天文時計は、私たちが日常的に使っている単なる時計ではありません。太陽、月、星座、時には惑星の相対的な位置など、天文学的な情報を表示する特別な機能を備えているのです。天文学者ニコラウス・コペルニクスやガリレオ・ガリレイのような偉大な頭脳のおかげで、18世紀に天文学が注目されるようになり、天文時計への関心が再び高まりました。
そういった天文時計の最初の形は、おそらく11世紀に宋の蘇頌[そしょう]によって作られたものでしょう。それから長い年月を経て、巨大な機械仕掛けの、注目に値する優れた時計が数多く作られるようになりました。この記事では、世界中の驚くべき天文時計をご紹介します。
18. ユリス・ナルダン アストロラビウム・ガリレオ・ガリレイ
ユリス・ナルダン社は、1846年に創業したスイスで最も歴史ある高級時計メーカーです。同社は「天文三部作」の製作で有名です。1985年に発表された「アストロラビウム・ガリレオ・ガリレイ」を皮切りに、3つの異なる天文時計のコレクションを展開しています。
アストロラビウムは、現地時間、太陽時【太陽の日周運動を基準にした時刻】、太陽、月の軌道と食、いくつかの主要な星の位置を表示します。この時計は、現地時間を確かめながら月や星をチェックすることをいとわないアマチュア天文家や宇宙オタクにとって非常に便利です。
17. スタラ・ビストリツァの天文時計
スタラ・ビストリツァ(Stará Bystrica)は、スロバキア北部ジリナ州チャドカ郡の自治体です。この小さな自治体には、世界で最も正確で最も若い天文時計があります。2009年に建設されたこの近代的な天文時計は、すでにスロバキアの人気観光スポットとなっています。実際には聖母マリアを表すスロバキア最大の木製像と言われています。
時計塔には2つの鐘があり、1つは時刻を知らせるために使用され、もう1つはスロバキアの歴史上の重要人物の7つの木像の動きの背景に特別な効果をもたらしています。しかし、最も重要な部分は、太陽と月の位置と月の満ち欠けを表示する機械であるアストロラーベ【天文学者や航海士が、太陽・恒星・惑星の位置を測定するために使った天文機器】です。
16. クレモナの鐘楼トッラッツォ
クレモナの天文時計
画像出典:Massimo Telò/ Wikimedia Commons
トッラッツォは、イタリアのロンバルディア州にあるクレモナ大聖堂の鐘楼です。高さは112.7メートルで、世界で3番目に高い鐘楼です。ちなみに、1番目は南ドイツのランツフートにある聖マルティン教会の塔、2番目はベルギーのブルージュにある聖母教会の塔です。
トッラッツォの4階には世界最大の天文時計があります。この時計の機構は、1583年から1588年にかけてフランチェスコとジョヴァン・バッティスタ・ディヴィツィオーリ(父と息子)によって作られました。この時計は、星座と太陽と月の方角を正確に表示します。
15. ツィットグロッゲ(時計塔)
スイス、ベルンのツィットグロッゲ(時計塔)
画像出典:Mike Lehmann
スイスのベルンにあるツィットグロッゲは、13世紀に建てられたランドマーク的建造物です。当初は、監視塔と牢獄として使用されていましたが、15世紀に時計塔としても使用されるようになりました。天文時計の文字盤はアストロラーベに似ています。
平面天球図は3つの時間帯の空を表す3つのゾーンに分かれています。平面天球図の周囲には、十二宮を表す網のような金属の切り抜きがあり、ユリウス暦の文字盤もあります。月の文字盤は星座盤の内側のリングを一周し、月の満ち欠けを表示します。
14. ボーヴェの天文時計
画像出典:Peter Potrowl
ボーヴェの天文時計は、フランス北部の都市ボーヴェのサン・ピエトロ大聖堂にあります。この時計は1865年から1868年にかけてフランスの時計職人オーギュスト・リュシアン・ヴェリテによって製作されました。
高さ12メートル、幅6メートルのこの時計には52の異なる文字盤があり、太陽と月の出入り、潮の満ち引きの時刻、いくつかの惑星の位置、そして世界18都市の現地時間が表示されています。中央には、イエス・キリストと12人の弟子(使徒)が描かれ、時間と分が表示されています。
