・カイパーベルトとは、海王星の軌道の外側にある、氷状の天体が存在するドーナツ型の領域です。
・海王星の軌道(太陽から約30AU)から約50AUまで広がっています。
【AU:天文単位。太陽から地球までの距離。1AU=約1億5000万km】
・この領域には数百万個の天体が存在しており、そのほとんどが氷状の揮発性物質でできています。
1930年に冥王星が発見された直後から、太陽系外縁部にあるのは冥王星だけではないかもしれない、と研究者たちは推測し始めました。
この地域に他の天体の存在が確認されたのは1992年のことでした。これらの天体は、太陽系の端にある大きな破片の地帯にすぎません。それらを合わせて「カイパーベルト」と呼んでいます。
つまり、多くの天文学者は、カイパーベルトが発見される数十年前から、その存在を理論的に考えていたのです。広大で神秘的な場所であり、探索はまだ始まったばかりです。カイパーベルトとは一体何なのか、どこにあるのか、どうやって作られたのか、その謎に迫ってみましょう。
カイパーベルトの定義
カイパーベルトとは、海王星の軌道の外側にある、ドーナツ型の氷状天体の領域です。小惑星帯と同様に、太陽系形成時の残骸である数百万個の小天体が存在しています。
これらの氷状の天体は、太陽系外縁天体(TNO)、あるいはカイパーベルト天体(KBO)と呼ばれています。
カイパーベルトと「オールトの雲」を混同してはいけません。オールトの雲とは、カイパーベルトと太陽系を取り囲む、さらに遠くにある彗星状の天体の領域です。
位置と構成
カイパーベルトは、海王星の軌道(太陽から約30AU [45億km])から約50AU [75億km] まで延びています。
画像提供:NASA
カイパーベルトは、火星と木星の軌道の間にある小惑星帯の20倍の幅があり、質量は20〜200倍です。
カイパーベルトには、冥王星、エリス、ハウメア、マケマケなど多くの準惑星【太陽を回る天体で、惑星の定義を満たさないもののうち比較的大型なもの】が存在します。ほとんどのKBOは、水、アンモニア、メタンなどの氷状の揮発性物質でできています。
数十万個の衛星が含まれており、土星のフェーベや海王星のトリトンのような大きな衛星はこの地域で生まれたのではないかという研究もあります。
どのようにして作られたのか?
カイパーベルトの起源やその複雑な構造については、はっきりとは解明されていないものの、太陽系誕生時の残骸が含まれていると科学者たちは考えています。
海王星がそこになければ、この地域の氷の塊が集まって惑星になっていたかもしれません。しかし、海王星の引力がこの領域を大きくかき回したため、氷の塊は一つの惑星になることができなかったのです。
太陽系の力学的な進化のシナリオを示すニースモデルによると、カイパーベルトは現在の位置よりも太陽に近いところで形成された可能性があります。天王星と海王星は複雑に小刻みな動きを繰り返しながら、太陽系内で位置を変え、外側に移動していきました。
天王星と海王星が太陽から遠ざかる際に、その重力によって(カイパーベルト内の)氷状の天体の多くが運ばれたのかもしれません。このようにして、小さな氷状の天体の多くは、元の場所から太陽系のさらに冷たい地域へと移動していったのです。
カイパーベルトを発見したのは誰か?
