今注目しているKPIの一つに、いかに”魅力的な”商品をつくるかという点が挙げられます。それはリテンションによって測定され、ビジネスにおいて重要な役割を担っています。
その製品は、果たしてマーケットにふさわしいでしょうか?ユーザーのニーズをきちんと叶えているでしょうか?それを確かめるには、リテンションとエンゲージメントが効果的です。一度ユーザーが離れていってしまっては、何千、何万人分もの製品テストが無駄になってしまいます。
Bain&Companyによる調査によると、顧客の継続率がわずか5%増えただけでも、全体の利益は25〜95%増える可能性があるとのことです。では、どのようにその割合を上げることが出来るでしょうか?その答えは、デザインチームの活用に隠されています。
実のところ、企業はUEの重要さを十分には理解していません。SaaSのウェブサイトを訪問するのが2回目だというユーザーは、たった40%しかいません。分かりやすい製品でなければ、さらに離脱率は上がるでしょう。シンプルかつ新しい体験(NUX)を提供することで、ユーザーがファンになってくれる可能性がぐんと上がります。
ユーザーに商品の価値を伝えるのがデザイナーの役割です。数分もしくは数秒しか注目してくれない気まぐれなユーザーの興味を、短い時間の中でいかに引きつけるかがポイントです。
そのような工夫は、微妙なデザインの違いに現れます。以前、あるデザイナーに企業向けの設計をしてもらったことがあります。
ユーザーは、ウェブサイトを見て製品を利用します。顧客維持に一番効果的なのは、その製品に対する愛着心を持たせることです。それは考え方や習熟度を具現化したようなもので、デザイナーはこの愛着心を踏まえて製品に取りかからなくてはいけません。
例えば検索機能であれば、Googleなどの有名なものと関連づけた方が、ユーザーにとっては分かりやすいでしょう。
奇をてらった独特な製品に、ユーザーはついていけるでしょうか?もう一度よく考えてみてください。順を追ってつまらない説明をされてもイライラするだけですし、CSATスコア(顧客満足度)も下がり、カスタマーサービス部門でも不満が溜まる一方です。似たような製品が2つあった場合、使いにくい方を選ぶユーザーがどこにいるでしょうか。
顧客中心のデザイン思考が企業の売り上げのカギを握る
デザイン性の高い製品は、顧客からの人気も高いです。それは当たり前ですが、ではデザイン性の高いものはどのように作られているでしょうか?人間中心設計(HCD)とデザイン思考の両方を組み合わせて考えてみましょう。この二つを意識して企業改善に努める会社は、通常見込まれている15%の成長率の、2倍以上が予想されます。
HCDやデザイン思考という言葉は聞き慣れないでしょうか?それでは、詳しく説明しましょう。
人間中心設計(HCD)
これは、ユーザーが抱えるトラブルに基づいて設計されることです。彼らの悩みを理解して、企業が解決策を提案します。その答えがシンプルであればあるほど、ユーザーにも好印象でしょう。
口で言うのは簡単ですが、実行に移すのは容易ではありません。ベストな解決方法を見出すには、デザインチームが繰り返し試行錯誤する必要があります。
WixonとJonesは1995年にソフトウェア製品を全て見直し、HCDの介入のおかげで次の世代で80%以上も収益を上げることが出来ました。
デザイン思考
デザイン思考とは、課題解決に基づいた方法論です。これには、ダブルダイアモンドとデュアルトラックアジャイルの2つの法則が含まれています。これらの法則を元にすれば、実際の製品への導入前に悪い部分があればカットすることが出来ます。通常のリデザインよりもはるかに効果的です。
会社にとってのメリットが分かっていながらも、経営者は時に新製品に対して否定的です。ですが、競合他社に追いつかれる前に行動しましょう。一緒に働く仲間と考えを共有すべき時です。
