ビジュアルアートとグラフィックデザインを区別する細い境界線をめぐっては、非常に長い間議論されてきました。アーティストとデザイナーは両方ともビジュアルを構成し、共通のツールキットとナレッジベースを持っていますが、両者には明確な違いがあります。ただこの違いを厳密に特定するのはそうやすやすとはいきません。
違いの指標としては、例えば多くのデザイナーは自分自身をアーティストと見なしますが、デザイナーとして自分自身を分類するアーティストはほとんどいないことがあげられます。それでは、両者はどのように区別されるでしょうか。
本記事では、2つの工芸品を例として、アートとデザインの違いについて、その動機と意図を出発点として検討します。
初めに…
私は、アートとデザインの最も明白な違いの1つは、創造性の最初の火花の中にあると信じています。つまり、大まかに見てもアートとデザインはそれぞれ非常に異なる出発点から発しているのです。
デザインワークは通常、既存のメッセージを伝達する必要性または欲求に由来します。ストラップライン、ロゴ、コール・トゥ・アクション。一方、芸術作品はまったく新しいアイデアの表現です。それは、私的で個人的ななにかに生命を吹き込み、作者とオーディエンスとの間に感情的なつながりを作り出すプロセスです。
インスピレーションとモチベーション
別の見方のほうはいくぶん恣意的なものかもしれません。デザイナーの目的が既存のメッセージを伝えることであるというのが本当であれば、彼らはオーディエンスの行動を動機付けることを主な目的として作業していると言えるでしょう。
アーティストは、通常、感情をインスパイアすることを目指しています。ただそのようにしてインスパイアされた感情は、デザイナーがオーディエンスから感情的な応答を引き出すのと同じように、行動につながる可能性はあります。いわゆる鶏が先か卵が先かの問題とも言えると思います。
ロスト・イン・トランスレーション
ほとんどのデザイナーは、彼らの作品がオーディエンスから即座に理解されることを目指していますが、アーティストはそれほど明白でないつながりのために制作しています。アートはオーディエンスによって非常に様々に解釈され得るので、まれにしか単一の意味をもつことがありません。 ダ・ヴィンチのモナ・リザに関する数多くの異なる見解を考えてみましょう。あれは喜びの笑顔でしょうか、それとも悲しみでしょうか。あるいはどちらでもないのでしょうか。
見解は、それを見ている人の経験と見方に依存します。もしデザイナーが意図したものとは異なる方法でデザインが解釈されるのであれば、デザイナーが当初達成しようとしていたものは失敗したと言えます。
デザインはスキル、アートはギフト
これについて個人的なスタイルの点で考えてみましょう。 ソール・バースやピーター・サヴィルのようなデザイナーの中には、個性的なスタイルを独自に作り上げた者もあります。しかし、ほとんどのデザイナーにとって、多様性が成功の鍵になります。
デザインとは、教えられ開発されたスキルです。多くのデザイナーは自然な物の見方を持っていますが、これは彫刻、油絵、インスタレーションベースの表現のための生来の能力を持っているのとは違ったことです。
テイストの問い
意見とテイスト(趣味)は、視覚的な構成物を判断する2つのまったく異なる方法です。 ダミアン・ハーストが彼の独創的な作品The Immortalのためにホルムアルデヒドの中にサメを保存したとき、世論は二分しました。そしてそれは好みについての問いと考えられました。
人々の好き嫌いが話題に入ってくるときには、テイストといういい方が通常使用されます。デザインは当然のことながら個人的な趣味の要素を含んでいますが、それが判断基準となるわけではありません。
優れたデザインは、クリエイターや見る者の個人的な趣味に訴えることなしに成功することができます。要点さえ達成すれば、良いデザインであり得ます。基準は個人の趣味ではなく、事実についての意見なのです。
デザインが終わり、アートが始まるのはどこからでしょうか。ビジュアルコミュニケーションをカテゴリに分類する試みは複雑で、最終的には不可能です。芸術と美は、見る者の目の中にあります。そしてそれは、これらのメディアの、もっともではないにせよ、とにかく素晴らしい、面白い面の一つです。
デザイナーのあなたは、同時に自分をアーティストと思いますか?
あるいはそもそもデザインへの鋭い目なしに、アーティストが何かを創り出すことはできるでしょうか?
議論は未決定です……
※本記事は、The Difference Between Visual Art and Graphic Designを翻訳・再構成したものです。
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