San Serifは生まれてまだ100年程度で、デザイナーや書体マニアなら起源を知っておきたい。現在知られている情報では、現代のSan Serifはウィリアム・キャスロンが1816年にイギリスのフォントメーカーにて創り出したフォントである。当初文字サイズは28のみで、大文字のみ利用可能であった。キャスロンは、San Serifが広まるという自信はなかった。というのも、初代のSan Serifのデザインは全く魅力的ではなかったからである。
そして創り出されたのはAkzidenz Grotesk体で、ベルリンのベルトールというフォントメーカーにで生まれたフォントである。Akzidenz Groteskはその起源もデザインもずっと魅力的で、即人気になった。間も無く、他のフォントメーカーもAkzidenz Groteskに似たSan Serifをデザインするようになった。最初は見出し用に使用されたが、本文中でも使いやすいように小文字も作られるようになった。
なぜGrotesk(異様)なのか?
こういったフォントが出現した1830年代当初は、世にも異様で一般受けしなかったので、広告以外の用途では使用されることは滅多になかった。しかし、Akizidenz Groteskが使われなくなったのは、バウハウス(絵画,彫刻,建築,工芸教育に革新的な方法を用いたドイツの総合的造形学校)が全盛期を迎えるなど、芸術や商業における新たな流行が到来してからである。芸術や商業でのデザインを一新するにあたり、個性的なフォントが必須となったのだ。
San Serifの魅了
San Serifの一番の魅力が受け入れられるようになったのは20世紀初期である。美と実用性が結びつけられるようになりフォントも必要以上に飾り立てる必要性はないという考えが広まったため、シンプルなものが好まれるようになった。
ドイツの影響
Akzidenz GroteskからSan Serifが広まったのは、ドイツで誕生し発展したバウハウスのイデオロギーのおかげだろう。1928年に誕生したSan Serifの人気書体の一つにFuturaがある。Futuraの形状は幾何学そのもので、セリフ(装飾)はなく伝統的な書体に準じたデザインだ。一部では批判の声もあったが、Futuraが新旋風を巻き起こしたことは間違いない。
Futuraそのものが革命的存在であったが、フォントやデザイン界での影響や浸透はHelveticaほどのものではなかった。HelveticaはSan Serifの代表的なフォントとして世の中に知れ渡るようになった。
Helveticaはシンプルで装飾感が無く、実用的というSan Serifの重要な特徴を兼ね備えている。1957年生まれたこのフォントやUniversなどのその他のAkzidenz Groteskからの派生フォントは、Futraに見られるジオメトリックデザインにインスピレーションを受けている。
ヒューマニストフォントスタイルの発展
San Serifの発展史に見られるのは、他のフォントを真似したり盗作したり、Akzidenz Groteskなどの型破りなSan Serifを使いやすく控え目にしただけのものだと思う人もいるだろう。しかし、こういった発展は軽視されるべきではない。というのも、テキストや広告に対する捉え方、当時のデザインに大きな影響をもたらしたからである。
San Serifはクラシックなものから現在見られるモダンなものにまで、素晴らしい発展を遂げてきた。Futraのような人工味があるデザインから、Helveticaのような自然なデザインまで、San Serifはよりリベラルになり、その結果ヒューマニストフォントがトレンドとなった。
ヒューマニストSan Serifの発展は1976年に誕生したFrutigerというフォントが元になっている。このフォントは、Helveticaに似たスタイルだが、ジオメトリックとは反対に人間味あふれるヒューマニスト的特徴がある。Helveticaとの違いは大きくはないが、旧San Serif体によく見られる鋭い雰囲気を一変するものだった。その結果、ヒューマニストSan Serifはより親しみや温かみがあり、FutraやHelveticaと異なった仕上がりとなった。
Frutigerを皮切りに、ヒューマニストフォントが生まれていった。そのうちの1つは1984年に創られたMetaで細長い形状が特徴だ。この形状は実用的な目的のためのものだった。Metaの生みの親であるエリック・スピーカーマンはスペースを最大限に活用すると同時に小さなサイズでも読みやすいフォントを目指し、Frutigerを創った。
