現代のビジネスは、「The only constant is change(唯一の不変は変化)」というシンプルな格言で表現できます。プロジェクトマネジメントほどこの格言が真実味を帯びる分野はないでしょう。この分野では、わずか20年前には、スケジュールや目標を管理できるツールやオンラインダッシュボードはありませんでした。「アジャイル」や「スクラム」といった言葉を聞いても、未知のものに直面したときに本能的に生じるであろう混乱や拒否反応を起こしていたはずです。
現在、プロジェクトマネジメントは常に成長し進化し続ける分野となっており、この分野で成功したいと思う人はプロジェクトマネジメントを学び、将来の変化を予測しなければなりません。そのため、2020年のプロジェクトマネジメントのトレンドについて知っておくことも重要です。
トレンド
あらゆるトレンドの予測を行うことは、かなり難しくコストもかかる、不要なことです。なぜなら、最も重要なステップは、行動の大まかな方向性を決めることにあるためです。このような方向性のちょっとした分岐を発展させることは難しいことではないので、何年もかけて作業する意味はありません。
特定のプロジェクト環境に合わせたアプローチ
これまで長い間、プロジェクトマネジメントをトップレベルでコントロールするには、すべてのプロジェクトに適用できる一つのプロジェクトマネジメント手法を作ることがもっとも優れた方法であると考えられてきました。柔軟な対応が求められるようになった今、あらかじめ設定された硬直したアプローチから脱却し、アプローチは変わり続けるでしょう。
プロジェクトに最適な手法を明らかにするだけで十分なように思えますが、そのようにした結果、このステップにおいて多くのプロジェクトが成功を逃しています。ある特定の側面へ焦点を当てる時代はもう過ぎ去り、柔軟性や適応性、プロジェクト管理のための最適な戦術や戦略の選択へと移行しています。
この変化は、プロジェクトマネージャーがこれまで以上に自らの批判的思考スキルとプロとしての判断力に頼らなければならないことを意味します。しかし、多くの事業において、プロジェクトマネージャーに独自の手法を生み出す余裕を与えることによるポジティブな影響が目の当たりにされています。
プロジェクトマネジメントの分野における、コーチング、メンタリング、サポートの重要性の高まり
プロジェクトマネジメントには、堅苦しいアプローチから脱却するという選択肢があります。新人のプロジェクトマネージャーは効果的かつ独立したプロジェクトの指揮に必要な自信とスキルを身につけるために、メンターやコーチに頼る必要があります。専門家は、近い将来、マネージャーは経験不足を補うために、プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)やより有能で経験豊富な同僚に頼ることが多くなるだろうと予測しています。
PMIの2017年の「Pulse on the Profession Survey」では、プロジェクトマネジメントオフィスの開発をより進めることが示されています。PMOを設置する理由の一つは、PMOが「組織のハイレベルな戦略的ビジョン」と「プロジェクトの実行」との間のギャップを埋めることができるからです。
PMIの調査によると、プロジェクトマネージャーがPMOのサポートを受けることができた場合、そうでない場合と比べて38%ほど多くのプロジェクトが戦略的なビジネス目標を達成できたとのことです。また、失敗だと認識されたプロジェクトは33%少なかったそうです。
「人」への気配り
硬直した形式的な手法からの脱却に伴い、プロジェクトマネジメントの分野では、実際にプロジェクトを生み出す「人」の優先順位が高まってきました。プロジェクトマネージャーは、あらゆる取り組みや問題と同様に、高いパフォーマンスは人自身と人の努力から始まると認識するようになりました。これが、プロジェクトにおけるアジャイルマインドの価値が高まっている理由です。
人工知能は、客観的でも芸術的でもある現実を見ればわかるように、プロジェクトに新しいものや特徴的なもの、唯一無二のものをもたらすことはできません。人工知能は開発者がプログラムしたことしか実行しないため、これまでも、そしてこれからも、人なしでプロジェクトを実現する方法論はないのです。
当たり前だと思われるかもしれませんが、すべてのプロジェクトマネージャーがこのことをわかっているわけではありません。その結果、プロジェクトチームを編成する際にはより慎重にならざるを得なくなり、チームメンバーとの最適で効果的なコミュニケーション方法を選択しなければならなくなるでしょう。
プロジェクト・リーダーシップ・コーチのスザンヌ・マドセン氏や、現在最も優れたリサーチ・マネージャーの一人であるケビン・ロナーガン氏など、プロジェクトマネジメントの分野における一流の専門家らが、この意見を共有しています。
認定資格よりもスキルが重要
プロジェクトマネージャーという職業が、明らかに変化しているように思われます。─今までの柔軟性がなく白黒はっきりした要件から離れ、もっと順応性のある何かへの移行─この変化は、プロジェクトマネージャー自身の資質にも当てはまります。企業は、資格よりもプロジェクトマネジメントのスキルを持った専門家を採用するようになってきています。昔ながらの雇用者にとっては資格は依然として重要な意味を持つのでしょうが、プロジェクトマネジメントの職務に就くためには、もはや不可欠なものではないかもしれません。
