• 研究者たちは、機械学習モデルを電子顕微鏡に応用し、原子炉材料の損傷を分析することに成功した。
• この新しい技術で、 積層欠陥四面体や粒界、転位線や転位ループといったさまざまな種類の損傷を非常に正確に識別し、位置を特定することが可能となった。
原子炉の安全性維持のために、原子力に耐えられる材料の開発は非常に重要です。ほんの小さな損傷でも、原子炉施設の耐久性や設計に影響を与えるためです。しかしながら、材料一つひとつを手作業で検査するのは面倒で時間のかかる作業です。また、手作業による検査はミスが起きやすく、正確性にも欠けます。
そこで、オークリッジ国立研究所とウィスコンシン大学マディソン校の研究者たちによって開発されたのが、原子炉材料の損傷を高精度かつ短時間で識別・解析できる機械学習モデルです。
彼らは電子顕微鏡を使って照射下にある材料の損傷の位置やサイズを解析することに取り組みました。この機械学習モデルは、線状転位の検出からナノ粒子のカウントまで、電子顕微鏡画像のさまざまな機能を処理するように設定することが可能です。
手作業による損傷識別の問題点
手作業による識別作業は、通常時間がかかります。時にはたった1枚の画像を検証するのに丸一日を費やすこともあるため、複雑なデータを大量に処理するには数日、あるいは数週間かかってしまいます。さらに人間にはミスがつきものですから、誤認したり見逃したりすることもあります。
手作業は再現性や一貫性、拡張性に欠けるという問題点もあります。人間の思い込みや訓練の度合いにも影響されるため、別々の人が行った最終的な結果を比較したり、絶対的な手順を確立するということもきわめて困難です。
一方の電子顕微鏡は、高速検出器が進歩したおかげで1秒間に何千枚もの画像を撮影することができます。自動解析技術はこの新しいデータ生成能力を最大限に活用しており、最新の画像解析ツールによって解析時間をほぼゼロまで短縮することができるでしょう。そして、正確かつ公正な一貫した結果を得ることができ、利用可能な計算資源に合わせて拡張することが可能となります。
電子顕微鏡への機械学習の応用
従来の画像認識ツールでは、2値特徴ヒストグラムやSIFT (Scale-Invariant Feature Transform)、そして画像の特徴抽出ヒストグラムなどを用いて画像から特徴を抽出し、識別器に入力していました。
走査型透過電子顕微鏡で見た損傷の一般的な種類/研究者提供
現在、研究者たちは機械学習技術を電子顕微鏡分野に導入し、画像をより効率的に解析する研究を始めています。これには検出や区分、分類、統計的表現、原子レベルの局所変換、電子解析パターンの識別、そのほかさまざまな処理が含まれます。
この研究によって開発された技術は、3段階にカテゴライズすることができます。
1. カスケード型オブジェクト検出器による成分検出
2. CNN(Convolutional Neural Network)による成分スクリーニング
3. 2つの局所的画像解析アプローチによる成分解析。すなわち、1つは損傷の位置を特定する流域画像処理、もう1つはその損傷の大きさを抽出する領域特性解析。
この機械学習モデルは、6万枚以上の画像を使ってトレーニングされています。それも、CuDNNを用いたMatlabのディープラーニングフレームワークを搭載した、たった1台の NVIDIA GeForce GTX 1070 GPUを用いて。人間が合金の転位エラーの80%しか見つけることができなかったのに対して、このネットワークは86%を識別・分類することができました。
トレーニング用のデータセットに含まれた電子顕微鏡画像の枚数は限られていましたが、より多くの画像を注釈付きで与えることにより、ニューラルネットワークのパフォーマンスをさらに向上させることができます。
研究者たちは、コントラスト、明度、焦点、損傷の大きさんどが異なるさまざまな材料の電子顕微鏡画像を与えることで、この機械学習モデルの信頼性とシステム上の問題に対する健全性を高めることができると考えています。