厳選!使いやすいSan Serifフォント
Maven Pro
Maven Proは初代のフリーフォントで、ジオメトリックなスタイルだ。モダンでスタイリッシュ、そしてエレガントな雰囲気が出ている。ジョー・プリンスが生んだこのフォントは、3種類の極細ウエイトがある。
Supria Sans
Supriaは広い層が使用しやすいユニバーサルデザインタイプで36種類のフォントがある。女性的な雰囲気を演出できる曲線的なイタリックやシャープなイタリックでより慣れ親しんだカジュアルな雰囲気を演出することもできる。
幅は2種類、ウエイトは6種類、フォントスタイルは3種類ある。OpenTypeでは、より文字数が多く、東西ヨーロッパの言語に対応している。
Supria Sans Condensed
Supria Sans ConsensedはSupria Sansを少しバージョンアップしたもので、同じく様々なシーンでの使用が想定されている。しかし、文字がより細いため繊細な雰囲気になっている。ウエイトは6種類、フォントスタイルは3種類で、その中でさらに微調整が可能なため、他のフォントとの相性も抜群だ。
Glaublau Sans Pro
一つのフォントスタイルにつき1000の記号、7種類のウエイト、さらに6種類の見出し用フォントがあり、様々な用途に使用できる万能フォントだ。それぞれのフォントスタイルに独自の個性や雰囲気がある。アップライト版は清潔感があり、ニュートラルでカジュアルなデザインに向いている一方、イタリック版は手書き感があり、絶妙さを要するアートに向いている。
Proxima Nova
こちらは、
- 7種類のウエイト
- 3種類の幅
- オールドスタイル
- 代替フォント
- 多言語対応
の機能が備わっている。
様々なオプションにて、目を引くデザインが可能。Glaublau Sans Pro同様、幅広いタスクに使用でき、控え目なニュアンスを表現するのにもタイトルを目立たせる様にboldタイプを使うのも良い。
Brandon Grotesque
このフォントはユニークなデザインを創り出すのにぴったりだ。微妙にノスタルジックな雰囲気の中にも、アール・デコ風の個性的なデザインに仕上がっており、見ていて楽しい。
ジオメトリックな形状をを見事に読みやすくエレガントに仕上げており、もちろんヨーロッパの様々な言語に対応している。
Museo Sans
このフォントはコントラスト(文字の幅)が小さく美しいジオメトリーフォントだ。読みやすく、本文にもタイトルにボリューム感を加えるのにもよい。フォントでは、
- リガチャ
- オールドスタイル
- 分子・分母
- 上付き文字・下付き文字
が使用可能。
Automatic fractionも備わっており、中央ヨーロッパの言語にも対応している。
Futura
FuturaはSan Serifの中でも最も人気書体の1つだ。モダンなジオメトリースタイルで、20世紀半ばの雰囲気も残しつつ、見事に現在のトレンドにもマッチしている。万能性は抜群で、light italicからextra black condensed italicまでに及び10種類のスタイルがある。ウエイトは全ての文字で統一されている上、真円や二等辺三角形もある。
Halis Grotesque
8種類のウエイトがあってアップライトとイタリックがある。文字間のスペースが広いので、小さめのフォントでもとても読みやすい。
- スモールキャップ
- オールドスタイル
- 化学式用下付き文字
- 上付き文字
- 代替スタイル
が取り揃っている。
Intro
Introは様々なサイズやスタイルのフォント、また、紙媒体でもウェブ媒体でも読みやすいのが特色だ。50種類ものバリエーションに富み、それぞれに最適なカーニングが施された、ジオメトリックなフォントである。多種多様な言語をサポートし、文字やグリフも幅広く取り揃っている。また、タイトル重視のデザインにぴったりだ。
Neue Helvetica
Neue Helveticaは繊細なUltra Lightから、しっかりとしたBlackまで50種類のフォントウエイトがある。万能でとてもニュートラルだ。現在はグラフィックデザイナーに最も人気のある書体の1つで、ライセンスはウェブ、デスクトップ、アプリ、電子書籍に適応している。
