化学の世界では、「塩基」は、水や水溶液に溶けたときに水酸化物イオン(OH-)を放出する物質のことです。多くの塩基は水酸化物イオンを持っているわけではないのですが、水とともに処理すると大量のOH-を発生します。アンモニアを水で処理してアンモニウムと水酸化物を生成すると、このような反応が見られます。
また、塩基は物理的にも特徴的な性質を持っています。たとえば味は苦く(酸は酸っぱい)、触るとヌルッとした感触があります。
塩基はきわめて重要なもので、特定の産業において必要不可欠な成分です。紙、石鹸、合成レーヨン、漂白剤、酸中和剤などの製造に使われています。一般的には、「塩基」と「酸」は対極にある化学物質と考えられていますが、特定の条件下では塩基と同じように振る舞うことができる酸もいくつか知られています。
塩基にも、酸と同じように強いものと弱いものがあります。強塩基は、水に完全に分解して(解離して)水酸化物イオンを生成する化合物です。
強塩基の代表例としては、NaOH(水酸化ナトリウム)、Ca(OH)2(水酸化カルシウム)などがあります。一方、弱塩基は、ある程度しか水中に解離しません。
超強塩基とは?
超強塩基は、プロトン【水素原子の陽イオン】に対する親和性が極めて高く、水素イオンよりも強い化合物です。超塩基は有機合成を行うために使用され、物理有機化学の重要な要素です。
超強塩基という言葉は新しいものではなく、1世紀半以上前から使われています。超強塩基は水や二酸化炭素と接触すると激しく反応するため、化学反応を行うには特殊な溶媒が必要です。超強塩基は有機系、無機系、有機金属系の3種類に分類されます。
この記事では、地球上で最も強い10種類の塩基を紹介します。
10. 水酸化リチウム
化学式:LiOH
水酸化リチウムは白色の結晶体(無水状態)で、水への溶解度が高く、腐食性があり、アルカリ金属の水酸化物の中で最も弱い物質です。水酸化リチウムは、水酸化カルシウムと炭酸リチウムの塩メタセシス反応を誘起して生成されます。
Li2CO3 + Ca(OH)2 → 2 LiOH + CaCO3
リチウム石鹼の製造には、大量のLiOHが使用されます。また、水酸化リチウムの重要な用途として、潜水艦や宇宙船の換気装置で、水と炭酸リチウムを作って二酸化炭素を打ち消すことが行われています。
2 LiOH + CO2 → Li2CO3 + H2O
その他、原子炉(加圧水型)の腐食対策や、電池の電解質としても使用されています。
9. 水酸化ナトリウム
電解法(塩素アルカリ電解)の実用模型
化学式:NaOH
水酸化ナトリウム(別名、苛性ソーダ)は、ナトリウム陽イオンNa+と水酸化物陰イオンOH-を持つイオン性化合物です。NaOHは非常に腐食性が強いことで知られ、特に常温ではタンパク質を素早く分解します。また、空気中の二酸化炭素や水分を引き寄せる(吸着する)性質があります。
水酸化ナトリウムは、製紙業の化学パルプに多く使用されています。その他の用途としては、石鹸や洗剤の製造、生食品加工、セメント製造、水のpH値を中和する水処理施設などが挙げられます。また、石油産業では、酸の中和や溶液のアルカリ度を上げるために随時使用されています。
昔は、水酸化カルシウムを炭酸ナトリウムで処理することでNaOHを製造していました。19世紀になると、NaOHの代わりに安価な炭酸ナトリウムを製造するソルベー法に取って代わられました。現在、工業用水酸化ナトリウムのほとんどは電解法で製造されています。
8. 水酸化カリウム
水酸化カリウム
化学式:KOH
水酸化カリウム(別名、苛性カリ)は、腐食性が強いことで知られる白色の固体物質です。水酸化ナトリウムと同様に無色(市販のものは白色)で、典型的な強塩基です。
水酸化カリウムと水酸化ナトリウムは様々な用途に使い分けられますが、ほとんどの産業で用いられるのは、より安価である水酸化ナトリウムの方です。ともあれ、水酸化カリウムは、バイオディーゼル燃料の製造、石鹸の製造、一部の電池の電解質として使用されています。
