宇宙関連の研究は、天文学者が地上の望遠鏡を使って行うことが多い一方で、物理的な探査が、有人宇宙飛行と無人のロボット宇宙探査機の両方で行われています。
宇宙探査の主な目的は、科学研究を進め、様々な国を結びつけ、人類が長期間にわたって生存できるようにすることです。
宇宙探査の黎明期(1950年代)には、アメリカとソ連の「宇宙開発競争」が背景にありました。現在では、多くの国が独自の宇宙機関を持ち、一定のルールや方針の下で活動しています。
具体的には、現在では70以上の政府宇宙機関と多くの民間企業が宇宙研究に関する活動を行っています。そのうちのいくつかは、実績、能力、年間予算の面で他を大きく引き離しています。
こういった重要な要素を考慮して、この記事では世界のトップの宇宙関連組織(政府と民間の両方)のリストを作成しました。年間予算はすべて米ドルに換算してあります。
11. カナダ宇宙庁
カナダ人宇宙飛行士David Saint-Jacquesのミッション
設立:1989年
年間予算:2億4700万ドル(2018年)
カナダ宇宙庁は、特にNASAや欧州宇宙機関(ESA)と協力しながら、その研究、技術、専門知識を世界の宇宙活動に貢献してきました。国際宇宙ステーション(ISS)には、デクスター、カナダアーム2、複数のロボットワークステーションなど、13億ドルを投じたモバイルサービスシステムを提供しています。
この機関は、超高層大気【宇宙空間と地球大気圏の境界】領域外へのロケット打ち上げ能力を持っていません。衛星を軌道に乗せるために、インドや、アメリカ、ロシアなどの国に頼っています。それでも、カナダ製の発射装置の建設が計画されているため、この状況はすぐに変わるでしょう。
10. フランス国立宇宙研究センター
トゥールーズの施設|画像提供:Wikimedia Commons
設立:1961年
年間予算:24.3億ドル(2018年)
フランス国立宇宙研究センターは、主に「宇宙の民間利用」「宇宙へのアクセス」「科学技術研究」「持続可能な開発」「安全保障・防衛」の5つの分野に注力しています。
現在、ドイツなどの政府と共同で、メタンを燃料とする再使用型ロケットの開発を進めています。再使用可能ロケットの改修コストを大幅に下げ、改修期間を短縮することを目的としています。
複数の衛星とその重い部品を、軌道上で数百フィートの距離まで接近させて厳密に制御する編隊飛行という技術も開発しています。
また、インド宇宙研究機関(ISRO)と共同で、衛星「メガ・トロピック」を軌道上に展開し、現在の気候変動に伴う水循環の解析を行っています。
9. イタリア宇宙機関(ASI)
国際宇宙ステーションの多目的物流モジュール「レオナルド」|2001年|画像提供:NASA
設立:1988年
年間予算:18億ドル(2016年)
イタリア宇宙機関の設立は1988年ですが、多くの経験豊かなイタリア人科学者や、それまでの国家組織の研究成果も広く活用しています。1996年には初の大型衛星ミッション「BeppoSAX」を打ち上げ、X線で宇宙を調べることに成功しました。
その後、カッシーニ (Cassini-Huygens)、マーズ・エクスプレス(Mars Express)、マーズ・リコネッサンス・オービター(Mars Reconnaissance Orbiter)、ビーナス・エクスプレス (Venus Express) 、ジュノー (Juno) 、XMM-ニュートン(X-ray Multi-Mirror Mission Newton)など、国際的な大規模宇宙探査プロジェクトに協力しています。
イタリアの宇宙産業は、有人宇宙飛行の活動にも携わっています。スペースシャトルによる多目的補給モジュールの貨物コンテナは、国際宇宙ステーションへの機器の移送や保管に重要な役割を果たしています。
現在、ESAの大型ロケット「アリアン5」計画のパートナーであり、これは11,000㎏以上のペイロード【運搬能力】を静止トランスファー軌道に投入することができるロケットです。
