・過渡格子分光法に基づく新しいシステムで、放射線による材料の変化をリアルタイムに検出することができます
・既存の技術は材料の解析に半年かかるのに対し、新しいシステムはたった1日でできてしまいます
原子力発電所の炉内のような高放射線環境では、極めて高品質な材料が必要とされます。原子力発電施設では、これらの材料の構造、および性能は、長年の運転により大きく変化します。材料の多くは、沈殿物の増加、体積の膨張、異物の混入、腐食、分離などにより破壊されます。
このような過酷な環境に耐える材料の能力をテストする既存の方法は、あまり効果的ではありません。高放射線環境にさらされた材料を取り出して精査する「クック・アンド・ルック」方式に頼っているからです。 しかし、このプロセスは非常に時間がかかるため、新しい原子炉のための先端材料の開発を遅らせています。
この問題を解決するために、MITとサンディア国立研究所の研究チームは、放射線による変化をリアルタイムで効果的に追跡し、従来の技術よりも多くの知見を得られる新しいシステムを構築しました。
多くの原子力発電所が寿命が近づいているため、この技術は、どの原子力発電所を安全にどれだけ延長できるかを判断するのに役立つと考えられています。
材料試験の新しい方法
この新しいレーザーベースのシステムは、準粒子の伝搬を測定する光学技術である過渡格子分光法(TGS)を採用しています。材料にダメージを与えたり、特性を変えたりすることなく、熱拡散率や弾性などの物理的な変化を検出することができます。
研究チームはこの方法を2年ほど前からテストしてきました。そして現在、このシステムは原子炉容器内の材料が時間とともにどのように劣化するかをエンジニアが観察するのに役立つ正確なデータを提供できるようになりました。
TGSを使って放射線による損傷を詳細に観察したのは、これが初めてです。これで運用期間中に材料の特性が変化したかどうか、例えば応力や熱の伝わりやすさが変わったかどうかを検出することができます。
イオンビームは、実際の原子炉と同じように材料にダメージを与えますが、より安全で制御しやすくなります。 6メガボルトのイオン加速器を使用し、数年にわたる中性子被ばくを数時間で検査しました。
サンディア国立研究所に設置されテストされた新システム| 画像元: Cody Dennett
この測定は、レーザービームを使って材料の振動をシミュレーションし、その振動を別のレーザーで表面から観察することによって行われます。これは、材料の損傷蓄積や欠陥など、他の関連特性の測定にも利用できます。
このシステムはリアルタイムで材料を監視しているため、問題が起きた時にすぐ実験を停止し、破損を詳細に調べることができます。これにより、故障の原因を突き止めることができるのです。
従来の方法では、劣化の原因を見つけるのに何ヶ月もかかっていました。一方、新しいシステムでは、同じことを数時間で行うことができます。報告書によると、実験材料の特性評価を完璧に行うには、既存の技術では半年近くかかるのに対し、このシステムを使うとわずか1日で完了するとのことです。
今後の展開は?
現時点で、研究者たちはタングステンとニッケル2種類の純金属でこのシステムをテストしています。今後数カ月は、他の金属やさまざまな種類の合金のテストに使用する予定です。
また研究チームは、システムの機能をさらに向上させ、放射線を浴びた物質の特性をより詳しく調べるための診断ツールを追加することにも取り組んでいます。