創造力というのは、限られた人のみに与えられた不思議な才能だと考えられてきました。21世紀の調査では、他のスキル同様それが学習して身につけることが出来るものだということが判明しました。
クリエイティブの仕事から離れている人は、このことをよく知っています。訓練することで、形や色の感覚、細部への気づき、見る人の心に響く直感を鍛えることが可能です。自分が想像力豊かな人間かそうでないかに関わらず、デザインスキルを身につけられるのです。
ですが、創造力の種類は1つとは限りません。カラーパレットで全色自由に使えることと、アイデアが浮かぶことは別の問題です。
創造力をカテゴリ分けするのであれば(皮肉ですが)、Adam Jorlenがクリエイティブ思考を次の5つのタイプに分類しています。
・発散思考、数多くの解決策を考慮
・逆転思考、課題の外側から斬新なアイデアを思いつく能力
・美的思考、芸術や美を生み出す知恵
・組織思考、複数の要素を1つに統合する技術
・神業思考、突然どこかからやってきたかのような、神様からのアイデア
デザイナーには、強烈な美的思考の持ち主が多いです。建築家やプロダクトデザイナーのように複雑な製品やサービスを扱っている人は、それに加えて発散思考や組織思考を持ち合わせている場合も多いです。
この記事では、美的思考から離れたクリエイティビティについてご紹介しているので、デザイナーはビジュアル面だけでなく、プロダクト戦略やビジネス全体にも良い影響をもたらすでしょう。
それでは、科学に裏打ちされた、創造力の側面を改善するのに役立つ戦略を4つご紹介します。
1.逆転思考:真逆の予測
タクシー業界には車が必要です。それを逆手にとったUberのビジネスモデルを考えてみましょう。車を商品とするのではなく、ドライバーは個人の車を提供しています。
何か問題解決を試みようとするとき、私たちは無意識に何かの制約に縛られています。一方、逆転思考というのは従来の習慣にとらわれずに自由な解決方法を見つける考え方です。
クリエイティブの専門家であるMichael Michalkoは、逆転の発想をする訓練を紹介しています。いつもの考え方から解き放たれたれることで、より新たな可能性に目を向けることが出来るのです。
・ステップ1:全ての考えを書き出す
・ステップ2:逆の考え方をする
・ステップ3:それらの真逆の考えが可能かどうか検討する
このやり方で、直接解決へとたどり着くわけではありませんが、考えをまとめるのには効果的です。さらに、状況に囚われず自由なアイデアを出す練習にもなります。
2.逆転思考:別分野からのアイデア蓄積
起業家であるFrans Johanssonは、別の分野で作業することで斬新なアイデアが生まれる場合もあると主張しています。彼の考えによれば、創造的なアイデアというのは、あらゆる概念の組み合わせだそうです。複数の概念が交差する箇所で作業をすることにより、1つの分野では不可能だったことも生み出すことが可能です。
別の分野を学ぶことは、一見時間の投資に思えますが、必ずしもそうではありません。最近読んで習得した知識を超えるような、非常に役立つ情報を代わりに手に入れることが出来るのです。
アイデアを出す古い方法ではありますが、マーケティングの指導者であるJames Webb Youngは、ブレインストーミングの際に一般的な知識も素材としてかき集めることを提唱していました。
大抵の場合、カッコイイデザインのアイデアや面白い発想、その分野で役立つ知識や便利だと思った情報があれば、今後のために毎回書き留めておくと思います。
3×5センチくらいのインデックスカードがあれば、アイデアを書き留めてそれを分類し、スクラップブックかファイルにまとめておくことが出来ます。
アイデアの宝箱/Bobby PowerのThe Lost Art of Commonplacingによる画像
同じようなシステムが、過去のプロジェクトでもあったことでしょう。古いメモからインスピレーションを得たり、小さなカードに書かれた以前のプロジェクトのアイデアで、新しい発明が思いついたりしたことがあるはずです。さらに良いのは、新たなプロジェクトで似たような問題が発生しても、再度書き留める必要がない点です。
3.神業思考:インキュベーション期間の設定
どうしても良い考えが浮かばなかった時、それを考えるのを一旦やめるとします。すると突然、期待していない時に、ふとその答えが出ることがあります。経験したことがありますよね?これはインキュベーション期間の効果が出ているためで、意識的に注意を払っていない時には、無意識が働いているのです。
