ブランディングには、説得力が欠かせません。顧客や顧客予備軍を説得し、ブランドについてもっと知りたいと思ってもらえるようなポジティブなユーザー体験を作らなければなりません。そして、説得力を高めるためには、顧客の感情をターゲットにする必要があります。
一般的には、言葉や画像が顧客の感情にかなりの影響を与えると考えられています。かなりの範囲で、それは事実でしょう。しかし、「色」ほど人の感情に影響を与える媒体やツールはありません。色は人の感情に訴えかけます。色彩戦略をいかにうまく実行するかによって、顧客のユーザー体験がポジティブになるか、ネガティブになるかが決まります。ブランディングにおける「色」を正しく理解する上で問題となるのは、色が「1か0か」のような、明確なデザインコンセプトではないということです。
色の好みには個人差がありますし、人はある色に対して主観的な偏見を持つ傾向があります。しかし、すべての色は、すべての人に同じように何らかの先入観や心理的な影響を与えます。ブランドや企業の中には、色の使い方を巧みに工夫しているところがあります。ここでは、ブランディングにおける優れた色の使い方の14例をご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
1. Apple
Apple社は、スマートフォンやスマートデバイスのリーディングカンパニーのひとつです。当初から非常にミニマルなブランドアプローチを維持しています。ウェブサイトでは、グレー、黒、白を基調としたブランディングを展開しています。グレーは非常にニュートラルな色で、一般的にはバランスを表すのに使われますが、少しネガティブな意味合いがあり、特に喪失感や憂鬱感と結びついている場合が多いです。色味がないため、くすんだ感じがするのです。しかし、Apple社のように正しい使い方をすれば、ヘッダーやフォントの色、グラフィックなど、多くの人にアピールすることができます。
製品の大部分がグレーかシルバートーンで、人々はそれに慣れています。ウェブサイトでは、白のロゴにグレーのコントラストをつけていますが、これは美的感覚に優れています。白、黒、グレーのバランスがとれており、統一感があって、清潔でミニマルな印象を与えています。
2. スターバックス
スターバックスのブランディングの基調色は緑です。緑は、黄色と青を混ぜ合わせた二次色です。寒色と暖色のバランスで作られているため、非常にニュートラルで穏やかな雰囲気を醸し出しています。赤、青、黄色の原色に続く第4の原色とも言われています。ボードゲームでは、最初の3人のキャラクターは常に赤、黄、青ですが、4人目のキャラクターがいる場合は常に緑です。スターバックスは有名なコーヒーショップのひとつであり、その緑色のロゴは洗練された穏やかなイメージを伝えています。
スターバックス社は、世界平和への取り組みや、製品の一貫性と安定性を保証するために緑色を使用しています。その店舗は、くつろぎや、カジュアルなビジネスミーティングの場としても利用されています。リラックスするための場所として想定されいるのです。それゆえ、壁にはかなりの量の緑色を使用し、販売品にも緑色を加えていますが、さりげなくブランドとの関連を強化してもいるわけです。
3. マクドナルド
マクドナルド社が赤と黄色の色を選んだのには、特別な理由がありました。それは、マスコットのロナルド・マクドナルド(発音性の配慮から日本語では「ドナルド」)の顔に合わせるためではなく、もっと科学的な理由でした。
赤色は一般的に、活動的で心拍数の増加を連想させます。これは、食欲を増進させるのに役立ちます。黄色は、最も明るく暖かい色で、一般的に幸せを連想させます。また、昼間に最も目に入る色でもあります。そのため、マクドナルドは混雑した地域や道路でも目立ちます。赤は食欲をそそり、商品の購入を促す働きがあり、黄色は幸せな気分にさせてくれる、というわけです。
4. Talor Jorgen Coffee
これはノルウェーの焙煎所で、原色の青、赤、黄色の微妙なパステルカラーを使って、遊び心と温かみのあるアイデンティティを伝えています。この原色の服に、同じ黄色の背景で描かれたキャラクターのイラストを使用しています。また、世界中から焙煎された新鮮な豆を、飲み方に応じて定期的に届けるコーヒーのサブスクリプションサービスを提供しています。これらのキャラクターは、すべてのデザインで繰り返されており、ブランディングに微妙なストーリー性を与えています。
