・NASAの空中観測装置「SOFIA」によって、宇宙で初めて形成された分子が検出されました。
・地球から3,000光年離れた非常に若い高密度の惑星状星雲で、水酸化ヘリウムが発見されたのです。
初期段階の宇宙は、限られた種類の原子で構成されていました。ビッグバンの約10万年後にヘリウムと水素が初めて合体し、水酸化ヘリウムという分子が誕生しました。
また、ヘリウムイオンHe+とHe2+は自由電子と結合して中性原子を作った最初のイオンです。その後、水素が再結合しました。金属のない低密度の環境でヘリウムの中性原子は陽子と放射状に結合して、宇宙初の分子結合であるHeH+を作り出しました。これらのイオンが再結合するとHeH+が破壊されて、水素分子が形成される道筋ができました。
今回、科学者たちは数十年にわたる観測と研究を経て、初めて宇宙でこの分子を発見しました。彼らは、NASAの空中観測装置「SOFIA(Stratospheric Observatory for Infrared Astronomy)」を用いて天の川銀河の中に水素化ヘリウムの痕跡を発見したのです。
水酸化ヘリウム
現在の宇宙は、銀河や星、惑星などの巨大で複雑な構造で満たされています。しかし、初期の宇宙─ビッグバンから数千年しか経っていない頃の宇宙─は非常に高温で、水素とヘリウムを中心とした数種類の原子しか存在していませんでした。
これらの元素が結合して最初の分子である水酸化ヘリウムが作られると、宇宙は冷え始め、形が整っていきました。その後、水素原子がこの最初の分子と相互作用して水素分子が形成されたことで、宇宙で最初の星が誕生しました。続けて星は、今日の複雑な化学的宇宙を構成するすべての原子と分子を生み出しました。
これまで、化学の誕生の最初の段階である星間空間における水酸化ヘリウムの検出はできませんでした。
ヘリウムは希ガスであるため、他の原子と合体することはほとんどありません。しかし、1925年にある研究チームが、ヘリウム原子の電子の1つを水素イオンH+と共有させることでヘリウム水素化物の分子を実験室で作り出しました。
適切な機器を適切な位置に
1970年代後半に天文学者たちは、NGC7027と名付けられた非常に若くて密度の高い惑星状星雲を探査しました。この星雲は、地球から3,000光年離れた白鳥座にあります。探査の結果、この星雲が水酸化ヘリウムの生成に最適な環境であることがわかったのです。古い星からの紫外線と熱が、この謎の分子が形成されるのに適した条件を作り出しているのです。
しかし、宇宙望遠鏡には、惑星状星雲の中で水素化ヘリウムの兆候をとらえ、他の分子と区別する技術がありません。研究者たちがSOFIAを使って地球の大気上の観測を行ったのはこのためです。
SOFIAは2.7メートルの反射望遠鏡を搭載するために特別に設計されたボーイング747SP型機で、4万5000フィートの成層圏を飛行しながら観測を行うことができます。これにより、地球の赤外線大気からの干渉を99%遮断し、太陽系内外の探査を効率的に行うことが可能となっています。
宇宙望遠鏡と異なりSOFIAは飛行後に地上に戻ってくるため、機器や技術を定期的に更新することができます。この柔軟性のおかげで、研究者はより優れた観測を行い、数十年来の謎を解き明かすことができたのです。
SOFIAに搭載されたGREAT(German Receiver at Terahertz Frequencies)と呼ばれる装置には、既存の宇宙望遠鏡では利用できない水酸化ヘリウムのチャンネルが追加されました。
研究者たちは、ラジオを正しい局に合わせるように装置を水素化ヘリウムの周波数に合わせ、リアルタイムでデータを記録しました。その結果、明瞭に信号が伝わるようになり、若い宇宙の根本的な化学反応を理解することができました。