海王星は、太陽系の中でおそらくもっとも魅力的な惑星だと言えるでしょう。なぜなら、この惑星についてはまだほとんど知られていないからです。非常に遠く離れているため、探査機がこの惑星を訪れたことは過去に一度しかありません。
今日知られている中で最古の海王星の観測記録は、1612年12月28日にさかのぼります。ガリレオ・ガリレイの描いた絵の中で、現在海王星が位置すると分かっている場所にマークがつけられているのです。しかし、ガリレオは当時これを夜空の恒星だと勘違いしていました。その後、ユルバン・ルヴェリエとジョン・クーチ・アダムズが、1845~1846年に初めて海王星の存在を予測し、その位置を独自の計算で割り出しました。
この記事では、海王星にまつわる14の事実をご紹介します。あなたもきっと、海王星にについてもっと知りたくなるはずです。
海王星のプロフィール
発見された時期:1846年9月23日
赤道直径:49,244 km
質量:1.02413×1026 kg
密度:1.683 g/cm
表面重力:11.15 m/s²
衛星の数:14個
14. 海王星は太陽から最も離れた惑星
太陽系の外惑星/画像提供: Wikimedia Commons
1846年に発見された後、海王星は太陽系の中で太陽からもっとも離れた惑星とされました。1930年に、冥王星が新しく発見されたことによってその地位を明け渡すことになりましたが、とはいえ完全に地位を奪われたわけではありませんでした。
ご存じかもしれませんが、冥王星は極端な楕円形の軌道を描いているため、周期的に海王星よりも太陽に近づくことがあるのです。最近で言うと、1979年に海王星が冥王星よりも太陽から遠ざかり、その後1999年までその状態が続きました。その間、海王星が太陽系の中で一番遠い惑星だったのです。
このストーリーには、2006年に意外な展開が待っていました。国際天文学連合(IAU)によって、冥王星は準惑星に格下げとなり、海王星が太陽からもっとも遠い惑星に再び返り咲いたのです。
13. 太陽系の中でもっとも寒い惑星ではない
海王星の外気は、太陽系の中でもかなり温度の低い場所のひとつで、気温は55K(-218℃)にもなります。しかし、太陽から一番離れた惑星であるにもかかわらず、太陽系でもっとも寒いというわけではありません。もっとも寒い惑星は天王星。その気温は49K(-224℃)にまで達します。これら2つの惑星の表面温度はほぼ同じですが、海王星の対流圏の上層部は、天王星のそれと比べて気温が高くなっています。このような矛盾が起きるのは、海王星のほうが内部加熱の温度が高いためです。
天王星は、海王星よりも10億km太陽に近いにもかかわらず、太陽から受ける熱の1.1倍の熱しか放射しません(この理由は未だに謎のままです。)。一方の海王星は、太陽から受ける熱の2.61倍もの熱を放射しています。太陽系で一番離れた惑星でありながら、海王星は太陽系の中でもっとも速く強力な風を起こせるほどの内部エネルギーを持っています。
12. 海王星には月がいくつある?
