・Googleが、癌をリアルタイムで検出する拡張現実顕微鏡を構築。
・機械学習アルゴリズムとヘッドアップディスプレイを組み合わせた顕微鏡。
・デジタル投影は、医師をサポートするために、元の検査サンプルの画像に直接重ね合わせることができる。
医療技術はここ数十年で飛躍的に進歩しましたが、癌の診断はいまだに面倒で時間のかかるプロセスです。医療検査のほとんどの場面で、解剖学的病理学における癌診断の判断基準である光学顕微鏡検査に頼っています。様々な検査サンプルや染色に対応し、1世紀以上にわたって効果を発揮してきたものです。
この度、Googleの研究者たちが、乳癌や、前立腺癌、その他の種類の癌を検出するためにディープラーニング技術を使用する、代替(あるいは、より良いとも言える)アプローチを開発しました。
病理学、皮膚科学、放射線医学などの医療分野では、すでにディープラーニングが活用されており、これまでのところ、スピードと精度の両面で有望な結果が得られています。今回、Googleの研究者たちは、病理医向けのAIツールの導入を加速させることができる拡張現実(AR)顕微鏡のプロトタイプを開発しました。
拡張現実顕微鏡とは?
光学顕微鏡を改良したもので、医師が画像やサンプルをリアルタイムで分析し、機械学習アルゴリズムがその結果を視野に提示します。専用のシステムを購入する必要がなく、医療施設にある既存の顕微鏡に(低価格のモジュールを使って)組み込むことができるのが最大の特徴です。
従来の顕微鏡で機械学習アルゴリズムを実現するためには、3つの新しい技術を組み合わせる必要があります:
1.正確な検出と分類のための畳み込みネットワーク。
2.リアルタイムでアルゴリズムを実装し、より良いインタラクティブなユーザー体験を実現する緊密な統合ソフトウェア/ハードウェア。
3.高解像度データを投影するための顕微鏡内の視差のないヘッドアップディスプレイ【人間の視野に直接情報を映し出す手段】。
従来の顕微鏡のように、医師は接眼レンズで検査サンプルを観察します。そして、アルゴリズムがその結果をリアルタイムで観察経路に投影します。このデジタル投影は、医師をサポートするために、元の検査サンプルの画像に直接重ね合わせることができます。
模式図と実装
画像出典:Google
現在のシステムは10fps(フレーム毎秒)で動作しています。TensoreFlow【Googleが開発した、機械学習に用いるためのソフトウェアライブラリ】で開発されたような最新のディープラーニングモデルや高度な計算モジュールにより、様々な学習済みモデルを拡張現実顕微鏡上で動作させることが可能になります。
ヒートマップ、矢印、テキスト、アニメーションなど、数多くの役立つビジュアルフィードバックを提供します。また、ターゲットの検出、分類、定量化といった様々な課題を解決するために、異なるAIアルゴリズムを実行することができます。
これまでに、研究者たちは、このプラットフォームを使って、2種類の癌を検出するアルゴリズムを実行しました。一方は前立腺癌を検出するように設定され、もう一方は乳がんを検出するように設定されました。
結果
4倍、10倍、20倍での前立腺癌の検出。
このプラットフォームは、閲覧サンプルを最大40倍まで拡大し、腫瘍の領域(緑の輪郭)を強調することができます。どちらの機械学習アルゴリズムもサンプル画像で学習させたところ、拡張現実顕微鏡上で非常に優れたパフォーマンスを発揮しました。
具体的には、前立腺癌、乳癌を検出するアルゴリズムを拡張現実顕微鏡で実行したところ、それぞれ0.96、0.98の曲線の下の面積を得ることができました。
【曲線の下の面積:統計学/機械学習において、(基本的に)二値分類のタスク(問題)に対する評価指標の一つで、「ROC曲線(受信者操作特性曲線)の下の面積」を意味する】
次の課題は?
開発者によると、トレーニング段階でより多くのデジタル画像を導入したり、拡張現実顕微鏡本体から直接撮影した画像を導入したりすることで、さらに性能を向上させることができるそうです。
さらに、この技術は医療分野、特に発展途上国のマラリアや結核などの感染症診断に大きな影響を与える可能性を秘めています。今後、拡張現実顕微鏡は、デジタルワークフローとともに、様々な用途に活用される可能性があります。