オランダの天文学者ジェラルド・カイパーにちなんで名付けられましたが、彼がカイパーベルトの存在を予測していたわけではありません。しかし、彼の研究は研究者の間でよく知られており、カイパーベルトの一般的な概念は彼によるものだと考えられるようになりました。
1943年、理論天文学者であるケネス・エッジワースが、海王星の軌道の外側にある物質はあまりにも広範囲に散らばっているため、凝縮して惑星になることはないという仮説を論文として発表しました。
これらの物質は、その代わりに太陽系外縁部でいくつかの小天体に凝縮されます。これらの小天体のうちのいくつかは、時折、自分の領域を離れて、太陽系内側への訪問者として現れ、これが彗星と呼ばれています。
エッジワースの驚くべき業績から、それを称えて科学者たちは「エッジワース・カイパーベルト天体」という別称を使うこともあります。
1992年、天文学者のデビッド・ジューイットと彼の学生ジェーン・ルウは、KBOの候補天体1992 QB1を発見しました。これは冥王星とカロンに続いて発見された最初のKBOです。その約半年後には、第2の天体(181708)1993FWを発見しました。
太陽から65億kmという驚異的な距離に位置するKBOの想像図
画像提供:NASA、ESA
これまでに2000個以上のKBOが発見されており、62マイル(100km)以上の大きな天体が10万個以上存在すると考えられています。
カイパーベルトに関する7つの興味深い事実
1. 多くのKBOには衛星がある
カイパーベルトには、衛星や連星を持つ天体が数多く存在します。衛星とは、大きな天体の周りを回る実質的に小さな天体です。この領域の天体は、複数の衛星を持つことがあります。クワオアー、ハウメア、エリス、冥王星などは、衛星を持つKBOです。
一方、連星とは、質量や大きさが比較的似ている天体のペアです。2つの天体の間にある共通の重心の周りを回っています。
2. 地球よりもはるかに質量が小さい
広大な面積を持つカイパーベルトですが、その総質量は地球の2%以下です。
これは、カイパーベルトが地球の30倍の質量を持つはずであることを示す標準モデルと矛盾しています。失われた質量99%の謎はまだ解明されていません。
しかし、一部の研究者は、KBOは多数の衝突により、お互いに押しつぶされて徐々に塵になっていくと示唆しています。そうであれば、カイパーベルトは遠い将来に消滅する可能性が高いということです。
3. 彗星の発生源である
カイパーベルトは彗星の発生源となる地域の一つです。KBOが衝突すると小さな破片ができ、それが海王星の重力によって加速されて太陽に向かう軌道に乗ります。
さらに木星の重力がこれらの破片を20年以内の短いループに巻き込みます。これらの彗星は「木星系彗星」と呼ばれます。
しかし、地球近傍の小惑星の中には、燃え尽きた彗星のようなものが検出されています。これらの彗星は、もともとカイパーベルトやオールトの雲の中にあったことが観測されています。
4. 天文学者はカイパーベルトを発見したことに60年以上も気づかなかった
最初のKBOである冥王星が発見されたのは1930年でした。当時の研究者は、太陽系外縁部の天体の分布について何も知りませんでした。冥王星の軌道が奇妙に傾いていましたが、研究者たちは冥王星を単独の惑星と考えました。
1992年に第2のKBOが発見されたことにより、冥王星だけではなく、太陽の周りを回っている地域には何百万もの小さな氷状の天体があることがわかったのです。
5. 最大のKBOのうちの5つ
太陽系外縁部の天体と無人探査機ニュー・ホライズンズの軌道(黄色)
Credit: NASA
それぞれの半径に基づく、5大カイパーベルト天体は次の通りです。
・冥王星(1,188 km):既知の氷状の準惑星としては最大である。
・エリス(1163km):太陽系内で最も質量が大きく、既知の準惑星の中では2番目に大きい。
・ハウメア(780km):最も速く回転する準惑星で、周囲にはリングがある。
・マケマケ(715km):独自の衛星(S/2015 (136472) 1)を持つ準惑星である可能性が高い。
・クワオアー(555km):推定密度が2.2g/㎤の準惑星の可能性がある。
参照元:ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所
6. カイパーベルトに初めて突入した人工物体
1983年、パイオニア10号は、海王星の軌道を越えて宇宙空間に突入した最初の探査機となりました。当時はまだカイパーベルトが発見されていなかったため、この探査機はカイパーベルトにある氷状の世界を調査することはありませんでした。
NASAの「ニュー・ホライズンズ」は、その後の10年間に1つ以上のKBOを通過して研究するという使命を持って打ち上げられた(2006年)最初の惑星間探査機です。
この探査機は2015年7月に冥王星とその衛星のそばを飛行し、大気、表面、内部のデータを収集しました。2019年には、カイパーベルト領域にある「486958 Arrokoth」と名付けられた天体の接近通過を行いました。
7. 仮説上の惑星はいくつかのKBOを説明できる
2015年、カリフォルニア工科大学の研究者たちは、冥王星のはるか先に「惑星X」が隠れているかもしれないことを示唆する数学的証拠を発見しました。まだ観測されていませんが、計算上は存在していることになります。
この未発見の惑星の重力によって、カイパーベルトにある少なくとも5つの小さな氷状の天体のユニークな軌道が説明できるかもしれません。もし発見されれば、太陽系の進化に関する私たちの理解を一新することになるでしょう。