私は最近「Hacking Growth」という本を読みました。著者のショーンアリスはグロースハッキングのエキスパートで、多くのスタートアップにおいて中核となって企業の成長に貢献している人物です。
この本ではスタートアップが成長するまでに必要な、上手く組織化された科学的なフレームワークが紹介されています。著者は現在のアイコニックな企業、FacebookやTwitter、Dropbox,、SurveyMonkeyなどがスタートアップの時期にどのようなアイデアを駆使して成長を図ってきたか、様々な実例を挙げてこのフレームワークについて論じています。
この本ではフレームワークを成長させるためコンセプトがひとつ紹介されています。企業は買収、アクティベーション、リテンション、収益化、レフェラルなど成長戦略に向けて大金を使う前に製品の市場への適合性を見極める必要があるということです。
この著者の判断基準は製品と市場の強い適合性で「もしその製品が使えなくなった場合、最低でも40%の既存ユーザーが失望する」というものです。これはシンプルな調査を行いさえすれば測定することが可能です。
自社の製品の市場との適合性が非常に高い場合、次にするべきことは最も製品を熱心に使ってくれているユーザーはどういった人たちかを見極めることです。なぜ熱心に使ってくれるのことになったのか、どのように使ってくれているのかをよく知っておくことです。
この答えを見つけるのに必要なことは「なるほど!そうか!」というようなひらめき、いわゆる「アハ」があなたの製品のどこに潜んでいるのかを特定することです。
「アハ・モーメント」とはその製品の有用性がユーザーにひらめきを感じさせる瞬間のことです。この製品が何のために作られて、なぜユーザーにとって必要なのか、製品を使うことによってユーザーにどのような利益を与えるのか。こういった製品の核となる価値をユーザーが本当に理解する瞬間とも言えます。
「アハ・モーメント」を見つけるためにはもっとも熱心な製品ユーザーたちを探し、彼らの利用状況を掘り下げ、ユーザーが、「製品の核となる価値」にどのようにしてたどり着いたのかを理解することです。
製品の価値を実感し「アハ・モーメント」を得るまでにユーザーとった共通するアクションは何でしょうか?このアクションは継続的なユーザーと具体的なアクションをとったユーザーの交差する領域を最大化するものです。これがどういうことを意味するのかを皆さんがよく知っている企業、Facebookを取り上げて読み解いていきたいと思います。
Facebookは企業がまだ若いうちに厳密な実験を行い、成長を測定するチームはあることを発見しました。ユーザーが最初の7日間に少なくとも10人の友達を追加すればサービスとの結び付きが強くなり、Facebookを長く使ってくれるということです。
こう疑問に思う人もいるかもしれません。「なぜ1人や50人でなく10人なのだろう。」と。
少なくとも1人の友達を追加したユーザーだけを検出するということは、大多数のアクションを実行し続けなかったユーザーを検出するということです。一方、少なくとも50人をラインにしてしまうと、アクションを実行しているけれどそんなにたくさんの友達を追加していないユーザーを見落とすことになります。
したがってこの調査のゴールは実行されたアクションと継続ユーザーの交差領域を最大化するアクションを見つけることで、Facebookの場合は「少なくとも10人の友達追加」だったというわけです。
ひとたびユーザーのアハ・モーメントを突き止めたFacebookはユーザーが友達を探して追加できる機能の向上を最優先するために全社を挙げて取り組みました。Facebookの登録フローも変更され、オンボーディングの時点で友達を見つける手助けをするようになりました。
TwitterもFacebookと同様にユーザーのアハ・モーメントを特定しました。Twitterの場合は、「少なくとも30人のユーザーをフォローし、そのフォロワーの1/3にフォローバックされている」というものでした。
しかしながらFacebookとTwitterの成長は対照的です。Facebookは大多数の法則に従わずにほとんど地球のすべての人たちをカバーしたのに対し、Twitterはその1/10にも達していません。(DAU:1日あたりのアクティブユーザー数において)
FacebookのDAUは15億人、MAU(一月あたりのアクティブユーザー)は232万人です。Facebookの使用が制限されている、8億人のインターネットユーザーを有する中国を除いた地域での統計です。Facebookはインターネットにアクセスできる人々(2018年時点で32億人)のほとんどをカバーしたことになります。
一方TwitterはDAUは1億2600万人、MAUは3億2600万人と発表しています。グラフのように2015年の第一四半期から約4年間停滞しています。
両企業の違いを簡単に説明するとすれば、Facebookがオフラインでの友達や家族のグラフをデジタル化したものであるものであるのに対し、Twitterでは自分自身の興味のグラフを多くの時間を使ってゼロから築き上げなければならないため、ユーザーはひとたびサインアップするとなかなか使用を辞めることがありません。そのためTwitterはFacebookと同等のスケールやレベルになることを期待していないと言えます。
しかしながら成長の有無はひとつの理由のみに左右されるものではありせん。他にもっともらしい説明を加あげるならば、Twitterは定期的に創業者の間で統制についての内紛が起こること、トップとなる強烈なリーダーシップがないこと、ユーザー理解するために必要なツールの構築をしないこと、Facebookの調査チームのようにユーザーグロースに熱狂的に焦点を当てていないことなどが挙げられます。こういった理由、またはもっと多くの理由が製品の停滞を招いているのです。
製品が進化する過程でTwitterが逃したチャンスについてこの記事で詳細に掘り下げるのは気がすすみませんが、以下に挙げるものはそうする価値があるでしょう。
Twitterは文字に依存する製品です。画像を扱えるようになったのは2011年から、つまりサービスが開始してからから丸5年経った後のことです。同時期にFacebookではすでに100億件の画像がアップロードされていました。FacebookだけでなくInstagramもこの機会を利用して画像を加工して共有できるツールを提供し、そのためのネットワークを構築しました。
多くのセレブリティやインフルエンサーといった人々がファンとの交流や自身の情報を発信するツールとしてTwitterよりInstagramを好んで使うようになりました。もっと悪いことにはTwitterの最高のコンテンツがスクリーンショットとしてInstagramに投稿されているという事です。
話が横道に逸れすぎる前にアハ・モーメントの話に戻りましょう。Twitterがはじき出した「少なくとも30人のユーザーをフォローし、そのフォロワーの1/3にフォローバックされている」というものは製品の正しいアハ・モーメントだったのでしょうか。Twitterは何を測定してアハ・モーメントを探し出したのでしょうか。他により良く機能するアハ・モーメントがあったのではないでしょうか。
製品の作り手としては、アハ・モーメントを特定した後は何に目を向ければ良いのか、どういったセグメントのユーザーがアハ・モーメントを反映するのか、ニッチな市場に打って出るべきか、それとも大衆向けにするのか、市場を広げるにはどのようにアピールすればいいのか、などなど疑問は尽きません。
残念ながらまだこれらの答えにはたどり着いていないのですが、もっと深く掘り下げて答えが見つかれば、その時は皆さんとシェアしたいと思います。