8. ドイツ航空宇宙センター(DLR)
画像提供:ドイツ航空宇宙センター本部
設立:1969年
年間予算:25.5億ドル(2016年)
ドイツ航空宇宙センターは、宇宙、航空、輸送、エネルギー、安全性、デジタル化を中心に活動しています。独自のミッションを遂行するだけでなく、ドイツ連邦政府に代わって宇宙プログラムを計画・実施しています。
この機関は、超高効率で二酸化炭素の少ない発電や太陽熱発電技術、再生可能エネルギーの開発に取り組んでいます。交通の分野では、移動性の維持、資源の節約、環境の保護、交通安全の強化を行っています。
主なプロジェクトには、全地球航法衛星システム「ガリレオ」、「マーズ・エクスプレス【火星探査機】」、「シャトル・レーダー・トポグラフィー・ミッション【スペースシャトルに搭載したレーダー】」などがあります。今後は、推進技術、衛星開発、宇宙ミッション概念などの分野の研究を進めていく予定です。
7. 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
画像提供:JAXA
設立:1993年
年間予算:20.3億ドル(2013年)
日本政府の航空宇宙開発を全面的に支援する中核機関として、JAXAは基礎研究・開発から実用化までを一貫して行っています。衛星打ち上げ、月面有人探査、小惑星探査などの先進的なミッションに取り組んでいます。
他機関の衛星開発にも積極的に取り組んでおり、2005年には、気象観測を目的とした運輸多目的衛星1Rを打ち上げました。その1年後には、航空管制を目的とした同衛星の2号機を打ち上げています。さらに最近では、ケニア初の衛星を地球低軌道に打ち上げました。
NASAと共同での進行中のプロジェクトは、全球降水観測コア衛星、アクア地球観測衛星、熱帯降雨観測衛星です。
通信技術の試験は、引き続きJAXAの主要な焦点です。2018年には、ソニーと共同で「きぼう」(国際宇宙ステーションを構成する部位の1つ)のレーザー通信システムを研究することを発表しました。
6. スペースX
設立:2002年
年間予算:民間機関のため公開されていない
ひと昔前までは、民間企業が政府の宇宙機関に対抗できるようになるとは誰も信じなかったでしょう。しかしながら、スペースX社のチームの野心、献身、そして努力は、文字通り人々の考え方を変えました。
同社は、これまで他の民間宇宙機関には叶わなかったいくつかの画期的な事業を成し遂げました。
・民間企業として初めて液体燃料ロケット(ファルコン1)を軌道に乗せた(2008年)
・民間企業として初めて国際宇宙ステーションへのドッキングに成功した(2012年ドラゴン宇宙船)
・軌道ロケットとして初の垂直着陸を達成した(2015年 ファルコン9)
・軌道ロケットの再利用に初めて成功した(ファルコン9、2017年)
現在、スペースX社は、アメリカで最も成功した民間航空宇宙メーカーおよび宇宙輸送サービス会社として知られています。同社の主な目標は、宇宙へのアクセスの価格を10分の1に下げ、信頼性を向上させることです。
2016年、同社CEOのイーロン・マスクは、火星輸送システム計画のミッションの基本設計概念を明らかにしました。その1年後には、現在「ビッグ・ファルコン・ロケット(BFR)」と呼ばれている最新のシステム構成を公開しました。これは、2020年代初頭に予定されている、最大かつ完全に再利用可能なロケットとなる予定です。
BFRを使用して、2022年に2隻の貨物宇宙船(無人)を火星に着陸させる計画です。2024年にはさらに4隻を、最初の有人宇宙船として火星へと飛ばす予定です。
5. インド宇宙研究機関(ISRO)
ISRO、極軌道打ち上げロケットで100機目の衛星を打ち上げ
設立:1969年
年間予算:15億ドル(2018年)
