・科学者たちは、知能に関する1,016個の特定遺伝子と205個のDNA領域を特定しました。
・本研究により、認知機能の神経生物学、および遺伝的な精神疾患や神経疾患について理解が深まります。
問題解決能力、言語習得、空間操作などを構成要素とする知能は、「遺伝子研究」の最前線にあります。科学者たちは通常、知能は心理テストで測定し把握できると考えています。現時点では、遺伝子と環境がどう相互作用して賢い判断力を生み出すのか、なぜ20世紀において世界的に平均IQが上昇したのか、分かっていません。
最近、国際的な研究チームが、人間の知能と脳の機能を解明するために、2つの異なる研究を大規模に行いました。その結果、知能に関連する939の新しい遺伝子と190の新しい遺伝子座(染色体上に固定された場所)を発見したのです。
本研究は、知能に関連する40の新しい遺伝子が特定された先行研究(2017年)に基づいています。これらの遺伝子は、脳組織で優位に発現しており、パスウェイ解析によって、細胞の発達を制御する遺伝子の関与が示されています。今回、新たに行われた事象を確認してみましょう。
最初の研究
科学者たちは、神経認知テストに参加した269,867人(ヨーロッパの14団体)を対象に、ゲノムワイド関連メタ分析を行いました。参加者の知能を測定し、一塩基多型として知られるDNAの遺伝子変異とスコアを照合しました。このようにして、科学者たちは、どのような変異が高い知能に結びつくかを観察したのです。
研究チームは、与えられたサンプルから900万個以上の変異を検出し、その中から知能に関連する1,016個の特定の遺伝子と205個のDNA領域を特定しました。この1,016個の特定遺伝子のうち、77個はすでに過去の研究で確認されていたものです。
また、知能の高さと寿命の長さには直接的な関係があることも発見されました。頭を良くする遺伝子は、アルツハイマー病、多動性障害、統合失調症、鬱症状などを防ぐことができます。
しかし、これらの遺伝子は、反復行動・社会性の欠如・言語および非言語的コミュニケーションを含む自閉症スペクトラム障害事例を増やす要因となっています。
当研究は、認知機能の神経生物学や、遺伝的な精神疾患や神経疾患に関する知識を深めるものです。
二度目の研究
今回の研究では、449,484人を対象に、再度大規模なゲノムワイド関連メタ解析を行ったところ、136の独立したゲノムワイドに有意な遺伝子座が検出され(うち12は以前から検出されていたもの)、599の遺伝子が関与していることがわかりました。
これらの遺伝子は、心理学においてビッグファイブと呼ばれる性格特性の1つである神経症と関連しており、不安・うつ・統合失調症などの症状の原因を解明するための大きな一歩となります。
機能解析の結果、脳のさまざまな部位に存在し、セロトニン作動性神経細胞、中棘神経細胞、ドーパミン作動性神経芽細胞など、特定の種類の細胞が関与していることがわかりました。さらに、遺伝子セット解析により、神経発生・コカインプロセスに対する行動反応・軸索部といった3つの特定の経路が関与していることもわかりました。
研究チームは、神経症の遺伝的シグナルが、「心配性」「抑うつ感情」という2つの異なるサブクラスターに部分的に由来することも示しました。メンデルランダム化法による解析では、神経症とさまざまな精神疾患の特性との間に、一方向性および双方向性の影響があることが示されました。
本研究は、神経症の神経生物学、そのサブタイプ、および遺伝的に関連する形質を解明するための新たな手がかりと検証可能な機能仮説を提供するものです。
また、研究チームは、MAGMAと呼ばれる新たに構築された統計手法を用いて、遺伝子すべての一塩基多型に基づいて集合的な関連性を推定したと報告しています。つまり、遺伝子データと脳の特定の部位との関連付けに役立つということを示しています。