・天の川銀河の中心付近、わずか6光年の範囲に1万~2万個のブラックホールが存在するという研究結果が発表された。
・天体物理学者がチャンドラX線観測衛星のデータを使って検証した。
・わずか3光年以内に12個のブラックホールを発見した。
コロンビア大学の天体物理学者らは、天の川銀河の超巨大ブラックホールである「いて座A」の近くに位置する12の新しいブラックホールを発見しました。これまでの研究では、ほとんどの銀河の中心に存在する超巨大ブラックホールは、いくつかの小さなブラックホールに囲まれている可能性があるとされていました。しかし、この考え方は今まで証明されていませんでした。
これまでに、10万光年幅の銀河の中に30個近くのブラックホールが検出されています。今回の研究では、わずか6光年の領域に1万~2万個のブラックホールが存在するはずだということです。
いて座Aは地球に最も近い超巨大ブラックホールであるため、観測しやすく、その周辺では数多くの発見がなされてきました。この記事では、最新の研究成果と、その結論に至った経緯を解説しています。それでは、さっそく宇宙の深層を探ってみましょう。
いて座A付近のブラックホール
いて座Aは、塵やガスのハロー【星の集まりおよびその周辺の光を発する物質から構成される薄い円盤状の構造】に囲まれており、巨大な星が誕生するのに最適な環境です。これらの星はそこで長い年月を過ごし、やがて死んでブラックホールとなります。
超巨大ブラックホールは、ハローの外に存在するブラックホールにも影響を与え、エネルギーを失ったブラックホールをハローの方に引き寄せます。そして、超巨大ブラックホールの力によって、これらのブラックホールは捕えられます。捕えられたブラックホールは、近くの恒星と結合して恒星連星を作るものもあれば、孤立したままのものもあります。
出典:Interstellar / R. Hurt / Caltech
研究者によると、このように結合されて孤立したブラックホールは、銀河系中心部に大量に存在しています。これらは、超巨大ブラックホールまでの距離が短くなるにつれて、さらに濃密な密度カスプを作り出しています。
今回、天体物理学者は、いて座Aからわずか3光年の範囲内に、合計12個のブラックホールを発見しました。また、検出された連星系の空間分布や性質を解析した結果、いて座Aの近くには、孤立したブラックホールが約1万個、低質量の連星が約500個存在するはずだと結論づけました。
ブラックホールをどうやって見つけたのか?
この数十年の間、研究者たちはこのようなカスプ【三日月のように欠けて見える天体の上端または下端】を見つけようと何度も試みたのですが、良い結果が得られませんでした。おそらく、X線ブライトバーストという、伴星の物質がブラックホールに流れ込む際に生じる特定の事象を探していたのだと思います。
銀河系中心部は太陽系から2万4000光年以上離れているため、バースト【爆発】を見るのは非常に困難です。実際、1,000年に一度、あるいはそれ以下の頻度でしか見ることができません。そこで研究者たちは、明るいバーストを探す代わりに、不活性なブラックホール連星が出す、弱いけれども安定したX線に注目することにしたのです。
ブラックホール連星は、中性子星連星と違って大きなバーストを出さないため、観測が困難です。さらに、光を発しない孤立したブラックホールを見つけることもできません。
チャンドラによる銀河系中心部の2~8 keV画像とX線源
それでも、ブラックホールが質量の小さい星を飲み込むと、より微弱ですが安定したX線バーストが放出され、それは検出可能です。ですから、低質量星と結合したブラックホールの総数を特定すれば、孤立したブラックホールの母集団を知ることができるのです。
研究チームは、チャンドラX線観測衛星のデータを使って、この方法を検証しました。低質量連星(不活性な状態にある)のX線シグネチャを探し、12個のブラックホールを検出することができました。この情報は、天体物理学者がブラックホールに関連する重力波の発生数を正確に予測するのに役立つことになります。