インド宇宙研究機関は、惑星探査と宇宙科学研究を進めながら、宇宙技術を国家の発展のために利用しています。国内および国際レベルでいくつかの大規模な活動を行っています。
多目的静止衛星(INSAT)やリモートセンシング衛星(IRS)を保有し、通信や地球観測に対する国家の需要を満たしています。
また、気象予報、航行、地理情報システム、遠隔医療、捜索・救助活動を支援するための特定用途向け衛星ツールや製品を開発しています。
ISROは、費用対効果が高く、信頼性の高い打上げシステムで知られています。インド初の月面探査機は、2008年に極軌道衛星打ち上げロケット(PSLV-XLロケット)を使って打ち上げられました。このプロジェクトのコストはわずか5400万ドルと推定されています。
2014年には、初の試みとして火星軌道に探査機を送り込むことに成功しました。このミッションの総支出額は7,500万ドルで、これまでで最も費用対効果の高い火星ミッションとなりました。
2017年には、PSLV-C37を使って104機の衛星を一度に打ち上げるという世界記録を達成しました。その進歩に感銘を受けた政府は、ISROの年間予算を23%増額しました。
再使用型ロケット、軌道上への単段および2段式ロケット、半極低温エンジン、有人宇宙飛行プロジェクトなどの開発を進めています。
4. ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス)
国際宇宙ステーションの艤装を続けるために船外活動を行うロシア人宇宙飛行士、アントン・シュカプレロフ|画像提供:NASA
設立:1992年
年間予算:32億7,000万ドル(2015年)
ロスコスモスは、ロシアのあらゆる宇宙活動を統括する機関です。宇宙飛行士のプロジェクトや地球の監視など、様々な民生的活動を行っているほか、ロシア連邦国防省との間で軍事的な打ち上げの調整も行っています。
再国有化されたロシアの宇宙産業と統一ロケット・宇宙会社が合併し、新たな国営企業ロスコスモスが誕生しました。しかし、ロシアの宇宙技術への貢献は、このような出来事よりもずっと前からありました。
1955年から1965年にかけて、旧ソ連の宇宙開発は、初の人工地球衛星「スプートニク1号」、初の男性(ユーリ・ガガーリン)と女性(ワレンチナ・テレシコワ)の宇宙飛行、2人以上の乗員を軌道に乗せた初の宇宙飛行(ボスホート1号)、初の月面近傍到達(ルナ1号)など、多くの世界初の成果をあげました。
ロスコスモスは、ソビエト連邦計画が終了した直後の、全く異なる時代に設立されました。現在は、各国への打上げ輸送サービスの提供や、GLONASSナビゲーション衛星、通信衛星、軍事衛星など、様々な宇宙船のミッションを独自に行っています。また、国際宇宙ステーションにもわずかながら資源を投入しています。
また、現在ESAと共同で、火星に生命体が存在する証拠を発見する「ExoMars」ミッションに取り組んでいます。また、2020年代初頭に打ち上げを予定している完全ロボット型の月面基地(Luna-Glob)の開発も行っています。
3. 欧州宇宙機関(ESA)
ESA本部(フランス・パリ)|Wikimedia commons
設立:1975年
年間予算:70億ドル(2018年)
欧州宇宙機関は、22カ国が加盟する国際機関です。全加盟国の知的・財政的資産を調和させることで、欧州の一カ国での範囲をはるかに超える活動やプログラムを扱うことができます。
ESAは、国際宇宙ステーションの主要な貢献者のひとつです。設立以来、月や他の惑星への無人探査ミッション、通信、ロケットの開発、地球観測などに積極的に取り組んでいます。
また、独自の打ち上げシステムである「アリアン」を所有しており、過去40年間で何世代もの開発を行ってきました。
ESAが開発した衛星や機器は、「マーズ・エクスプレス」や、2004年から土星とその衛星を周回している「カッシーニ」(NASAとの共同開発)など、太陽系の様々な惑星を訪れています。
