声やギター、ピアノなどのアコースティック楽器をスタジオや自宅で録音する場合、良い音で録音できる機材が欲しくなりますよね。ですが、可能な限り最高の音を録音するためには、マイクとその用途に関する包括的な知識が必要です。
「マイクロフォン」【以下、「マイク」と表記】は、音を電気信号に変換する装置です。この電気信号は、電子増幅器や様々な音声変換システムで処理されます。
昨今では、マイクは、スマートフォン、補聴器、映画制作、ラジオやテレビの放送、ライブイベントのPA装置【場内放送設備】など、幅広い用途に使用されています。
それぞれの状況でどのようなマイクが最適なのかを見極めることは、ちょっと厄介です。あらゆるマイクを同じ目的に使用できるわけではないからです。音響エネルギーを電気エネルギーに変換するために様々な技術を採用しているマイクには、様々な種類があります。
この記事では、トランスデューサ技術とその指向性という2つのパラメータに基づいて、マイクを分類しています。これを読めば、選択肢を絞り込み、作業に適したデバイスを見つけることができるでしょう。
トランスデューサ技術に基づくもの
トランスデューサとは、圧力などの物理量の変化を電気信号に変換したり、逆に電気信号を圧力に変換したりする装置のことです。
振動板とは、音波を受けて振動する薄い板のことです。
10. レーザーマイク
その名の通り、レーザー光を使って遠くの物体の音響振動を検出するマイクです。発言者や音源の近くに送信機や電源を必要としないため、スパイ技術の粋を集めたものといえます。
レーザー光を対象物に照射し、跳ね返します。物体(または声)から出る音波をレーザー光で拾い、受信機に跳ね返してスピーカーで音声を再生します。
このような装置は市販されていません(もちろん、セキュリティ上の理由からです)。しかし、2009年には、レーザー光と蒸気や煙を使って、自由大気中の音の振動を検出する装置の特許が発行されています。
9. 液体マイク
・貧弱な音質
・商業的に成功しなかった
・発明家たちがもっと高度なマイクを開発するきっかけとなった
液体マイクは、電線に流れる電流が回路の抵抗値に反比例して変化するというオームの法則に基づいています。このマイクは、電池、針、電線、振動板を乗せた金属カップを内蔵しています。金属カップの中には水と少量の硫酸が入っています。
音波によって振動板が振動し、針が(導電性の)硫酸溶液の中で上下に動きます。この動きによって溶液の抵抗値が変化し、(電池から得られる)回路内の電流が変動します。
初期の液体マイクは、貧弱な音質のせいであまり普及しませんでしたが、多くの発明家に影響を与え、人の声を効果的にとらえることが可能な機器を開発することになりました。実際、液体マイクの設計は、コンデンサーマイクの誕生につながりました。
8. MEMSマイク
MEMSマイクの上面図と下面図
・小型である
・低消費電力
・高いSNR(信号対雑音比)と良好な感度を有する
・様々なオーディオアプリケーションに対応可能
例:Knowles社製PDMマイクMEMS
【Micro-Electro-Mechanical System】(微小電気機械システム)の加工技術を用いて開発されたMEMSマイクは、シリコンマイクとも呼ばれます。半導電性のシリコンウエハーにMEMS部品をエッチングして作られます。振動板は固定された多孔板の後ろにエッチングされ、一緒になってコンデンサーを形成することができます。
多くのMEMS技術と同様に、こういったマイクは、半導体シリコンウエハーと効率的な自動プロセスを用いた生産ラインで製造されます。シリコンウエハーの上に様々な材料を何層にも重ね、最後に不要な材料をエッチングして除去します。
MEMSマイクは、非常に小さな容器で提供されています。高音質で信頼性が高く、小型で安価な機器を必要とするすべてのオーディオアプリケーションを対象としています。最近では、圧電素子を用いたMEMSマイクの開発が盛んに行われています。
7. スピーカー
マイクとして機能する「キックドラム」の近くに配置された中型ウーファー
・感度が低い
・高域、低域の周波数特性に限界がある
・従来のマイクが使用できない場合に使用可能
例:ソロモン LoFReQ サブマイク
マイクとスピーカーは、見た目は全く異なりますが、音を電気信号に変換する原理や部品は同じです。すべてのスピーカーは、マイクと「逆」の動作が可能です。
具体的には、スピーカーコーンは大きなマイクの振動板のような役割を果たします。録音機器用のアンプに取り付ければ、音波をとらえることができます。
また、ゲーム機のボイスチャットやトランシーバーなど、高感度・広帯域を必要としない用途では、スピーカーをマイクとして使用することも(ごくまれに)あります。また、「キックドラム」の近くにウーファーを置いてマイクとして機能させるのも良い例です。
6. クリスタルマイク
Astatic社製のヴィンテージ圧電マイク
・超音波での使用が可能
・全指向性で低価格
・熱や湿気で破損しやすい
クリスタルマイクの仕組みは、ある種の固体物質が機械的なストレスを受けると電圧を発生する「圧電性」という現象を利用しています。