Swiss 721
Swiss 721は売れ行きナンバーワンのフォントの一つ。従来のSan Serif屈指の特徴を兼ね備えているというのは当然だろう。上品さがあり、ニュートラルなフォントだ。様々なヨーロッパ言語においてテキストと共にグリフが使用可能だ。
Avenir
80年代後半に作られたフォントだが、今も尚デザイナーが愛用している。リニア体でFuturaやErbarをインスピレーションとしたものである。しかし、スタイルのニュアンスはこの2つのフォントとは異なり、独自の魅力がある。多様なテキストにて読みやすく、簡単にスキャン可能なのだ。light からblackまで、6種類のウエイトで使用可能。
Grotesque
Grotesqueはジオメトリックでハイテクな雰囲気が漂っている。丸みを帯びた形なので、温かさがあり親しみやすい書体だ。
- 14種類のフォントスタイル
- 7種類のウエイト
- OpenType
- イタリック
が選択可能だ。
紙媒体のメディア、多種多様な出版部、グラフィックデザインに向いている。
News Gothic
News Gothicは20世紀初頭に初めて登場した、クラシックなSan Serifである。見事にデジタル化され、様々な目的に使用できるものへと進化していった。ポスターのヘッドラインを可愛らしくする目的から、ウェブサイトのタイトルを目立たせる目的までと用途は拡大してきた。フォントスタイルは15種類で基本フォーマットは2種類である。
Centrale Sans Condensed
Centrale Sans Condensedはこの姉妹フォントのCentrale Sansより新鮮、エレガント、かつ繊細なフォントだ。アップライト版とイタリック版にそれぞれ9種類のウエイトがある。デスクトップとウェブベースのプロジェクトのみで使用可能だが、図表やDiscretionay Ligature (欧文合字以外の特殊な組合せの合字) に加え、スタイルも選べるなど、OpenTypeの機能も備わっている。
Nexa
Nexaは広く使われているウェブフォントでサイズに関わらず読みやすい。アップライトでもイタリックでもスタイルとフォントが選べ、16のバリエーションがある。ヘッドラインを目立たせるのに最適な上、シンプルなテキストにも使用可能だ。
Univers
エイドリアン・フルティガが創り出したフォントで、ミニマリズム、資源やクリンネスにおける保守主義など、スイスのデザイン思考に影響を受けている。グリフもしっかり画一化されており、lightからdark、CondensedからExtendedまで、幅広いスタイルから選択可能。
Neo Sans
Neo Sansはグラジエントやエンボス効果など基本的な装飾にぴったりだ。少々未来的でありながら、モダン的でもある。モノラインで、広めの文字スタイルを持ち、なめらかな曲線体のフォントで、見事な作品に仕上げてくれる。アップライトでは6種のウエイトがあり、これに加えてイタリック用のウエイトもある。テキストにもタイトルにも最適だ。
Pluto
Plutoは的確にメッセージを伝えてくれるフォントだ。女性を対象としたデザインにぴったりな、さりげないニュアンスやフレンドリーで親しみやすい雰囲気が表現できる。Plutoの比較対象とされる他のフォント同様、Plutoも64種類のフォントがあり、どれでもイタリック版とアップライト版が使える。エックスハイトが高めなため小さめな文字サイズにぴったりなので、長文にも最適だ。
PF Din Text Pro
PF Din Text Proはウェブベースでも紙媒体やロゴでも適応するフォントだ。タイトルのサイズやテキストの長さを選ばない。DINフォントの中で、最も洗練されてエレガントなものとして知られている。
この書体には
- ノーマル、コンデンスド、コンプレスド
- Ultra Narrow HairlineからUltra Bold Extra Blackまで40種類以上のウエイト
- true-itallic
が含まれる上、Cyrillic, Greek, Romanian, Baltic, Turkishなども用意されている。
ITC Avant Garde Gothic
こちらは、多数の特色が備わっており、2つのスタイルが絶妙に混ざり合った、上級者向けのフォントだ。ウエイトは5種類から選べ、イタリックや、人気のリガチャ、その他多種の文字スタイルがある。Extra lightでは繊細で絶妙な雰囲気だが、bold obliqueではボリューム感を演出できる。