ESAの宇宙探査機「ロゼッタ」は、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)に接近して撮影し、彗星表面に着陸機を送り込みました。また、ESAの宇宙望遠鏡GAIAは、何十億もの天体をこれまでにない精度でマッピングしています。
また、最近の主なプロジェクトとしては、金星の極軌道から継続的にデータを送信している「ビーナス・エクスプレス【金星探査機】」、重力波を研究している「LISA パスファインダー【宇宙探査機】」、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(主導:NASA)などがあります。
現在、木星(JUICE)や水星(ベピ・コロンボ【水星探査計画】)のほか、エネルギーに満ちた宇宙の観測(Athena)や暗黒物質の研究(Euclid)などのプロジェクトが計画されています。また、次世代の航法衛星システム「ガリレオ」の開発も行っています。
2. 中国国家航天局(CNSA)
CNSA、長征3号Bキャリアロケットで初の軟着陸ミッションを実施
設立:1993年
年間予算:110億ドル(2017年)
中国国家航天局は、国家レベルでのすべての宇宙ミッションの計画と実施、および宇宙研究に関連する政府協定の締結を担当しています。
世界の他の宇宙機関とは異なり、国際宇宙ステーションには関与していません。実のところ、CNSAは独自の小さな宇宙ステーションを持っています。また、長征と呼ばれる消耗型ロケットシステムを使って、自ら定期的に打ち上げを行っています。
2003年以降、多くの有人宇宙ミッションを実施し、これまでに11人の中国人宇宙飛行士が宇宙を旅しています。2012年には、神舟9号に搭乗した3名の宇宙飛行士が、試作した宇宙ステーション「天宮1号」に取り付けて、宇宙で初めて有人宇宙船のドッキングを行いました。
2014年、CNSAは「嫦娥3号」と名付けた初のロボット月面着陸機・ローバーを用いて、初の月面軟着陸に成功しました。この他にも、中国は2007年に自国の機械で対衛星実験に成功しています。
1. アメリカ航空宇宙局(NASA)
サターンVの全打ち上げ、1967年~1973年|出典:NASA
設立:1958年
年間予算:207億ドル(2018年)
NASAは60年にわって平和的な宇宙開発をリードし、地球、他の惑星、太陽系、銀河、そして私たちの宇宙に関する発見をしてきました。どの行政機関にも属さない独立した組織で、アメリカ大統領に直接報告しています。
NASAはその設立以来、宇宙ステーション「スカイラブ」や、スペースシャトルと名付けられた部分的に再利用可能な地球低軌道宇宙船、そして最も人気のある有人宇宙飛行プログラムであるアポロ月面着陸計画など、(米国における)宇宙開発のほとんどを主導してきました。
私たちの多くは、NASAの仕事について何となく知っていても、どれほど多くのことを行っているのかは知らないでしょう。NASAは、以下の4つのミッション本部で構成されています。
1.航空研究:航空技術の開発を行う
2.科学:地球、太陽系、宇宙の起源と進化を研究する
3.宇宙技術:宇宙探査技術や宇宙科学の開発を行う
4.有人宇宙探査・運用:国際宇宙ステーション、打ち上げ関連ミッション、宇宙通信、輸送などの有人宇宙プログラムを管理する
ジョンソン宇宙センター、ジェット推進研究所、ゴダード宇宙飛行センター、ラングレー研究センターなど、いくつかの研究センターが提携しています。
この組織はこれまでに200回以上の有人飛行を成功させており、現在は70以上のミッションに取り組んでいます。
アポロ、ハッブル宇宙望遠鏡、1976年に火星に着陸した探査機バイキング1号、チャンドラX線観測所、2004年に土星に到達した探査機カッシーニ、木星、土星、天王星、海王星について数々の重要な発見をし、星間空間に到達したボイジャー1号、ボイジャー2号などがその代表的なミッションです。