このタイプのマイクは、圧電材料を用いて振動を電気信号に変換します。初期のマイクには、出力の大きさから酒石酸カリウムナトリウムが使われていましたが、湿気に弱く壊れやすいという欠点がありました。その後、ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどのセラミック材料が使われるようになりました。
1930年から1960年にかけて、主にホームレコーディングや小規模なページング【限られたエリア内の通信設備】市場で使用され、その後、より安価なエレクトレットマイクやダイナミックマイクに取って代わられました。圧電マイクは現在でも、水中などの厳しい環境下での音の録音や、アコースティック楽器の音の増幅などに使われています。
5. カーボンマイク
・安価で簡単に製造できる
・高い音圧レベルに耐えられる
・動作には電池などの供給が必要
・背景雑音が大きく、周波数特性が悪い
例:Shure 104C 全指向性プッシュ・トゥ・トーク・マイク【半二重の通話方式】
カーボンマイクは、小さな炭素の粒で区切られた2枚の金属板を内蔵し、各板は、オーディオレシーバーに接続する電線に取り付けられています。話者の方を向いている板は、振動板として機能します。マイクの上部は、穴の開いたプラスチックや金属のシートで覆われており、音波が通過するようになっています。
音波が振動板に当たると、振動板は振動して炭素の粒に様々な圧力をかけ、板の間の電気抵抗を変化させます。この抵抗値の変化によって電流が変調され、電気信号が変化するのです。
カーボンマイクは、1980年代までラジオ放送や電話機などに使われていました。現在では、よりノイズの少ない、高音質のマイクに取って代わられています。しかし、軍事施設など、安価でも耐久性があり、性能の低いマイクを必要とする用途では、今でもこのマイクが使われています。
4. 光ファイバーマイク
小型光ファイバーマイク
・磁界、電界、放射性物質に反応しない
・湿気や熱に強い
・主にノイズキャンセリングや低周波音のモニタリングに使用される
例:SOM3/4/5SPL 140dBまでの高音圧レベルのモニタリング用
光ファイバーマイクは、磁界や静電容量の変化を感知して動作する他のマイクとは異なり、光の強さの変化を感知して音響波を電気信号に変換します。このタイプのマイクでは、外部からの電力供給なしに、入射音波が光ファイバーに導かれた光を変調させます。
変調された光は、別の光ファイバーで光検出器に送られ、デジタルまたはアナログの音声に変換されて送信または録音されます。このマイクの光源と光検出器は、プリアンプを接続することなく、数マイル離れた場所に設置することができます。
これらのマイクは、主にノイズキャンセリングや低周波音のモニタリングなど、特定の用途に使用されます。たとえば病院では、MRI室や遠隔操作室で医師と患者が普通に会話できるようにするために、光ファイバーマイクが使われています。
3. リボンマイク
リボンマイクの動作原理
・躍動感のある高品位な音を再現する
・左右どちらからでも同じように音を拾うことができる
・アコースティックギターのSR【sound reinforcement:音声増強】によく用いられる
例:sE Electronics X1R パッシブリボンマイク
リボンマイクは、空気の速度の変化に反応して動作します。磁石の極の間に吊るされた薄い導電性リボンを内蔵しています。リボンが振動すると、音源の空気速度の変化に対応した電圧が発生します。
旧来のリボンマイクは、比較的低い出力を望ましいレベルまで強化するために、昇圧器を内蔵していました。しかし、最近のモデルでは、より優れた磁石とより効率的な変圧器を使用して、より大きな出力レベルを実現しています。
リボンマイクの多くはパッシブ型で、プリアンプやアクティブな電子機器を搭載していないのが特徴です。一部の(最近開発された)アクティブリボンマイクは、プリアンプの入力インピーダンスに関係なく、デバイスの能力を最大限に発揮するための電子機器を搭載しています。
パッシブリボンマイクは、適切なプリアンプとの組み合わせで素晴らしい音質を提供しますが、アクティブリボンは同じ音質をより簡単に実現します。
2. ダイナミックマイク
Shure SM7B カーディオイド【マイク正面の音だけを強く拾う単一指向性】
・高い音圧レベルに耐えられる
・安価で湿気に強い
・外部電源を必要としない
例:Shure SM7B カーディオイドダイナミックマイク
音や音楽の世界では、「ダイナミック」という言葉には様々な意味が込められています。この場合は、「ダイナミックな性能」や「ダイナミックレンジ」のことを指しています。これらのマイクの仕組みは、電磁誘導の原理に基づいています。
ダイナミックマイクの特徴は3つあり、磁界を発生させる磁気構造体、リード線で電圧を取る導電体、磁界と導電体の間を相対的に移動させる機構です。