13. エクセター大聖堂の天文時計
画像出典:August Schwerdfeger
イングランド南西部の都市エクセターにあるエクセター大聖堂の天文時計は、15世紀、1484年頃に作られたと考えられています。ご覧の通り、この時計には3つのリングが見られます。一番外側のリングは、太陽を表すユリの紋章をあしらった黒い円盤で構成されていて、これは24時間ごとに1周します。
1周する間に、頭部または上部の点は現地時間を表示し、ユリの紋章の尾部は太陰月の日を表示します。2つ目のリングの内側にある球体は月で、半分は黒、半分は銀で描かれており、自転しながら月の満ち欠けを表示します。中央の地球は3つ目のリングの中にあり、金色で描かれています。
12. グダニスクの天文時計
画像出典:Deror Avi
ポーランドの都市グダニスクの天文時計は、1464年から1470年にかけてドイツの時計職人ハンス・デュリンガーによって作られました。聖マリア教会にある非常に特別なもので、世界中の歴史的な時計の中でもユニークな名残をとどめています。
この時計はすべて木でできており、高さは約3.5メートルで、木製の時計としては世界で最も高いものかもしれません。現地時間、月と太陽の相対位置、星座、聖人カレンダーまで、あらゆるものを追っています。
伝説によると、デュリンガーはグダニスクの天文時計の完成後、同じ重要性と美しさを備えた時計を他の場所で製造できなくなるように、教会当局によって意図的に失明させられたということです。しかしながら、彼はその後、隣町で別の自身の傑作を完成させていますので、これは単なる伝説にすぎないのでしょう。
11. ルンド大聖堂の天文時計
ルンド大聖堂のHorologium mirabile Lundense
Horologium mirabile Lundenseは、スウェーデンのルンド大聖堂にある14世紀の天文時計です。時計は上下2つの部分に分かれており、上部の板が月と太陽の方角の異なる位相を示す天文時計です。
下部の板はカレンダーになっていますが、ただのカレンダーではありません。様々な宗教上の祝日の日付を計算するために使用できます。円形のカレンダーの中央には、この大聖堂の守護聖人である聖ローレンスと4人の福音伝道者が描かれています。1837年、この時計は一般公開されない場所に保管されましたが、1923年には元に戻されました。
10. ルーアンの大時計
ルーアンの大時計
画像出典:Tristan Surtel/Wikimedia Commons
フランスのノルマンディー地方にあるルーアン市民の誇り、Gros Horloge(大時計)は14世紀の天文時計です。その機構はフランスで最も古いもののひとつです。この時計は、塔の両側のGros Horloge通りの繁華街に交差する円弧状に、まるで双子の姉妹のように設置されています。文字盤の直径は2.50メートルで、1本の針が時を示しています。
文字盤上部のオクルス【ドームの中央部に設けられた円形の天窓】には月の満ち欠けが描かれています。この月は29日で一回転します。曜日は文字盤の底部にある開口部に表示され、月(月曜日)、火星(火曜日)、水星(水曜日)など、曜日ごとに寓意的な主題が描かれています。
9. ロストック天文時計
ロストック天文時計
画像出典:Wikimedia Commons
この記念碑的な天文時計は、ハンス・デュリンガーによって1472年に建造されました。時計の機構は3つの段階に分かれています。一つ目は、使徒が一周するもの。真ん中の時計は、毎日の時刻と黄道帯と月の満ち欠けを表示します。最後の一番下の時計は、実際には2017年まで有効です。この時計は、おそらくこの種の時計で、オリジナルの計器を備えた唯一の現役の時計でしょう。
8. ブザンソンの天文時計
画像出典:Wikimedia Commons
フランス、ブザンソン大聖堂の天文時計は、1857年に作動しなくなったベルナルダン製作の時計の代わりとして、1860年に設置されました。オーギュスト・リュシアン・ヴェリテが3年がかりで製作したものです。この時計は、イエスが復活し、世界における人類の存在に影響を与えたときのその日の毎秒を示すことを目的としています。