海王星の周りを回っているのが確認されている天然衛星は、全部で14個。そのすべてに、ギリシャ神話に登場する水の神にちなんだ名前がつけられています。海王星が海の神を意味するためです。
海王星の月の中でも最大で、もっともよく知られているのがトリトン(土星の月、タイタンと混同しないよう注意。)です。海王星の発見からちょうど17日後の1846年10月10日、イギリスの天文学者ウィリアム・ラッセルが発見しました。同じく月であるネレイドは、太陽系の天然衛星の中でも、特に楕円形の軌道を描く衛星のひとつです。
海王星系の月の中で、トリトンに次いで大きいのがプロテウス。しかし、それでも質量はトリトンの0.25%しかありません。プロテウスの特筆すべき点は、それ自体の重力に引っ張られて球体になるほどの大きさにもかかわらず、不規則な形をしているということです。この衛星は、もっとも内側にあるほかの4つの月と共に、ボイジャー2号によって1989年に発見されました。
11. 海王星にも環がある
超高感度で撮影された海王星の環の全景/画像提供:NASA
土星の環ほど大きくはないものの、ほかの3つのガスジャイアント(巨大ガス惑星)と同様に、海王星にも完全な環があります。海王星の環は、5つの主要な環で構成されており、ラ・シヤ天文台の天文学者チームがこれらすべての環を1984年に初めて発見しました。
この環は非常に暗く、主にちりや小さな岩からできています。ちりの割合は20%から70%にものぼり、その密度は木星の環のそれに匹敵します。
研究結果によれば、海王星の環は太陽系の誕生よりもはるかに後になってできたもので、かつて存在していた衛星が衝突したことにより生まれたのではないかと言われています。
地球上の望遠鏡から観測したところによると、海王星の環は非常に不安定です。2002~2003年にW.M.ケック天文台から撮影した映像と、ボイジャー2号が撮影したデータを比較したところ、海王星の環がかなり崩壊していることが明らかになりました。今後100年のうちに、海王星の環のひとつは消滅するものとみられています。
10. トリトンは捕らえられた月である可能性が高い
ボイジャー2号が海王星に最接近する数日前に撮影された、
海王星とその最大の衛星トリトンの画像
トリトンは、太陽系内に存在する大型の天然衛星の中で唯一、逆行軌道を有しています。つまり、海王星のほかの月とは逆方向に公転するのです。この現象を説明するもっとも有力な説は、トリトンの起源が海王星のほかの月とはまったく異なり、海王星の歴史のどこかの時点でこの惑星に捕らえられたのではないか、というものです。
この説は、海王星の衛星系の質量の割合が不均等であることからも裏付けられています。すなわち、最大の月であるトリトンが衛星全体の質量の99%以上を占め、残りの衛星はわずか0.3%しかありません。土星の衛星系も同様に、質量の割合が偏っています。
この偏りは、海王星の原始衛星系が形成された後に、トリトンが海王星に捕獲されたことを示しています。また、捕獲の過程で、原始衛星系の大部分は破壊されてしまったようです。
9. トリトンは新しい環になる可能性が高い
トリトンの自転は公転周期と同期しており(これを潮汐固定といいます)、常に同じ面を海王星に向けています。この大規模な潮汐力によって、トリトンの軌道は徐々に海王星に近づいており、今後もさらに変化していくでしょう。現時点で、トリトンはすでに地球と月との距離よりも海王星に近づいています。
予測では、今から36億年後にはトリトンは海王星のロッシュ限界より内側を通るようになります。これにより、トリトンは粉砕されて、海王星の周りの新たな環となるだろうと言われています。
8. 海王星に一度だけ訪問者があった
アーティストによるボイジャー2号のイメージ図
NASAのボイジャー2号は、この遠く離れた惑星を訪れた唯一の探査機です。長い間、研究者たちは地上の望遠鏡から、海王星と特に大きな2つの月とを観測してきましたが、ボイジャー2号による調査以降、この惑星をより詳細かつ正確に観測できるようになりました。
海王星系に滞在していた間、ボイジャー2号は、惑星の上層大気や磁気圏に関する貴重なデータを数多く採取し、それまで知られていなかった環の存在の発見に貢献しました。ボイジャー2号が集めたデータの多くは、宇宙望遠鏡が開発された現在においてもなお、海王星に関するもっとも有益な情報とされています。
ボイジャー2号は、この惑星の周りに磁場が存在することを確認し、さらにその磁場が天王星のそれと同じく傾いていて、海王星の中心からずれていることを発見しました。また、電波信号を用いて海王星に活発な気象パターンが存在することを発見し、自転周期を特定することにも成功しました。
それだけでなく、ボイジャー2号のおかげで研究者たちは海王星の質量をより正確に特定することができ、それまでの予想よりも0.5%少ないことが明らかになりました。
