・天王星の上空で渦巻いているガスが硫化水素であることを科学者らが確認した。
・腐った卵の臭いの元となるガスと同じである。
・また、海王星や天王星のような巨大な氷の惑星が、土星や木星よりも太陽から遠く離れた場所で形成されたことも明らかになった。
天王星は、太陽系で最も研究が進んでいない惑星のひとつです。天王星は、ボイジャー2号が一度だけ訪れたことがありますが、それは単なるフライバイ【宇宙船の接近通過】でした。天王星に着陸した探査機もなければ、天王星を周回した探査機もありません。ですから、私たちが目にするデータは、地上の望遠鏡や地球の衛星によって集められたものです。
天文学者たちは、天王星は何十年も前から観測していますが、いくつかの謎をまだ抱えています。そのうちのひとつが、天王星の雲の構成です。今回、イギリスのレスター大学の研究者らが、ジェミニ北望遠鏡【ハワイ島の天文台に設置】のデータを使って興味深いことを発見しました。
天王星の大気圏上層部に渦巻く有害なガスには、腐った卵の臭いの元となる化合物と同じ硫化水素が含まれていることが確認されたのです。しかし、この発見には何の驚きもありません。1990年代に行われたいくつかの観測で、天王星の大気に硫化水素が存在することを示す手がかりはあったのです。ただ、その時点では確かな証拠がありませんでした。
どのように確認したのか?
惑星「天王星」の大気
出典:NASA
ジェミニ天文台のNIFS(近赤外分光装置)が提供するデータを用いて、天王星の大気の可視光線層のすぐ上の部分から反射光を採取しました。研究者たちは、ほとんど存在しない線を検出しようとしたのです。しかし、NIFSの感応性により、その線をはっきりと検出することができました。
これは、反射した太陽光の少量の赤外光が硫化水素によって吸収される、増強された分光吸収線のことですが、鈍くて検出が困難なのです。
この検出に基づき、研究者たちは、硫化水素の氷がおそらく1.2~3気圧の天王星の雲の重要な構成要素を作り出していると結論付けました。なお、硫化水素氷の虚数屈折率スペクトルは計算されていないため、このスペクトルが氷と一致するかどうかは確認できていないそうです。
しかし、メタン、水、アンモニア氷の複雑な屈折率スペクトルには、非常に大きな虚数屈折率は存在しません。このことから、天王星雲中の氷状硫化水素の粒子は純粋な凝縮物ではなく、成層圏から滴り落ちる光化学化合物と激しく混合、あるいは被覆されている可能性があります。
元々はブラックホールを研究するために開発された装置を、太陽系の数十年来の謎を解くために使用したことを考えると、この研究は非常に注目に値します。
硫化水素の存在量は少ないものの、もし天王星に到着したらどうなるかを理論的に考えるのは非常に興味深いことです。まぁ、不快な臭いについては最も心配のないことではありますが、73ケルビンの温度と、水素、メタン、ヘリウムからなる非常に息苦しい大気によって、臭いを嗅ぐ前に死んでしまうと思われます。
研究の意義
この研究は、太陽系初期の事実を明らかにする可能性を持っています。硫化水素が存在することで、天王星は、ほとんどがアンモニアからなる土星や木星などの他の巨大惑星と一線を画しています。
硫化水素はアンモニア(195K)よりも低い温度(191K)で凍るため、硫化水素の氷結晶が太陽系初期に大量に存在し、新しくできた惑星に入り込んでいた可能性があります。このことは、海王星や天王星などの巨大氷惑星が、土星や木星よりも太陽から遠い場所で形成されたことを示しています。
天王星の大気は、人間にとっては恐ろしいものかもしれません。それでも、この研究によって、天王星の大気が太陽系の初期進化を探るには肥沃な環境であり、太陽系外の惑星の特徴を理解することができるかもしれない、ということがわかったのです。