7. オロモウツ天文時計
オロモウツ天文時計
画像出典:Michal Manas
オロモウツ天文時計は、チェコ共和国モラヴィア地方の主要都市オロモウツにあります。現在の天文時計の外観は20世紀半ばに遡り、かつての社会主義リアリズムの美学の痕跡を残しています。この時計のモザイク装飾は、窪みの側面に描かれた各月の特徴的な仕事に関する様々な描写から成っています。モザイク装飾の下部には様々な労働者階級を象徴する人物が描かれ、窪みの上部には王と貴族が描かれています。
6. ストラスブールの天文時計
ストラスブールの天文時計は、フランス、アルザス地方の都市ストラスブールのノートルダム大聖堂にあります。現在の時計は1843年に設置されました。これ以前にも2つの時計があり、最初の時計は14世紀に、2番目の時計は16世紀に作られました。主な機能は、永久カレンダー(グレゴリオ暦を含む)、太陽系儀(惑星文字盤)、太陽と月の実際の位置の表示、日食と月食の表示などです。
5. ソーネスの時計
ソーネスの時計
ソーネスの時計は、設計者であり発明者でもあるラスマス・ソーネスの名にちなんで命名されました。ソーネスはこういった時計を4台設計したと言われていますが、現在残っているのは1台のみです。
この時計は、芸術、科学、職人技の素晴らしい融合であり、多くの点でユニークです。その印象的な機能には、2種類のカレンダー、太陽と月の推定位置が含まれています。また、太陽と月の周期の補正、日食なども含まれています。
4. アル=ジャザリーの城時計
アル=ジャザリーの城時計の機械図面
イスマーイール・アル=ジャザリーは、1206年に『巧妙な機械装置に関する知識の書』を著したことで知られるイスラムの多才な人物です。この本の中で、彼は100以上の機械仕掛けについて、その組み立て方とともに説明しています。歴史家たちにとって、アル=ジャザリーの著書は写本が大量に残っており、当時かなり人気があったようです。
著書の中で、彼は「城時計」と名付けた巨大な水力天文時計についても記述しています。それによると、城時計は高さ約3.3メートルで、単に時間を計るだけでなく、それ以上のことができたようです。
メインタンクから注入される水を動力源としています。調整された水は、自動化された時刻表示、自動化されたドアを通って毎正時にマネキンが登場すること、ロボットミュージシャンが演奏することなど、一連のイベントを制御し、作動させます。また、星座や太陽・月の軌道も表示されます。
3. ウェルズ大聖堂の時計
ウェルズ大聖堂の時計
画像出典:Wikimedia Commons
有名なウェルズ大聖堂の時計は、オリジナルの状態で現存する英国で2番目に古い時計機構とされています。1386年から1392年の間に製造された現存する機構は、19世紀に交換され、現在もロンドン科学博物館で稼働しています。文字盤は、中心の固定された地球の周りを太陽と月が回っているという、地動説的な宇宙観を表しています。
2. プラハの天文時計
プラハの天文時計
画像出典:Andrew Shiva / Wikipedia / CC BY-SA 4.0
チェコ共和国の首都プラハにある天文時計は、プラハのオルロイとも呼ばれ、現在も稼働している世界で3番目に古い天文時計です。1410年から旧市庁舎の南壁に取り付けられているオルロイは、600年以上もの間、プラハの誇りとなっています。
時計機構は、太陽と月の位置を示す天文文字盤、月齢を示す暦文字盤、そして「使徒たちの散歩道」という3つの主要部品で構成されています。
1. 蘇頌の水運儀象台
蘇頌[そしょう]の時計塔
望遠鏡が発明される以前から、星の研究は肉眼で行われていました。後の文明で発展した天文学の伝統の基礎を最初に築いたのはバビロニア人でした。中国人は天文時計を発明したわけではありませんが、歴史上、優れた天文時計を生み出したことは確かです。
1092年、中国の天文学者であった蘇頌は、精度と革新性の両面で時代を先取りした本格的な水力天文時計を設計・製作しました。残念ながら、オリジナルの時計は1126年に破壊されてしまいましたが、蘇頌の時計のレプリカが中国台中市の国立自然科学博物館に現存しています。