7. 海王星はガスジャイアントの中でもっとも小さい
太陽系の4つの外惑星は、ガスジャイアント(巨大ガス惑星)と呼ばれています。水素やヘリウム、さらに海王星の場合はそれに加えて窒素と炭化水素といったガスでできているためです。ガスジャイアントの中でもっとも大きいのが木星であることは疑いようもありませんが(木星は太陽系最大の惑星でもあります)、ほかの外惑星の中でもっとも小さい惑星を知っていますか?答えは、海王星です。
海王星の赤道直径はわずか24,244km。天王星も含めたすべてのガスジャイアントの中でもっとも小さいのです。興味深いことに、質量に関しては、実は海王星のほうが天王星よりも大きく、そのためほぼ双子の惑星である天王星よりもわずかに密度が高くなっています。実際、海王星はガスジャイアントの中でもっとも密度の高い惑星でもあります(1.638 g/cm3)。
6. 海王星には太陽系でもっとも強い風が吹いている
海王星の高層雲(ボイジャー2号が海王星に最接近する直前に撮影された画像)
天王星の大気がぼんやりとしてほとんど特徴がないのに対し、海王星のそれはダイナミックで、明らかな気象パターンが存在します。この気象パターンは時速1,300マイル(2,100km)に達する暴風によって引き起こされるもので、これは太陽系全体で見ても、もっとも強い風であると言えます。
研究者たちが、雲や至るところで吹いている風を注意深く分析した結果、海王星の風速に明らかな地域差を発見することができました。たとえば雲の最頂部では、赤道付近の平均風速は秒速400mであるのに対し、極付近では秒速250mです。
海王星では、自転と逆方向に風が吹くことが大半で、西へ向かって吹く風(秒速325m)は、東へ向かって吹く風(秒速20m)より16倍も強力です。
5. 大暗斑の謎めいた物語
ボイジャー2号が接近した際の海王星の大暗斑(上)と他の2つの活発な嵐
1989年、ボイジャー2号は接近飛行中に、海王星上に巨大な高気圧の嵐が発生しているのを発見しました。その後、その嵐は大暗斑(GDS)と名付けられました。しかし、1994年にハッブル宇宙望遠鏡が海王星を撮影した際には、不思議なことに大暗斑が消えていたのです。
その大暗斑は、大体地球と同じくらいの大きさでした。木星の大赤斑と類似していますが、違うのは、大暗斑のほうが内部の雲が少なく、寿命が短いという点でした。
2016年に再び海王星を撮影した際、今度は北半球に大暗斑とそっくりな暗斑が現れており、この新しい暗斑は北大暗斑(NGDS)と名付けられました。
研究者たちは、大暗斑やほかの消えてしまった暗斑が、黒く見えなくなった後も低気圧として存在している可能性はかなり低いと考えています。これらの暗斑は、赤道に近づきすぎると消えてしまうのでしょう。
そのほかの基本データ
4. 海王星の大気は、80%が水素、19%がヘリウムで、加えて微量のメタンも含まれています。海王星が青く見えるのは、天王星と同様に、大気中のメタンが太陽光を吸収しているためです。
ところが、ご覧になると分かるとおり、海王星が鮮やかな青色であるのに対して、天王星はやわらかいシアン色です。しかし、どちらの惑星も大気中に含まれるメタン物質はほぼ同じであることから、研究者たちは、海王星の大気には未知の物質が含まれていて、それがこの惑星を鮮やかな青色に見せているのだと考えています。
海王星と4つの月を近赤外線とカラーで撮影し合成したもの
/画像提供:NASA, 宇宙望遠鏡科学研究所
3. 海王星の衛星トリトンは、太陽系の中でも地質学的に特に活発な5つの天然衛星のうちのひとつです。ほかには、土星のタイタンとエンケラドゥス、木星のイオとエウロパが挙げられます。さらに、トリトンは海王星の月の中で特に大きいため、静水圧平衡の状態にある唯一の衛星でもあります。
2. ボイジャー2号以来、今日に至るまで海王星に接近した探査機はほかにありません。しかし、近い将来にこの惑星を調査する宇宙ミッションがいくつか提案されています。その中のひとつがNASAの宇宙船「アルゴ」です。アルゴは木星、土星、海王星、そしてその月であるトリトンに接近し、その後カイパーベルト天体の調査に向かうことが計画されています。
構想中のもうひとつのミッションが「トライデント」で、これは2038年までに木星と海王星に接近飛行するという計画です。トライデントは主にトリトンに焦点を当てたミッションで、トリトンで起こっている火山活動を詳細に調査し、海洋生命が存在していた証拠を集める予定です。
1. ボイジャー2号が撮影したデータによって大暗斑を調べていた際、研究者たちは大暗斑のはるか南方に、新しい低気圧の嵐を発見しました。観測したとき、この低気圧は大暗斑よりもずっと速い速度で動いていました。また、サイズが小さく、黒い大暗斑とは違って白い雲でできていることが特徴的でした。これらの特徴から、この嵐はスクーターと名付けられました。