とはいえ、PMP資格は、給与をアップさせたりプロジェクトマネジメントの分野での専門性を示したりするのに役立つ、価値ある強みとなります。経験やスキル、特に感情的知性(EQ)のような「ソフト」なスキルは、雇用者にとってはるかに重要な意味を持つでしょう。
ナイジェル・カークマンはInside Big Dataの記事の中で、プロジェクトマネージャーが耳を傾けるべき意見を述べています。その言葉を引用します。「プロジェクトマネージャーは、問題を解決したり、問題が発生したときに前向きで建設的な道を見つけようと思考したりするために、感情をコントロールする必要性が高まっています。(中略)EQという属性が重視されるようになったのは、これらの能力がエンゲージメントの向上、離職率の低下、生産性とロイヤルティの向上をもたらすため、企業の収益性向上に直結するからです。」
システム思考とシステム統合が、プロジェクトマネジメントの中でより重要になる
モノのインターネット(IoT)のおかげで、現在作られているものや開発されているものはすべて、連結性の要素を持っています。このため、連結性の設計とテストの両方を行う必要があり、スコープの複雑さが増しています。この分野の不確実性はリスク要因となっています。デジタルトランスフォーメーション、ロボット工学、人工知能は、システム思考にのみ依存しています。
クラウドコンピューティングやビッグデータの能力向上などは、長期にわたってプロジェクトマネジメントの分野にも大きな影響を与えるでしょう。
今後数年のうちに、ほぼすべての新しい製品、プロセス、サービスに、システムの知識や理解を求められるような何らかの自動化や拡張が施されると言っても過言ではありません。というのも、この形式に対応できるものはすべてグローバル化していく傾向にあるからです。つまり、すべてのものがすぐにエコシステムの中で動くようになり、そのエコシステムをうまく機能させるのがまさにシステム思考とシステムインテグレーションであるということです。
レイチェル・バーガーやレイ・シーンをはじめとする多くの専門家は、人工知能やIoTの発展こそがプロジェクトマネジメントのあり方を変えると断言しています。加えて、この変化はポジティブなものになるはずです。人工知能はプロジェクトマネジメントの分野で多くのメリットをもたらすためです。人工知能が役立つ可能性のある問題については、専門家、特にエリザベス・ハーリン氏がはっきりと意見を述べています。
・自然言語検索による潜在的リスクの特定
・リスク評価の改善
・リスク対応の検査
・リソースの割り当てと平準化
・インテリジェントスケジューリング
・煩雑な繰り返し作業の自動化
・プロセスと意思決定における一貫性の向上
これらの側面がプロジェクトマネジメントの分野に与える影響が絶対に肯定的なものである、とは言えませんが、それでも人工知能やIoTの影響を受けないわけではありません。
アジャイルやスクラム手法の人気の高まり
妥協のない画一的な方法論の優先順位が低いからこそ、何かが飛び込んできてその座を奪うことになるのです。アジャイルやスクラムは、ビジネスや市場環境の変化を反映してスコープの要件を素早く適応させる反復性があるため、今後も人気が高まっていくでしょう。
ビジネス展開の記録的なペースが人気の高まりを後押ししました。市場投入までの時間と投資収益率は常に重要ですが、ビジネスの変化の速さは、プロジェクトの実施が生み出すことのできる利益の流れを縮小させています。つまり、プロジェクトの創設者がその成果を最大限に活用するためには、プロジェクトを迅速に完了させることが重要になってきたのです。
この点において、スクラムやアジャイル手法の重要性は決して小さくありません。これらのアプローチには多くのメリットがあります。1つ目はプロジェクトの統制が強化されること、2つ目はリスク状況の可能性を減らすことです。また3つ目は、ROIが早くなることです。これらの理由から(他にもたくさんありますが)、アジャイルとスクラムはすぐに人気が高まるでしょう。
専門家の予想
プロジェクトマネジメントのようにヒューマンファクターに左右されるものを予測するのは非常に難しいですが、専門家たちは試行錯誤を続けています。最も優れた専門家の一人であるRay Sheenは、プロジェクトマネジメントの将来について、かなり楽観的な見方をしています。まず、プロジェクトマネジメントのためのソフトウェアは、もっと統合され、管理と使用が容易になるでしょう。
彼は、プロジェクト管理ソフトウェアは今後も使いやすくなり、個人の時間管理アプリなどの他のツールとよりシームレスに統合されていくと考えています。
プロジェクト管理ソフトウェアも含めたすべてのソフトウェアアプリケーションは、ユーザーエクスペリエンスに大きな重点を置いています。これにより、プロジェクト管理ソフトウェアは、専門的なスキルを必要とするエンタープライズアプリケーションから他のモバイルアプリケーションと連携するモバイルアプリケーションへと移行し、より広く受け入れられ利用されるようになるでしょう。
「シームレスなワークフロー管理が可能になりましたが、それは最近ではソフトウェアを簡単に統合されすべてが連動するようになったからです」と、Parallel Project Trainingへの投稿でMichelle Symondsは述べています。すべてがリアルタイムで起こり、同じ言語で会話できるようになれば、チームの協力の方法を大きく変えることができると考えています。
テクノロジーはすでにプロジェクトマネジメント界の原動力となっていますが、今後もさらなる調整や進歩がなされることで、その傾向はさらに強まるでしょう。