純粋な水酸化カリウムは、水酸化ナトリウムと劣化した、あるいは不純物の多いカリウムを反応させることで製造されます。この化合物は潜在的に危険であり、2%以上の濃度になると皮膚に火傷を負わせます。0.5%から2%の間でも、重度の炎症を引き起こす可能性があります。
7. リチウムビス(トリメチルシリル)アミド
化学式:C6H18LiNSi2
リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、略してLiHMDSは、非求核性超塩基で、実験室での重要な用途に使われます。他のリチウム塩基試薬と同様に、同じ物質の3つのイオンが結合してできるアニオンであるトリマーと環状化合物を形成することができます。LiHMDSは通常、ビス(トリメチルシリル)アミンとブチルリチウムを反応させることで調製されます。
HN(SiMe3)2 + C4H9Li → LiN(SiMe3)2 + C4H10
6. 水素化ナトリウム
化学式:NaH
水素化ナトリウムは、アンモニアや水とは異なり、塩のような形で存在する塩類・イオン性水素化物(Na+とH-イオンで構成)と呼ばれる特殊な水素化物群に属します。水素化ナトリウムは有機合成の塩基として広く使用されており、重要でない用途はほとんどありません。水素化ナトリウムは、液体ナトリウムに水素を反応させることで生成されます。
純粋な水素化ナトリウムは無色ですが、市販の試料は灰色に見えることがあります。さらに、水素化ナトリウムの密度は、その前駆体である化学物質ナトリウムよりも約40%高くなっています。
まれに、ナトリウムと水素イオンが電荷を交換する(Na-とH+)「逆水素化ナトリウム」という化合物の形態をとることもあります。Na-はアルカリド【アルカリ金属のアニオンを含む化合物の総称】であり、この化合物は標準的な水酸化ナトリウムよりもエネルギーが高くなります(2つの電子の間の純変位が増加するため)。
水素化ナトリウムは自然発火性です。また、水と激しく反応し、加水分解を経て腐食性の物質である水酸化ナトリウムを生成します。
5. ナトリウムアミド
化学式:NaNH2
ナトリウムアミドは、世界で最も強い塩基として知られています。一般に有機合成に使用される重要な市販の化合物です。その電気伝導特性が水酸化ナトリウムとほぼ同様であるため、(融解した状態で)電気を通すことができます。
純粋な水酸化ナトリウムは通常白色ですが、市販されているナトリウムアミドの多くは金属鉄の形で不純物が含まれているため、灰色をしています。一般に、ナトリウムアミドはアンモニアガスとナトリウムを反応させて調製されます。
2 Na + 2 NH3 → 2 NaNH2 + H2
ナトリウムアミドは求核剤(結合を形成するために電子対を提供する化学物質)としての機能を持つため、ある種の合成には望ましいものです。危険な化学物質であるため、取り扱いには十分な注意が必要です。特に固体で存在する場合、水と激しく反応する可能性があります。
4. リチウムジイソプロピルアミド
化学式:C6H14LiN
リチウムジイソプロピルアミドも非求核性超塩基で、腐食性が強く、溶解性が高いことで知られています。通常の場合、冷却したジイソプロピルアミン溶液(テトラヒドロフラン)をブチルリチウムで処理することにより合成されます。言うまでもなく、リチウムジイソプロピルアミドは腐食性、発火性があるものの、市販の溶液ははるかに安全です。
3. n-ブチルリチウム
画像提供:ロックウッドリチウム社
化学式:C4H9Li
n-ブチリチウム(略してn-BuLi)は、商業的に重要な超塩基で、主に合成ゴムを製造するための重合触媒として使用されるほか、製薬業界でも使用されています。n-ブチルリチウムは無色ですが、アルカンと接触したり、アルカンが老化したりすると、穏やかな色変化を起こすことがあります。
