• 最新の研究で、光合成の起源が約12億5,000万年前にはすでに始まっていたことが明らかになった。
• 過去の研究では7,000~1億2,000万年前に始まったものとされていた。
• 研究者たちは糸状多細胞紅藻(Bangiomorpha pubescens)の化石の年代をを分子時計に組み入れることで、葉緑体が作られた時期を正確に測定することに成功した。
光合成は、地球の歴史上のかなり早い時期に進化していました。生物が放出するガスによって、生物になくてはならない日光の条件が変化し、生物は新しい色を作りだす必要があったのです。光合成の一部の過程はまだ完全には明らかになっていないものの、全体的な方程式は19世紀に解明されています。
カナダのマギル大学の地球科学者が行った最新の調査で、地球上でもっとも古い藻類の化石は10億年前のものであることが分かりました。今日の植物が行っている光合成の起源は、およそ12億5,000万年前に始まったものと地球科学者は推定しました。以前の研究では7,000~1億2,000万年前に始まったものとされていたので、それよりさらに古い時代から始まっていたことになります。
この発見によって、1990年にカナダの北極圏で最初に見つかった糸状多細胞紅藻(Bangiomorpha pubescens)という藻類の化石にまつわる長年の謎が解明できるかもしれません。この藻類は今日存在する動物や植物の直接の祖先として知られる最古の生命ですが、それが生きていた年代は歴史学的にも分類学的にも十分に解明されていなかったのです。
地球の歴史の「退屈な10億年」としばしば言い表される期間は、実はまったく退屈ではなかったのかもしれません。それどころか、これまで考えられていたよりずっと活動的な期間であった可能性があります。
18億年前から8億年前の昔、バクテリアや古細菌をはじめ、今では絶滅してしまったさまざまな生物が、小さな生物学的変化を繰り返しながら海中で活動していました。この時代が、後のより複雑な生命体の増殖の基礎を形作ったものと考えられ、541万年前の「カンブリア爆発」でその増殖はピークに達しました。
化石の正確な年代が判明
化石の正確な年代を測定するために、研究者たちは、遠く離れたバフィン島のでこぼこした荒れ地の調査を行いました。そこは糸状多細胞紅藻の化石が見つかった地域なのです。彼らは藻類の化石でできた岩の層から、黒い頁岩のサンプルを集めました。
そして、「レニウム-オスミウム年代決定法」(同位体であるレニウムからオスミウムへ変化するベータ崩壊を利用した年代測定法の一種)を用いて、その岩が10億4,700万年前のものであることを明らかにしたのです。これは、それまで考えられていたよりも1億5,000万年も若いという結果でした。
この発見によって、研究者たちが真核生物の進化の初期段階をより正確に判断することができるようになりました。真核生物とは、細胞の中に膜に包まれた細胞核やその他の細胞小器官を有する生物(動物や植物もこれに含まれます)のことをいいます。真核生物は、単細胞生物と多細胞生物とに分かれています。
糸状多細胞紅藻(Bangiomorpha pubescens)/引用: ResearchGate
糸状多細胞紅藻は現在の紅藻類と非常に似ていているため、これまで緑色植物をはじめとする古代の藻類は、日光を利用して水と二酸化炭素から栄養分を合成していたのだろうと考えられていました。葉緑体(植物や藻類の細胞内にある特殊な器官)は、はるか昔に真核生物が光合成細菌を取り込んだことにより形成されたことが分かっています。
それ以来、葉緑体のDNAは木や植物といった子孫に伝わり続け、現在の生物資源のほとんどを生み出しているのです。
葉緑体の起源
化石の年代が判明した後、研究者たちはそのデータを分子時計(生体分子の突然変異率を利用したコンピュータモデル)に組み入れ、2つ以上の生命体が分岐した年代の測定を行いました。
すると、葉緑体が真核生物に取り込まれたのは約12億5,000万年前であることが判明しました。原始の植物細胞小器官が内部共生を始めた年代が判明したことは、初期の真核生物の化石記録や、真核生物が原生代において果たしていた役割を考察するうえでの基準になると考えられます。
研究チームは、ほかの研究者たちがこのデータを自身の分子時計に用いて歴史上の重要な出来事の時期を測定すれば、その結果を相互検証することができるのではないかと期待しています。