5. Hurly Burly Live Cultures
このブランドは、自分たちのブランディングに適した色を製品から取り入れました。実際の食品そのものの色からインスピレーションを得た色彩パレットを用いています。イギリスで自然発酵食品を販売する食品ブランドであり、最初の製品は生のオーガニックコールスローです。オレガノとハラペーニョ、レモンとジンジャーなどのフレーバーがあります。
ブランディングにおいては、色遊びを用いた大胆なタイポグラフィを組み合わせることにより、強烈なフレーバープロファイルを強調することで、騒然かつ連綿と続いてきた発酵プロセスを前面に押し出して製品を販売しています。鮮やかな色彩パレットは、棚に並んだ他の製品よりも際立っています。彼らは、ロゴのトップラインとボトムラインを色でつなぐことで、発酵という終わりのないプロセスを表現していると考えられます。
6. Blu Saigon
Blu Saigonは、ベトナムでボタンを製造する同族会社のブランドです。ブランドカラーとしている藍色は、ベトナムの歴史や文化に関連性があるため、彼らに適した色です。藍色の染料となるのはベトナム北部の高地に生育する植物で、多くの布地の原料としても使用されています。ブランド名のBluはBlue(青)を略したものであり、青が海を表しているためブランド名に使用されています。海は、ボタンを作るために必要な原料の源です。また、青は空の色でもあります。
7. DropBox
大きなブランドになるほど、青色を最も好むようです。最も効果的なファイル共有サービスのひとつであるDropBoxも、青をブランディングに使用しています。その理由は、信頼性、コミュニケーション、そして信用を示すためです。これらはすべて、DropBoxのようなコラボレーションツールが得意とする重要な機能です。
8. Google
Googleはインターネット上で最大の検索エンジンです。毎日、何百万人もの人々に利用されています。この巨大検索エンジンのオリジナルロゴは、1998年にRuth Kedarが制作したものですが、現在のGoogleの最新ロゴやブランドコミュニケーションで見られる色と同じ色を選びました。Ruth Kedarの言葉を借りれば、これらの色は子供の遊びの記憶を呼び起こすもの、だそうです。たしかに、ロゴの90%に黄、赤、青の3原色が使われていますね。しかし、ロゴの「L」の部分は緑色です。これは原色ではありませんが、ボードゲームなどでは代用の原色としてよく使われています。
一般的なブランディングのガイドラインでは、ブランディングに2~3色以上の色を使わないように定められています。Googleはそういったルールに反して、4色を使用しています。その理由は、彼らが常にブランド・アイデンティティを維持しているからであり、色の遊び心が長年にわたってユーザーに歓迎されてきているからです。
9. Asana
Asanaは、ウェブおよびモバイルアプリをベースとしたアプリケーションで、人々やチームが仕事を整理、管理、追跡できるように設計されており、チームによる仕事管理プロセスを簡素化します。2014年に急速に成長したワークマネジメントです。2015年、彼らは自分たちの価値観やミッションをよりよく表現するために、ビジネスをリブランディングする必要性を感じました。それまでのAsanaは、「a」を小文字にした青いロゴで、その右に3つのドットを縦に連ねていました。このドットは、コラボレーションの精神を示すものとされており、ロゴは緑色を基調としたクールなデザインでした。
リブランディングした際に、現在のロゴになりました。3つのドットの配置が変わり、より共同作業をしている様子が表現されています。色彩パレットは、黄色、ピンク、橙色などの温かみのある色調に変わりました。これにより、ブランドがより親しみやすくなり、ブランディング・コミュニケーションが一変しました。
10. FedEx(フェデックス)
FedExは、配達サービスを提供する代表的な多国籍企業です。社名は、同社の元々の航空部門である「Federal Express」の略称です。独創的なロゴでも知られており、「e」と「x」の文字間には、前進を意味する矢印が隠れています。
