ディープフェイクテクノロジーはインフルエンサーマーケティングをまったく新しいレベルに引き上げ、ブランドにとって信頼感と透明性がますます最優先事項になります。
ソーシャルメディアは、有名人の推薦とオーディエンスと繋がるインフルエンサーとの影響力に対する見解を変えてきたことは間違いありません。
インフルエンサーマーケティングは、信じられないほど効果的なマーケティング戦略であり、1ドルの支出に対してアーンドメディアで最大18ドルを稼ぎ出しますが、有名人の推薦とインフルエンサーマーケティングの両方にある問題は、かなり費用がかかり、非常に特定のメッセージに限定されてしまうことです。
しかし、有名人やインフルエンサーにオーディエンスセグメントへ直接アナウンスしてもらえたらどうなるでしょうか?
ディープフェイクテクノロジーの力により、ブランドは従来の数分の一のコストでハイパーターゲットインフルエンサーのメッセージをすぐに配信できるようになるのです。
ディープフェイクの時代
2019年5月、サムスンのロシアの人工知能研究所は、わずか数枚の画像でとてもリアルなディープフェイクビデオを作成可能にするディープフェイクテクノロジーの新概要についての論文を発表しました。
これまで、ディープフェイクビデオ製作には膨大なデータが必要だったため、映像は主に有名人に限定されていました。
多くのメディアがこの新しい技術を「気味が悪い」と即座に非難する一方で、新しいディープフェイクは昔から存在する技術の当然の進歩の結果であると思っている人々もいます。
GlobantのシニアソリューションアーキテクトであるBill Bill Bronske氏によれば、私たちは実際、気づかないうちにディープフェイクに慣れ親しんでいるといいます。
「動画の歴史でいえば、特にテクノロジーを駆使して画像を加工する動画は一般の人々はますます身近になっています。しかし、この種のツールは、エンターテイメント業界で長年にわたって使用されてきたものです。
たとえば、スタントマンの顔を俳優の顔に置き換えることは、エンターテイメントの一環であり、ほとんどの視聴者は気にもしていません。」
Bronske氏の言うことはもっともです。消費者は、ディープフェイクは理論上では気味が悪いと言いつつ、自分の好きな有名人が広告に使われているのがフェイクだろうと本物だろうと気にはしていないのです。
ディープフェイクは必ずしも悪いわけではない
ディープフェイクテクノロジーをオーディエンスが受け入れている最も良い例は、映像スタートアップ企業のSynesthesiaががRidley Scott Associatesと提携して非営利組織「Malaria No More」のために作成したビデオです。
ディープフェイクテクノロジーを使い、サッカースターであるDavid Beckham氏が「Malaria Must Die」(マラリアを撲滅させよ)と呼ばれるキャンペーンで9つの言語を話しているかのようなビデオを製作したのです。
この動画はYouTubeで100,000回以上視聴され、オーディエンスはこの技術に不快感を持っていないことは明らかです。
マーケティング担当者はディープフェイクの可能性に注目しはじめています。Synsthesiaは、製作以来310万ドル以上を稼ぎ出しました。他クライアントには、Dallas MavericksというバスケットボールチームやMcCaan Worldgroupが含まれています。
Bronske氏は、このビデオは有名人の推薦とインフルエンサーマーケティングの革命の始まりにすぎないと考えています。
「インフルエンサーの影響力の観点でみると、ソーシャルメディア上で有名人の力は組織や製品を宣伝する際に非常に大きなものであることがわかります。コミュニティで社会問題と積極的行動を促進するおそらく最も強力な方法でしょう。」
映像では、ベッカム氏は9つ言語で話しています。よって、それぞれの言語を理解するあらゆる視聴者にリーチし、メッセージが9倍にも拡大されることになります。
現在、インフルエンサーマーケティングは費用がかかり、セグメント化されていません。メッセージは、ブランドのオーディエンス全体向けの単一映像やソーシャル投稿に限定されています。
しかし、ディープフェイクは、ターゲットを絞り、ある時点や場所においてパーソナライズされたメッセージでさまざまな種類の顧客にリーチする力になることを意味します。
透明性がカギになる
ただし、ディープフェイクが「不気味」と呼ばれることが多いのは、動画作成に本人の同意なしで被写体が使用されているというニュースが多いためです。
ソーシャルメディアで多くの人が本物だと信じていたナンシー・ペロシの不明瞭な話し方のビデオを覚えていない人はいないでしょう。ディープフェイクの取り締まりは以前曖昧で、多くの人がテクノロジーの悪用を懸念しています。
Bronske氏は、各ブランドがディープフェイク映像で教育性と透明性を提供していく倫理的責任は、被写体だけではなくオーディエンスに対してもあると考えています。
「見る人を教育することが重要です」とBronske氏は言います。 「ブランドや組織、さらには有名人も、より誠実さを意識した教育の責任をリードできると思います。 ディープフェイクの懸念がニュースで明らかになればなるほど、ブランドの透明性は重要となり、懸念に対抗していくことになるでしょう。」
信頼を裏切る行為は最終的にブランド自身を傷つけることになる
2020年の選挙が近づき、議員たちはペロシをフィーチャーして流通したようなディープフェイクビデオの出現についてパニックに陥り始めました。
6月、議員は、ディープフェイクビデオを適切に法制化するため、この種では初めての議会聴聞会を招集しました。法律がはっきりと決まるまでは、ディープフェイクの倫理性は依然として少し疑わしいままです。
Bronske氏は、ディープフェイクを悪用して顧客をだますようなブランドは、最終的には評判を傷つけ、顧客を失うだけになると言います。
「消費者へのブランドの信頼構築の方法としては、合成ビデオを識別するような透かし模様やメッセージングを使用するなどの必要があるでしょう。 ブランドへの信頼感は、敢えて壊すことなどとてもできないほど価値があるものなのです」