・金を常温で溶かす、という珍しい実験が行われた。
・強い電界をかけ、金属表面の状態を変化させ、その様子を透過型電子顕微鏡で観察した。
金は貴金属として、数千年前から世界中で宝飾品や貨幣、美術品に使われてきました。2015年現在、186,000トン以上の金が地上に存在し、そのうち50%近くが宝飾品、20%が個人投資、20%が公的部門、10%が産業界で使用されていると言われます。
金は、延性、可鍛性、耐食性、導電性に優れていることで知られています。このような特殊な性質から、ほとんどすべてのタイプのコンピュータ機器に広く使用されています。また、歯の修復、色ガラスの生成、赤外線の遮蔽にも使用されています。
金の融点は1064℃、沸点はそれよりもずっと高く、2970℃です。このほど、スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者たちが、常温(25℃)で金を溶かすという珍しい実験を行いました。
実験の様子
高温は別として、十分な強さの電界があれば、金属表面の状態を変化させることができます。電界アシストイオン化・蒸発技術は、励起【外部からエネルギーを与えることによって、原子、分子などをより高いエネルギー状態に移すこと】と原子スケールでの観察を同時に行うことができる透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて広く研究されています。
今回、研究者らはTEMを用いて、常温で金の表面の結晶相と無秩序相が強電界により可逆的にスイッチングされる様子を明らかにしました。
研究チームは、金の微小片をTEMの下に置き、段階的に非常に高いレベルの電界を印加しました。高倍率の電界が金の原子にどのような影響を与えるかを観察するためです。
そして、顕微鏡の記録を分析したところ、興味深いことがわかりました。元素の表面層が、常温で文字通り「溶けて」いたのです。これは、金の新しい基本情報として、材料科学における刺激的な可能性を開くものです。
どのようして起こったのか?
高電界下での金の原子の様子を示すイラスト
出典:Alexander Ericson
強い電界の影響により、金の原子は励起され、完全な結晶の秩序構造を失い、互いのリンク(結合)を断ち切ったのです。分子動力学シミュレーションの結果、この構造変化は、強電界中で表面欠陥を生成する際のエネルギーコストが消失することが主な原因であることが判明しました。
研究者たちは、このプロセスをさらに検討し、溶融した構造を再び固体の金に変えることが可能であることを発見しました。また、外部電界を印加して最上層の大部分を切り離すことにより、表面層の変化を制御できることを(原子スケールで)実証しました。
応用例
このように金を溶かすことができるようになると、多くの応用が可能になります。たとえば、各種トランジスタ、触媒、センサーなどへの応用が考えられるほか、物質の低次元相や表面物理学の基礎的な研究にも役立つでしょう。