Museo Sans Rounded
Sans Roundedという言葉の通り、丸型が中心となって織り成すなめらかな形状が特徴である。スタイルとウエイトは全12種類から選択可能で、エレガントさとさりげなさを兼ね備えたフォントだ。
Centrale Sans
Museo Sans Roundedと異なり、Centrale Sansは角が鋭く自然体なジオメトリックであるため、より直接的な印象がある。このフォントの主な特徴は、読みやすさとシンプルさ、それにより表現される親しみのあるニュートラルな雰囲気で、幅広いデザインに適している。ヘッドラインや広告コピーにも良いフォントだ。HarlineからExtraBoldに及ぶまで、18種類のフォントスタイルがある。
Interval Sans Pro
Interval Sans Proはハイテク感を出すフォントで、カジュアルな雰囲気の、凝ったビジネスデザインでの用途が広い。アップライトもイタリックも含めた28種類のスタイルがあり、ラテン系言語以外に関しては、さらに機能がある。グリフもわかりやすくて、見ていて楽しい。
Gill Sans
Gill Sanの歴史は長く、1930年代初頭にまで遡る。多種多様なスタイルやウエイトがあるので用途が広いフォントだ。ユニークなシャドー版や、エレガントなLight Italic、存在感の大きなExtraBold、親しみやすいInfant、遊び心溢れるLight Inclinedなどが備わっている。また、ほぼ全ての言語に対応している。
Uni Sans
Uni Sansは、抜群のカーニングが施されており、見事なジオメトリックデザインに仕上がっている上、読みやすいのが特徴だ。ニュートラルだが見ていて飽きず、凝りすぎた感じもしない。アップライトとイタリックのウエイトは、ThinからHeavyまでそれぞれ7種類ある。OpenTypeとTrueTypeで使用可能だ。
Code Pro
Code Proは、プロフェッショナルで丁寧な雰囲気を演出するので、様々なタスクで頼れる存在だ。清潔感が溢れ、読みやすい。細めのフォントでは、エレガントな雰囲気である一方、Boldではしっかりとした重量感がある。FuturaやAvant Gardeとは異なる、モダンなニュアンスがあるため、基調フォントとしてインスピレーションを与えてくれる。
Soin Sans
Soin Sansはネオグロテスク的な魅力にカジュアルでジオメトリックな要素とヒューマニスト的な要素が加わった典型フォントである。アシメトリーデザインやオープンスペースのためのデザインに向いている。ウエイトは8種類あり、スタイルも複数から選択可能。また、ベーシックな絵文字や数字もある。OpenTypeでもTrueTypeでも使用可能だ。
Gram
Gramは長めの広告コピーでもヘッドラインでも適したフォントだ。このフォントは直線的な作りであるため、とてもニュートラルで用途も広く、様々なデザインに馴染む。ウエイトはアップライトとイタリックにそれぞれthin, light, regular, bold plusの4種類だけであるが、柔らかくなめらかな雰囲気で、紙媒体、ウェブ媒体、アプリ用のサロン、コスメなどの広告デザインに理想的だ。
San Serifのカテゴリー
1800年代から現在まで、San Serifは急進的なもの、さりげないもの、実用的なものなど様々な変化を遂げてきた。今日では、San Serifの分類基準は明確になっている。
- Grotesqueは、垂直カーブを特徴とする、目を引くスタイルだ。
- Transitional sans serif はHelveticaを始めとるすモダンなスタイルである。San Serifで最も多いタイプのもので、まっすぐとしており、画数も少ないのが特徴である。
- Humanist sans serif はVerdanaやCalibriなど筆書きっぽさが特徴で、読みやすくなっている。
- Geometric sans serifはFuturaやSpartanのように、ジオメトリックな書体で、大変モダンな印象だ。角張った形状なので、テキストでの使用頻度はSan Serif体の中で一番低くなっている。
San Serifは今後も成長し続け、新しいフォントを生み出したり、既存のものアレンジしていったりする中で、新たに貴重な発見があるだろう。