世界中のファンが熱狂した2018年ワールドカップ(フットボールと呼ぶかサッカーと呼ぶかどうかに関わらず)から、私たちはロイヤルティに関する教訓を得ました。イタリア、オランダ、チリ、アメリカなど、今年の大舞台に立つことができなかった国のチームの応援団にとっては、もう2度と学びたくは無い教訓です。
しかし、大手ブランドやマーケティング担当者にとっては、今年のトーナメントは、大波乱に飛んだ筋書きになりました。そのことで、ワールドカップまつわるファンダムと顧客のロイヤリティに関するいくつかの真実が見えてきました。サッカーが好きかどうかはさておき、ピッチ内外で起こったことを追うことによって、有益な知見が得られます。
見たいのは自分たちの価値が反映されること
試合を観戦していなくても、大会期間中に放送されたサッカーに関連するコマーシャルを目にしたかと思います。その1つがフォルクスワーゲンのCMで、本戦で自分のチームを応援することができなくなったアメリカのサッカーファンに「Jump on the Wagen」(便乗しよう)と呼びかけ、ワールドカップ出場を果たした国の1つの応援団に加わるように勧めるという内容でした。
サッカーファンは応援するチームに自分自身を重ねているため、この広告は効果的です。私たちはアメリカ人ですので、合衆国代表に愛着をもっていますが、もしかしたら前線で美しいプレーが見られた試合に夢中になるかもしれません。ブラジルのバンドワゴンに飛び乗って joga bonito(美しいゲーム)を応援してみてはどうでしょうか。彼らのスタイルは(効率性と運動能力によってゲームを支配することで知られている)アメリカ代表のそれとは正反対なものです。しかし、炎のような情熱とスタイルが好きなら、ネイマールと緑と黄色の色彩に見とれてしまうかもしれません。
マーケティング担当者にとっては、顧客が自分自身をブランドに投影できると気付かせることが重要です。しかしそれは、電子メールの冒頭に顧客の名前を入れたり、買い物で使えるポイントを与えたりすることだけを意味するものではありません。顧客は、自分にとって価値のあるものが、ブランドにとっても貴重なものであってほしいと思っているのです。ありきたいの表面的な関わり方ではなく、より深いところで自分とつながっているという実感必要なのです。
ダイレクトなつながりが持つ力
今年、これまでの真剣な取り組みが実を結んだチームの1つがイングランドです。ワールドカップでは何年にもわたって期待外れの成績が続いてきたため、イングランド代表選手たちは大衆との関わりを持とうとする気持ちを失っていました。選手とファンの関係は、2010年のワールドカップでのアルジェリア戦にて0対0で引き分けになったときにスター選手のウェイン・ルーニーが近くのカメラにこう言ったほど悪化していました。「自国のファンが自分にブーイングをしているのを見るのは悪くないね。それが応援ってことなんでしょう。」
今年、イングランドのサッカー協会は、新たな取り組みを進めています。チームに再びスポットライトを当て、選手たちの態度を軟化させようとしました。プレイヤーは公に姿を現す機会を増やし、ソーシャルメディアでの存在感を高め、人となりや努力している姿、そしてどれほど真剣に試合と向き合っているかを国民に知ってもらえるようにしてきました。
こういった、選手の個性が見えてくるつながりや内面を知るためツールは、忠実なサポーターが欲するものです。ファンは選手に時間とお金を使ってくれるのです。よそよそしい態度をとり続ける必要はありません。ファンは、代表チームというブランドから情報を発信してほしいと思っているだけでなく、手の届くところにあって人間的なものであってほしいとも考えているのです。
多角的な視点が必要
グループステージを観た方は、おそらく既にそのしくみを理解していることでしょう。4チームからなる8つのグループがありますが、各グループから次のステップに進めるのは2チームだけです。進出するチームは、各チームがグループ内の他の3チーム全てと試合を行い、勝ったら3ポイント、引き分けの時は1ポイント、負けた場合には0ポイントを獲得するという方法で決まります。
順位付けには他にもいくつかの細かいルールが定められてはいますが、ここから得られる教訓は次のようになります。1チームだけを応援しては、大会を最後まで楽しめないのです。応援しているチームの順位を知るためには、すべての試合(少なくともグループリーグ内の対戦結果)がどのように進んでいるかを知る必要があります。さらに、早い段階で試合に勝っても、安心はできません。スペイン、ドイツ、ベルギー、またはブラジルと試合するまでは、勝利は確信できないのです。韓国やスウェーデンを打ち負かしても、ヘビー級のノックアウトからは程遠いのです。「全体像」は応援しているチームの立ち位置を判断するのに必要なコンテクストなのです。
マーケティングにおいても同様の課題があります。 データポイントは1つだけでは不十分なのです。お客様が月曜日の午前7時にお見えになられたことは知っていても、Lサイズのアイスティーを買ったことも知っていても、火曜日にカスタマーサービスとコンタクトをとったことも知っていても、それらすべての要件をまとめて把握しなければいけません。たとえば、次の月曜日にそのお客様が戻って来られた時にはLサイズのアイスティーを無料で提供して驚かせ、先週の月曜日のクレジットカードの請求の誤りをお詫びするといったことがあるかもしれません。そのような顧客との関係は、データポイントを1個とか2個しか持たないのではなく、顧客を理解するために情報を共鳴させることによってもたらされます。
ボリュームゲームではない
今年のワールドカップに出場できなかったチームは残念ながら大きな代償を抱えました。 大会が始まった頃の数値では、2014年に比べて中継を見た人が87%も下がっていることが示唆しています。大観衆ではないものの、それでもワールドカップを観戦している人は、サッカー市場においてコアなファンであるということは間違いありません。 自国の代表チームが出ていないのにワールドカップを観戦しちえたアメリカのサッカーファンは、それだけサッカーというスポーツにロイヤルティがあるということになります。
多くのブランドは、コアなファンには迎合せずに、幅広いファンへ迎合しようとする間違いを犯しています。 ロイヤルティとは戦略ではなく結果であるべきなのです。 ワールドカップのファンはワールドシリーズのファンよりも2倍熱心に応援する準備ができています。 マーケティング担当者は、ブランドのファンを取り込むことで、ブランドに利益を還元できます。
大会が終わっても、ワールドカップの熱狂は今でも私たちに何かを語り続けているのです。
※本記事は、How the 2018 World Cup explains the power of true customer loyaltyを翻訳・再構成したものです。
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