・新手法により、重い光学部品を追加せずに3Dディスプレイの視覚的な歪みを除去することが可能になった。
・空間内に鮮明な3D画像を生成するため、AR用途に適している。
私たちは、キーボードや2Dタッチパネルを使ってデジタルコンテンツに触れることがほとんどです。しかし、VR(Virtual Reality【仮想現実】)やAR(Augmented Reality【拡張現実】)のような技術は、こうした制約からの解放を約束するものとなっています。
VR機器やAR機器には、立体視【物体を立体的に見る機能】を前提とした設計のため、眼精疲労やめまい、乗り物酔いを起こしやすいというデメリットがあります。また、長時間使用すると、吐き気や歪みを感じることがあり、これはVR酔いと呼ばれます。
こういった制限を打開するために、ベルギーと日本の研究者たちが、ホログラフィー【3次元像を記録した写真であるホログラムの製造技術】とライトフィールド技術【物質から反射する光をディスプレイ上で再現することで、立体視を実現する技術】を組み合わせた技術の開発に着手しました。ホログラフィーとライトフィールド技術を組み合わせることで、新たな機器を必要とするものの、商業的な成功を収めるために、サイズとコストを低く抑えることに努めました。
どのように機能するのか?
物体の特徴(大きさ、色、質感、高さ、距離など)は、物体から異なる方向に異なる強度で散乱する光によって定義されます。人間の目は、これらの変調された光線を見て、脳に信号を送り、脳内でそれらの特徴的な特徴が再現されます。
ホログラフィーやライトフィールドディスプレイのような真の3Dディスプレイは、実際の物体がなくても同じように変調した光線を生成することができます。しかし、物体の特徴をすべて正確に再現することは、高価なプロセスです。
そのため、研究チームはまず必要な変調を計算し、LCD【液晶ディスプレイ】を使ってそのデータを光信号に変換します。この信号はさらに、ビームコンバイナー【結合器】、ミラー、レンズなど他の光学機器に送られます。
研究チームは、複数の光学モジュールのジョブを複製することができる、感光素子の薄い層を持つホログラフィック光学素子を開発しました。ディスプレイの品質や性能を左右するものは、ほとんどがガラスでできています。
複数の光学要素を一度に記録・印刷するために、研究チームはDigitally Designed Holographic Optical Element(略称:DDHOE【任意の反射分布特性を持つ光学素子】)という方法を開発しました。この方法では、実際の光学要素がそこに物理的に存在する必要がなく、異なる光学要素のすべての特性を記録することができます。
基本的には、すべての要素の特徴のホログラムを測定し、レーザーとLCDを使用して光学的に一緒に再現することを目的としています。最終的な光信号は、実際のすべての要素が一緒に変調した同じ光に似ています。記録されたホログラムは、最終的に薄いシート状の感光材料に投影されます。
(a) DDHOEレンズアレイ【レンズを連続して配置した光学素子】、
(c) コンピュータが生成した3Dシーン、(d) 最終3D画像
出典:Boaz Jessie Jackin
研究チームはすでに、この技術をヘッドアップライトフィールド型3Dディスプレイでテストしています。3D画像や3D動画を出力するシースルーシステムであるため、この技術はARにおいて様々な応用が期待できます。
ガラス(マイクロレンズアレイフィルム)上に多視点画像を表示するために、このシステムでは従来の2Dプロジェクターを使用します。この薄膜がプロジェクターから届く光を変調させ、空間に3Dで映像を再現します。
他の方法との違いは?
従来の技術では、プロジェクターからの光はマイクロレンズアレイに当たる前に散乱します。このため、最終的な3D画像が空間的に歪んでしまいます。これを解決するには、プロジェクターの光を平行ビームに視準を合わせる必要があります。
しかし、ディスプレイを大きくしたい場合は、コリメータレンズ【平行光を得られるように収差補正されたレンズ】のサイズを大きくする必要があり、部品のコストが高くなります。このことが、この技術が商業的に成功していない主な理由です。
一方、新方式では、DDHOEで作製することで、マイクロレンズアレイ自体にコリメーション【レンズなどを用いて平行光線束を得る】機能を搭載しています。これにより、重量のあるコリメーション用光学部品が不要になります。研究チームは、この技術が、かさばる光学部品を使用する既存のモデルに取って代わる日は近いと信じています。