・素粒子物理学者らが全長27キロメートルの超伝導大型ハドロン衝突型加速器でキセノンイオンを衝突させた。
・その目的は、クォーク・グルーオン・プラズマ(ビッグバン直後に誕生した物質)の新たな詳細を引き出すことである。
・原子が形成される直前の物質が液体のように振る舞うことを発見した。
ビッグバン宇宙論によれば、宇宙は137億5000万年前に形成されました。この数字は、信頼度68%で、約2,100万年の不確実性があります。ビッグバンの引き金となった正確な原因はまだ解明されていませんが、インフレーション【膨張】はビッグバンのほんの数秒後に起こったと考えられています。
よく理解されていない奇妙な真空エネルギーによって、宇宙は1秒のうちに10の78乗倍に膨張しました。1秒後、宇宙は光子、電子、ニュートリノ【中性微子:素粒子の一種】、クォーク【質の基礎単位であると考えられている理論上の粒子】で構成されていました。
その後、宇宙は膨張を続けたものの、以前ほど急激ではありませんでした。10の32乗ケルビンまで冷えると、重力、電磁気力、強い力と弱い力が形成され始めました。
このたび、ニールス・ボーア研究所【コペンハーゲン大学の研究機関】の研究者たちが、国際的な研究機関であるALICE実験【A Large Ion Collider Experimentの略、高エネルギー重イオン衝突に特化した実験チーム】とともに、初期宇宙に関する既存の事実に興味深いデータを追加しました。研究チームは大型ハドロン衝突型加速器を使って実験を行い、初期宇宙の状態が流体であったことを示したのです。
宇宙の初期状態を再現する
素粒子物理学者たちは、全長27キロメートルの超伝導大型ハドロン衝突型加速器を使うとともに、衝突のために鉛イオンをキセノンイオンに置き換えました。キセノンは、原子核内の核子の数が少ない高密度の希ガスです。これらのイオンを衝突させることで、宇宙が何千億度もの高温であった初期の宇宙状態を再現することができます。
その目的は、QGP(クォーク・グルーオン・プラズマの略)、つまりビッグバン直後に誕生した物質の、新たな詳細と特性を得ることです。QGPは、クォークとグルーオンという基本粒子を含む特殊な状態です。
研究室で作られたQGPの寿命はわずか10のマイナス22乗秒で、宇宙に比べると非常に短いものです。このような極端な人工環境下では、クォークとグルーオンの密度が非常に高くなります。これによって、クォークとグルーオンが互いに強く相互作用するユニークな物質の状態(準自由状態とも呼ばれる)が形成されます。
研究チームは、グルーオンとクォークが現在宇宙で見られるような粒子に閉じ込められたときに、衝突から放出された数千個の粒子の空間分布を分析しました。これにより、流体力学的な流れとしても観測できる衝突の初期形状が明らかになったのです。衝突後に形成される粒子雲の形は、QDPの性質によって決まります。
この実験は、原子が形成される直前の原始物質が液体(流体力学で説明できる)のように振る舞っていたことを示しました。
キセノン-キセノン衝突
青い線は1回の衝突で生成された荷電粒子の軌道を示す
出典:ALICE
異方性粒子分布(特定方向の粒子数が多い)の程度は、3つの主要なパラメータを明らかにします。
1.衝突の初期形状
2.衝突する核子の状態
3.QGPのせん断粘度は、流れに対する液体の抵抗を反映し、クォーク同士がどれだけ強く結合しているかを示す。
研究チームによれば、衝突に使うイオンがキセノンであるか鉛であるかに関係なく、理論モデルは両者を同時に説明できるはずだということです。
この新しい実験によって、QGPの性質についてより多くの情報を引き出せる可能性が高まりました。将来的には、他の原子核系を衝突させる予定ですが、そのためには新しい大型ハドロン衝突型加速器のビームをさらに強化する必要があります。