具体的には、永久磁石の周囲に配置された小型の可動式誘導コイルに振動板が取り付けられています。マイクに音波が入射すると、振動板が振動します。この振動により、コイルが永久磁石の磁界内を移動し、電磁誘導によりコイルに変動する電流が発生します。このようにして、マイクは音声を電気信号に変換するのです。
1. コンデンサーマイク
AKG Pro P220
・ダイナミック型に比べて周波数特性の幅が広い
・スタジオでの録音に適している
・小型化が可能
例:AKG Pro Audio P220 ボーカル用コンデンサーマイク
コンデンサーマイクは、キャパシター・マイクや静電マイクとも呼ばれ、帯電した金属板を用いて音を電気信号に変換します。
帯電した一対の金属板があり、一方は可動式(振動板)、一方は固定式(バックプレート)で、コンデンサーを形成しています。音波が振動板に当たると、振動板が前後に動き、2枚の金属板の距離が変化します。これにより、拾った音に対応する電気信号が発生します。
マイクの板を充電するには、11〜52ボルトの電圧が必要です。一般的に、電源はバッテリーを介して供給されるか、またはデバイスのケーブル自体を介して供給されます。
このタイプのマイクは、優れた音質、広い周波数特性、過渡現象を正確に再現する能力を備えているため、スタジオ録音用に好んで使用されます。
指向性に基づくもの
どのマイクにも、そのマイクが空間的にどこを聞いているか、どの部分がブロックされているかを示す指向特性図があります。指向特性図の知識があれば、特定の要件に応じて最適なマイクを簡単に選択することができます。
1.全指向性マイク
最適な用途:スタジオやライブでのノイズの少ない環境での複数楽器の録音
全指向性マイクは、その名の通り、あらゆる角度から音をとらえることができます。しかし、現実の世界では、3次元的に完璧な球体レスポンスを提供できるデバイスはありません。半径が最も小さいマイク(約3mm)は、高音域で最も優れた全指向性を発揮します。
また、指向性がないことと、リジェクト機能がないことから、ニュアンスを効果的に捉え、他のマイクよりも自然な音を提供します。しかし、バックグラウンドノイズを除去することができないため、大音量で騒がしい環境では使用できません。
2. カーディオイドマイク
最適な用途:ライブパフォーマンスやスピーチなど、ハウリング抑制が必要な場合
カーディオイドマイクは、前方の音をとらえ、それ以外のものをブロックします。これは最も一般的なカーディオイドマイクで、デバイスを音源に向け、周囲の音から分離することができます。
ギターのスピーカーやドラムキットのような大音量の楽器からの音を録音するのに使われます。カーディオイドマイクは、音源が軸から外れたときに微妙な音の色付けをしてしまい、本来の音質を劣化させてしまうので、正しく配置することが重要です。
3. スーパー&ハイパー・カーディオイドマイク
スーパー&ハイパー・カーディオイドマイク
最適な用途:ノイズの多いステージ環境での声や大きな音源の録音
スーパー&ハイパー・カーディオイドマイクは、通常のカーディオイドマイクよりもフロント感度のエリアが狭くなっています。より優れたアイソレーションとフィードバック耐性を備えています。不要なノイズを抑制する能力が高いため、無処理のレコーディングルームや騒がしいステージ環境で活躍します。
このマイクの唯一の欠点は、バックノイズの除去能力が若干低下することです。観客の声や前方に置かれた楽器の音を拾ってしまうことがあります。
4. 双指向性マイク
最適な用途:ステレオ録音、2つ以上の音源の取り込み
双指向性マイクのパターンは、「8の字」のような形をしています。これは、素子の背面と前面の両方から均等に音を捉えます。全指向性マイクと似ていますが、2つの面で音を排除する機能が追加されています。
具体的には、全指向性マイクは全方向からの圧力に反応するスカラー型のトランスデューサで、双指向性マイクは振動板面に垂直な軸に沿った勾配に反応するベクトル型のトランスデューサです。主にリボンマイクや一部の大型の振動板に使用されています。
5. ショットガン
最適な用途:ドラムのシンバルや歌のグループの収録
管状のデザインを持つショットガンマイクは、最も高い指向性の感度を提供します。干渉管により、中高域の前方応答が向上します。側面からの音をフェイズキャンセルで拒絶します。
ショットガンマイクは前方への感度が狭いため、主にスタジアムや映画のセット、フィールド上の野生動物の録音などに使用されます。
6. マルチパターン・マイク
Senal UC4-B USBマイク
例:Senal UC4-B USBマルチパターン・マイク
マルチパターン・マイクは、特定の音を分離し、音源や歌手のボーカルスタイルに合わせてデバイスを調整することができます。また、ハウリングの抑制や近接効果のコントロール、ステレオマイキングの技術を駆使した音像の生成などにも使用できます。
最近のUSBコンデンサーマイクは、スイッチやヘッドの交換だけで特定のパターンを選択できるようになっています。もちろん、このタイプのマイクの最大のメリットは、様々な条件での音質を手頃な価格で試せることです。