・本物のヒト血管の機能と構造を模倣する完璧な血管オルガノイド【生体外で3次元(3D)的に作られた臓器】の生育に成功した。
・この発見は、糖尿病、癌、アルツハイマー病など、様々な血管疾患の根本的な原因を解明するのに役立つ可能性がある。
血管は、栄養と酸素を運び、老廃物と二酸化炭素を処理し、体温を調節するために不可欠な組織です。約60兆個の細胞を維持するために、血管は全身に張り巡らされています。
そして、人体の各器官は循環系(血液、血管、心臓を含むネットワーク)につながっているため、科学者たちは、糖尿病、癌、心血管系疾患、アルツハイマー病、脳卒中、創傷治癒障害など、数多くの血管疾患の原因や治療法を発見できる可能性があります。
特に糖尿病は、世界中で4億2,000万人近くが罹患しています。糖尿病の症状のほとんどは、体内の酸素供給と血液循環の障害を引き起こす血管の変質によって起こります。何千もの研究や最近の生物医学の進歩にもかかわらず、糖尿病患者の血管がどのように変化するかはまだわかっていません。
この問題に対処するために、ブリティッシュ・コロンビア大学の研究者たちは革新的なモデルを構築しました。ペトリ皿の中で、実際のヒト血管の機能と構造の両方を模倣する、完璧なヒト血管オルガノイドを生育したのです。
血管オルガノイド
これらのオルガノイド(自己組織化した小さな3次元組織培養物)は幹細胞から派生したものです。その細胞はグループ化され、血管と同じように空間的に配置されています。
研究チームは、この血管オルガノイドをテストするために、マウスに移植しました。その結果、これらのオルガノイドは毛細血管や動脈を含む、完全に機能するヒト血管に成長することがわかりました。このことは、ペトリ皿の中でヒト幹細胞からオルガノイドを作製するのと同様に、他の生物種でも機能的なヒト血管系を発達させることが可能であることを示しています。
オリジナルデータに基づく血管オルガノイド
出典:IMBA【オーストリア科学アカデミーの分子バイオテクノロジー研究所】
この研究で開発された血管オルガノイドは、分子スケールでヒトの毛細血管に似ています。したがって、科学者たちはこれを用いて、ヒトの組織で直接、血管に関連する病気を調べることができます。これまでは不可能だったことなのです。
糖尿病患者にどのように役立つのか?
糖尿病患者においては、血管(赤い部分)の周りの基底膜(緑の部分)が異常に厚くなっています【下記右上の画像】。このため、血管が組織や細胞に栄養や酸素を適切に送ることができなくなり、さらに心臓発作や腎不全から失明や末梢動脈疾患に至るまで、様々な健康問題を引き起こします。
患者およびヒト血管オルガノイドにおける糖尿病性血管の変化
出典:IMBA
この研究で研究チームは、ペトリ皿の中で血管オルガノイドを「糖尿病」状態にさらしました。しばらくして、研究者たちはオルガノイドの基底膜が、糖尿病患者の実際の血管で見られるのと同じように拡大するのを観察しました。
残念なことに、血管壁の拡張を効果的に阻止できる化合物は見つかりませんでした。可能な限りの抗糖尿病薬をテストしたものの、どれも効かなかったのです。
それでも、ガンマ・セクレターゼ(多数の1型タンパク質の膜内タンパク質分解を触媒する巨大な多タンパク質酵素複合体)の阻害剤は、血管オルガノイドの基底膜の肥厚をわずかに防ぐことができました。この観察結果は、少なくとも動物モデルでは、ガンマ・セクレターゼを糖尿病の治療に利用できることを示唆しています。
さらに、この研究は、科学者が血管疾患の根本的な原因を解明し、糖尿病患者に対する効果的な治療法を開発するのに役立つ可能性があります。