FedExでは、サービスごとにまったく異なる2つのカラースキームを採用しています。地上サービスは緑色で、航空輸送サービスは橙色で表現しています。緑色は、信頼性、冷静さ、信用を表すため、地上サービスに使用されています。橙色は、エネルギー、自信、信頼性を表し、宅配便をより早く、より安全に届けることができるという意味で、航空便に使用されています。このような色の切り替え戦略は、すべての異なるサービスに用いられています。また、一貫したブランディングを行うために、ロゴの「ex」の色を常に変えています。
・橙色は標準的な速達サービス。
・灰色は、サプライチェーンサービス。
・赤色は、貨物便。
・緑色は地上・宅配便。
・黄色は、トレード・ネットワーク。
・青色は、カスタム・クリティカル製品。
11. Mastercard(マスターカード)
Mastercardのロゴは、2つの円が重なり合った、とても印象的でありながらシンプルなものです。2つの円は、片方は赤、もう片方は黄色で、組み合わせると鮮やかな橙色になります。この橙色がMastercardの基調色であり、背景は2色のグレーになっています。Mastercardで使用されている副次的な色は、ゴールドとイエローです。また、青緑や赤などのアクセントカラーも使われています。
12. Instagram
これは、世界最大の写真共有ソーシャルメディアです。初期のロゴのひとつは、誰からも歓迎され、青天の霹靂のような華々しさはなかったものの、無難に受け入れられていました。このロゴを変更することになったとき、多くの人が納得せず、「元のロゴに戻してほしい」という声が上がったのです。元のロゴには、四角いインスタントカメラに小さな虹が描かれていました。
CEOのKevin Systromが初期にデザインした、よりリアルなカメラのようなロゴは、プラットフォームとしてのInstagramのサービスとは無関係であるため、採用されませんでした。ポラロイドのようなレトロな雰囲気を出すために、茶色のロゴが使用されていました。しかし、Instagramの利用者は若者が多く、レトロな雰囲気には興味を示さないため、より技術的に優れたモダンなロゴに変更する必要がありました。
デザイン責任者は、新しいロゴを作成する意図として、過去、現在、未来のすべてのコミュニティの表現を表すことを挙げています。Instagramは、アプリを開いたときに訪問者が安心感や好感を抱けるように、グラデーションカラーを使った暖色系の色にシフトしました。
13. Slack
Slackは、独自のビジネス・コミュニケーション・プラットフォームの代表的な存在です。その色彩パレットは、とても遊び心があり、かつ洗練されたものです。2種類の紫色、黒、白の4色を基調としており、緑、青、黄、赤といったアクセントカラーも使用しています。ロゴでは、基調色に代わってアクセントカラーが主役となり、八角形のようなイメージになっています。これは、チームワークやコラボレーションのイメージです。
14. ダンキンドーナツ
これは、アメリカの多国籍ドーナツ会社です。ダンキンドーナツも、多かれ少なかれスターバックスと同じニッチな存在です。しかし、ターゲット層やカフェ業界へのアプローチは全く異なります。先ほど説明したように、スターバックスは緑色を使って落ち着き感を表現しており、広々とした座席に詳細なドリンクリストを置いて、洗練された高級感のある雰囲気を醸し出しています。
それに比べてダンキンドーナツは、橙色やピンク色をロゴに使っています。これらの色はとても遊び心があり、軽やかな印象を与えます。ダンキンドーナツは、もっと身近で、楽しくて、目につきやすいカフェブランドであることが想定されています。それを効果的に表現しているのがこの色です。
ブランディングにおける素晴らしい色使いの14例をご紹介しました。これらのブランドは、じっくりと考え、論理的に推論した上で各色を使用しています。色彩理論の科学は、ブランドがそれぞれのターゲット層にその価値をよりよく伝えるのに役立ちます。また、ブランドがコミュニケーションスタイルを変えたいと思ったときに、そのブランドを再定義するのにも役立ちます。色は、文字や画像、あるいは音声よりも速く知覚されます。ですから、ブランディングプロジェクトからより多くのものを得るためには、色を正しく、賢く使う必要があるのです。