・線虫の行動を正確に予測する新しい機械学習アルゴリズムが開発された。
・このアルゴリズムは、線虫がレーザー刺激にどのように反応するかを分析したもの。
・このアルゴリズムは、より複雑なシステムにおいて正確かつ解釈可能なモデルを見つけることが可能。
ここ数十年、定量生物学の進歩により、生物の複雑な動きを正確に測定できるようになりました。
例えば、線虫(体長1mm程度の透明な虫)が刺激に反応して逃げ回る動きを、数千匹の虫を使って、数秒間測定することができます。
近年、アリゾナ州立大学とトロント大学の生物物理学者たちは、線虫の脱出や痛みを感じる活動のモデル化を行う人工知能ツールを開発しました。このツールは、機械学習法を用いて線虫の行動を正確に予測します。
生物学的には、これらの予測はすべて理にかなっており、線虫を使った実験から得られたデータで検証されています。
この機械学習法は、2015年に開発されたアルゴリズムに基づいており、複雑な生物学的システムの根幹である特定の法則を探し出します。研究チームはこのアルゴリズムを、著名な物理学者であるアイザック・ニュートン博士にちなんで「Sir Isaac」と名付けました。ニュートンの運動の法則は機械システムの動力を示すのですが、このアルゴリズムは生命システムに対しても同様のことを行います。
線虫に対する実験
本研究では、線虫の意思決定能力、すなわち感覚刺激にどのように反応するかを分析しました。線虫は標準的な動物実験用モデルであり、1970年代以降、広く利用されています。
線虫は人間と同じように、神経伝達物質を集めるため細胞から伸びる樹状突起があり、それは神経細胞間のシナプス結合のために脳まで伸びています。神経細胞は302個しかなく、動きにも制限があります。
研究チームは、線虫の頭部にレーザー光を当てることで、各々の虫の前進を妨げました。
線虫の反応はそれぞれ異なっていました。ある虫はしばらく止まってから反応し、ある虫はレーザーの刺激を受けてすぐに方向を変えました。しかし、共通していたのは、どの虫も高温(強いレーザー)になると急激に反応することでした。
アイザック博士のプラットフォーム
研究チームは、実験の開始数秒間の動作データを記録し、機械学習法に加えました。その結果、開始数秒を超えても、ワームの動きを推定することができたのです。(レーザー刺激後の)ワームのばらついた動きの約90%は、生物学的に説明できるといいます。
ある刺激に対するワームの動きを予測することは、ボールを蹴る動きを予測するよりもはるかに難しい事です。アイザック博士のアルゴリズムは、ワームの複雑な感覚処理や、神経活動とそれに続く筋肉の活性化を考慮しながら、同じことを行い、それをちょっとした数学的記述にまとめています。
この機械学習法は、より複雑なシステムにおいても正確で解釈可能なモデルを見つけるのに役立ちます。長期的な目標としては、定量的な仮説を立て、それを実験で検証するという科学的手順をスピードアップできる人工知能を構築することです。