製品ひとつ作り上げるのに、エンジニアは何週間も何ヶ月も何年もの時間を費やしています。顧客にメリットを伝えるために、マーケティングチームはあらゆるキャンペーンを実施しています。見込み客へアイデアを提供するために、セールスチームは一生懸命働いています。にも関わらず、最終的にリリースされた製品に対して、困惑の表情を浮かべ怒り出すユーザーも中にはいます。製品のことを悪く言ったり、ニセモノだと騒いだりするのです。このようなことが、SegwayやMicrosoft ZuneやApple Newtonで実際に起こりました。
無事に解決したので、今後は同じようなトラブルは二度と起きないでしょう。
経営者の目標が高ければ、それに合わせて安価なプロトタイプが迅速に作れるデザイナーが必要です。お金を払ってくれる顧客を十分に満足させることが出来ます。また、CEOを認めてもらうのではなくアイデアに対して賛同してもらうことが重要です。トップダウン式の製品づくりの考え方はもう古いです。
HCDとデザイン思考を取り入れることで、何かトラブルが発生する前に、開発の段階でデザインの課題を解決することが可能になります。デザインの試行錯誤を繰り返す方が、製品の機能をあれこれテストするよりはるかに低コストです。アイデアを簡潔に具現化することで、修正の手間も少なくて済みます。Harrison et alによると、1944年の話ですが、米国の航空会社はHCDとデザイン思考の導入によって60〜90%の修正コストを削減できたそうです。
働くスピードというよりもその権利のトレードオフに対して、経営者の方と話す機会があれば、私はよく次のフレーズを使っています。
An ounce of prevention is worth a pound of cure
(1オンスの予防は1ポンドの治療に値する)
製品の見た目にデザインが与える影響
1984年に始まったApple社のスーパーボウルCM賞は、デザイン革命の幕開けとなりました。製品の実用性を一番先に考えた企業は、Apple社だったのです。デザイン面ではどの製品も同じような見た目で、膨大な文字の塊だけでは使いづらく、他の製品との見分けも難しいものでした。
当時、プロダクトデザインというのは専門職ではありませんでした。UXの生みの親であるDom Normanは、現在と同じ意味でその肩書を持った最初の人物です。1993年に彼がApple社で決めた肩書は、User Experience Architect(UE設計士)でした。
1999年のApple社とMicrosoft社のウェブサイトを見れば、どちらがデザイン思考で設計されているかどうかが一目で分かります。この2社のUEには明らかな違いがあります。
20年後、Microsoft社はようやく、Apple 社が数年前からやってきたようなUEの改良を始めました。2社とも物理的な商品を提供していたにも関わらず、その背景には顧客がデジタル製品のデザインに対してどのような反応を示すかという心理的な作用が働いていたのです。
Apple社は、美しいデザインの方が使いやすいということに気づき、43年間をデザインに投資してきました。今や1兆ドル規模の巨大企業となっています。
近頃流行りのUber、Lyft、AirBnB、Pinterestなどの巨大IPOに共通するものは一体何でしょうか?それは、ユーザーが安心して利用出来るような分かりやすいUEを作り出すために、一旦ビジネスを中断したという点です。
そのためには、ユーザーとの信頼関係を構築しなければなりません。デザイナーであれば、第三者的な立場で相互関係のギャップを埋めることが可能です。ユーザーが不快に思わない程度の、ちょうど良い情報を提供することが出来ます。
先ほどの企業は皆、1億2千万〜6億でIPOを実施しています。スタートアップ後になるべく早い段階でデザイン部分を気にかけ、投資を始めていたのです。そうすることで、必ず良い結果がついてきます。
デザインとは、デスクトップのみで完結するものではありません。考え方の一つとして、ビジネスとユーザーが関わりを持つ重要な部分です。プロダクトデザインが何か分からないという方にあえて形式張った言い方をするのであれば、このように説明するでしょう。
プロダクトデザインとは、ユーザーのニーズを察知しながらUEや機能を作り出し、信頼関係を維持しながらビジネスを達成するためのプロセスのことです。
投資する価値があとは思いませんか?