現在のUXは実際に製品を使用するユーザーを想定することが鍵となっていますが、人間という生物そのものについて学ぶことでより優れたものを作り出すことができます。
ハーバード大学の生物学者E.O.ウィルソン氏は、人間が生まれながらに持つ他の生物に対する親しみの感情を生命愛と定義しました。たとえば、かつて色あざやかな花は果物を意味し、生存に欠かせない要素となっていました。現代では必ずしも生きるために花は必要ではありませんが、それでも私たちを幸せにしてくれます。
こうした、人間が進化の過程で培った経験と感情をデザインに活かすことができるのです。
人類の進化をデザインに活かす
生命愛を活用したデザインを作るためには、次の4つのポイントに気を配るといいでしょう。
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1.探索と避難
人間は探索と避難という経験を好みます。探索とは何らかのチャンスや危険を予測すること、避難とは安全を確保することです。
たとえばアップルストアは、陳列している全ての製品が実際に購入可能であるというわかりやすい見通しを提供しています。Amazonもユーザーに必要となる作業がどのようなものか把握しやすく作られています。サイトのポップアップなどユーザーの見通しを妨害し、安心を感じさせない要素は極力取り除くべきなのです。
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2.多くの情報を整頓する
人間はフラクタル構造など、繰り返しの情報が整然と並んでいるデザインが好きです。UXデザインでも、自然なスペースを持つ繰り返されたフォームやフラクタルはユーザーに好まれます。研究によれば、人間はシンプルで情報が限られたデザインには喪失や不安の感情を抱いてしまいます。あまりミニマルにしすぎるのは逆効果になってしまうのです。
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3.パーツを全体に組み込む
それぞれのパーツを全体に統合したデザインにすることで、要素の境界をはっきりさせつつもつながりを感じさせることができます。UX研究でよく使われるCustomer Journeyのようなツールで、各タッチポイントが理想的なプロパティとどのように異なるかを機能的、テーマ的な観点から検討することができます。
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4.時間の経過と変化
時間の経過は安定した環境への信頼を強化します。ノスタルジアを想起させるデザインは時間の経過による強くポジティブな感情を引き起こします。UXにおいても同様で、人々がオンラインで長い時間を過ごしたことを考慮し、Facebookは思い出を簡単に振り返ることができる機能を提供するようになっています。
市場特有の事情に配慮することも大切ですが、人間そのものについて知るのもデザインに役立ちます。何より、こうした知識は分野の垣根を越えて活かすことができるのです。知っておいて損することはないでしょう。
※本記事は、Design Lessons from Evolutionary Biologyを翻訳・再構成したものです。