インキュベーション期間というのは、最も創造的なインスピレーションが湧く瞬間です。それをコントロールする方法は定かではありませんが、その頻度を高める工夫は出来そうです。
・すぐに問題に取り掛かる
集中出来るような環境が整うまで手をつけたくない気持ちは分かりますが、そのやり方ではインキュベーション期間は作れません。そのような場合は、資料を読んで質問を考え、何か他の作業をしていながらも、その問題に無意識に取り組むようにしてください。
・思考が止まったら休憩する
考え続けているとストレスが溜まる一方で、初歩的な部分に費やす脳の負担が増え、クリエイティブな発想が生まれません。
簡単な作業をしつつ、休憩がてらインキュベーションを行うと創造的なアイデアが生まれる、という研究結果も出ています。ポイントは、その作業が簡単過ぎず(再び意識がその課題へと向かってしまうため)、難しすぎないこと(さらに精神的にエネルギーを消費してしまうため)です。
・一晩アイデアを寝かせる
睡眠と長期間のインキュベーションは、相関関係にあります。我々の記憶は寝ている間に定着され、そこで新しいコネクションが作られます。一晩その問題を寝かせて翌日取り組んだら、斬新なアイデアが浮かぶかもしれません。
・極端な締め切りを断る
最後に、次回デザインを企画する際は、是非ともデザインしない時間を設けてください。
締め切りがあることで、より創造力豊かな発想が生まれるという考えを持っている人もたくさんいます。研究によれば、”気持ち的には”クリエイティブでも、時間の制約という厳しいプレッシャーの下では創造性も乏しくなるそうです。さらに、時間のプレッシャーを感じる日だけではなく、その後も創造性が低下するとの結果が出ています。
“’俺はアドレナリン中毒だ。ストレスを抱えてベストを尽くしたぜ。馬鹿だろ!’なんていう人がいたら教えて欲しいものです”―と述べるのは、行動と認知科学の組織教授であるRichard Boyatzis。
4.発散思考:アイデアの分配
おそらく創造力のプロセスにおいて、一番これは重要な要素かもしれません。
私たちは、賢くてクリエイティブな人の方が良いアイデアを出せると思いがちです。事実、創造力の天才が生み出すものに勝るものは何もありません。アインシュタインの著書はほとんど誰も目を通しませんでしたし、モーツァルト、バッハ、ベートーヴェンの作曲も、まだ35%しか演奏されたことがありません。
つまり、革命的な発想はいつだってランダムだということです。アイデアの質に強く関連しているのは、頭の良さでもそれまでの実績でもなく、アイデアの量である調査結果が長年出ています。
私たちはつい、良いアイデアが1つ見つかるとそこで考えを止めてしまいがちです。締め切りまでにたくさん仕事量をこなせば、十分だと満足してしまう傾向にあります。可能性の低いことにエネルギーを使いたくないと思ってしまうのです。
トーマスエジソンやその他多くの革命家は、アイデアを分配する方法を利用していました。Crazy Eightsというブレインストーミングの方法も、この概念に基づいており、ほとんどの人がアイデアの量を増やすことが出来ています。
少しだけ、この考え方の訓練をしてみましょう。
問題を捉えて視点を変えてみる
従業員としてではなく、ライバル企業の1人として商品を見直してみましょう。理想的なユーザーを思い描くのではなく、気難しくてわがままなユーザーをイメージしておくことが大切です。リスクを避けるよりもそれに向かっていくのであれば(またはその逆も然りですが)、ソリューションにどのような変化が見られるでしょうか?
SCAMPER
アイデアが決まったら、それを置き換えたり、何かと合体したり、応用や修正そしたり、他の使い方をしてみたり、不要な部分を削除したり、別のものと入れ替えたりして、何度も練り直しましょう。
Crazy Eights
ほとんどの人がこれを見たことがあるでしょう。8分間で、全く違うスケッチを8個完成させるやり方です。とんでもなくクリエイティブなアイデアを思いつくことが目的です。
資料:Design Sprintのコンテクストに含まれるCrazy 8に関する雑誌の一部
アイデアを生み出す方法は、他にも沢山あります。重要なのは、複数の視点で問題に向き合い、最も高い可能性から低い可能性まで、あらゆる解決策を考えておくことです。