超強塩基であることから、n-BuLiは強力な還元剤だけでなく、求核剤でもあります。n-ブチルリチウムは、一般にリチウムと1-ブロモブタンまたは1-クロロブタンを反応させることで製造されます。
2. 一酸化リチウムアニオン
化学式:LiO-
プロトン親和力:1782 kJ/mol-1
一酸化リチウムアニオンは、かつて世界最強の塩基でしたが、2008年にその座を明け渡しました。他の超強塩基と同様に、一酸化リチウムは非プロトン性溶媒中で調製され、また非常に腐食性が高いことでも知られています。
一酸化リチウムアニオンの合成手順は複雑であるため、制御された方法で行うのは困難です。通常、少量のシュウ酸リチウム(Li2C2O4)を前駆体として使用し、エレクトロスプレーイオン化工程を経ます。得られたシュウ酸リチウムアニオン(LiC2O4)は単離され、衝突誘起解離を2回行います。
その結果、一酸化リチウムアニオン(LiO-)と二酸化炭素の分子が得られます。一酸化リチウムアニオンの用途は知られていません。
1. オルト-ジエチニルベンゼンジアニオン
オルト-ジエチニルベンゼンジアニオンの調製
化学式:[C6H4(C2)2]2ー
プロトン親和力:1843 kJ/mol-1
オルト-ジエチルベンゼンジアニオンは、おそらく私たちが知っている中で最も強い塩基です。オーストラリアの研究者グループが、質量分析法を用いて合成/発見したのが最初です。
他の超強塩基と同様に、オルト-ジエチニルベンゼンジアニオンは気相でしか保持することができませんが、この気相状態は、塩基度をより正確に測定するための理想的な環境です。計算の結果、オルト-ジエチルベンゼンジアニオンのプロトン親和力は1843 kJ/ mol-1で、水酸化物の値(1633.14 kJ/mol)よりはるかに大きいことが分かりました。
さらに、オルト-ジエチルベンゼンジアニオンには、メタ-ジエチルベンゼンジアニオンとパラ-ジエチルベンゼンジアニオンという、分子式は同じでも化学構造が異なる2つの異性体があり、これらは合成史上2番目、3番目の強塩基です。オルト-ジエチルベンゼンジアニオンを含む両異性体には既知の用途はなく、気体で存在します。
よくある質問
弱塩基とはどんなものですか?
弱塩基は、水や水溶液に溶かしたとき、完全に成分イオンに解離しない性質があります。弱塩基のある部分はイオンに分解され、ある部分は溶液中で解離しないまま残ります。
溶液中で100%解離する強塩基に比べ、弱塩基は5~10%しか解離しません。
アンモニア、水酸化第二鉄、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化銅、メチルアミンなどが弱塩基の代表的な例として挙げられます。実際には、弱塩基は日常的に使われているのです。ケーキを焼くときに使う重曹、薬箱に入っている酸中和剤、アンモニアを含む家庭用洗剤、といったものはすべて弱塩基に分類されます。
塩基とアルカリはどう違うのですか?
水に溶ける塩基がアルカリです。すべてのアルカリは塩基ですが、逆にすべての塩基がアルカリということはありませんので注意が必要です。酸を中和する塩基は、金属水酸化物や金属酸化物です。アルカリも金属酸化物ですが、水に溶けて水酸化物イオンを出すことがあります。
たとえば、酸化銅や水酸化亜鉛は塩基で、アンモニアや水酸化マグネシウムはアルカリです。
アルカリは通常、水に溶けますが、例外もあって、たとえば、炭酸バリウムは、酸性の水溶液と反応したときだけ溶けます。
歯磨き粉に使われている塩基は何ですか?
歯磨き粉には、炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、水酸化マグネシウムなど、マイルドな塩基が含まれています。これらが、私たちの口の中にある酸(バクテリアや口内病原菌によって作られる)と反応し、中和することによって、歯を清潔で健康に保つことができるのです。