「浸透」は、分子が空間内で均等に分布する傾向がある「拡散」の一つの例です。拡散は気体、液体、固体のすべての媒体で起こりますが、浸透は液体と(多くの場合)気体の中でのみ起こります。
浸透についてもっと詳しく説明すると?
浸透とは、水などの溶媒【他の物質を溶かす物質】が半透膜を介して低濃度の溶液から高濃度の溶液へと移行するプロセスです。これは受動的なプロセスであり、エネルギーを消費せずに起こることを意味します。
では、半透膜とは何でしょうか? 半透膜とは、ある分子や物質は通しても他の分子や物質は通さない、というバリアのようなものです。たとえば、食品用ラップフィルムは、水蒸気や空気は通しますが、食べ物や水は通しません。同様に、細胞の膜は、水や特定の溶質(溶媒に溶けた小さな分子)は通しますが、それ以外の溶質は遮断します。
このプロセスは、1748年にフランスの物理学者ジャン=アントワーヌ・ノレによって初めて記録されました。その1世紀後、ドイツの化学者が高選択性の沈殿膜を発明し、浸透流を測定する技術と技法を進歩させました。
浸透の仕組みは?
浸透作用は、常に膜の両側の濃度を等しくしようとします。溶質は膜を通過できないので、移動しなければならないのは溶媒(水)の方です。溶液は平衡状態に近づくほど安定します。このように、浸透膜は熱力学の法則【熱の移動にまつわる4つの基本的性質】に有利に働きます。
浸透のタイプ
一般的に、浸透には2つのタイプがあります。
・外方浸透(Exosmosis):細胞よりも溶質の濃度が高い溶液中に細胞を入れると、溶媒(水など)が細胞の外に移動します。これにより、細胞は、弛緩や原形質分離【細胞膜が細胞壁から離れる現象】を経験します。
・内方浸透(Endosmosis):細胞よりも水の濃度が高い溶液中に細胞を入れると、溶媒が細胞内に移動します。これにより、細胞は、膨張や原形質復帰【原形質分離を起こした細胞が元の状態に戻る現象】を経験します。
この現象を分かりやすく説明するために、私たちが日常生活の中で見かける浸透の非常に良い例をいくつか挙げてみました。
13. 水中のレーズン
タイプ:内方浸透
レーズンを純水に入れると、時間とともに膨らみます。これは、レーズンには水よりも高濃度の糖分やその他の溶質が含まれており、水が浸透してレーズンの細胞内に入ってくるために起こる現象です。
レーズンの細胞の中に溶媒(純水)が入るので、これは内方浸透の例です。同じことが、しなびたニンジンのスティックやヘタでも起こります。
12. 砂糖水の中のジャガイモ
タイプ:外方浸透
砂糖水にジャガイモを入れると、時間とともにジャガイモが縮みます。これは、ジャガイモの細胞内の水分濃度が砂糖水よりもはるかに高いため、水がジャガイモの膜を通って砂糖水に移動するためです。
溶媒がジャガイモの細胞から砂糖水に移動して平衡になろうとしていることから、これは外方浸透の例です。
11. 植物が土から水を吸収する
タイプ:内方浸透
植物は、葉、茎、根などの表面全体で水を吸収しますが、水の大部分は根毛で吸収されます。この根毛が半透膜のような役割を果たし、水分子(溶媒)が高濃度(土壌)から低濃度(根)へと移動することができます。
その結果、根毛細胞は膨張し、浸透圧(溶媒を取り込みやすい状態)が下がります。
その後、水分子は木部導管と呼ばれる管に移動し、葉へと運ばれます。木部細胞の中では、水分子同士が水素結合によって強い力を発揮しています。気孔(葉にある小さな穴)から水が蒸発すると、失われた水を補うために、根の木部細胞からさらに水が吸い上げられます。
10. ナメクジに塩をかける
タイプ:外方浸透
塩とナメクジの相性はよくありません。なぜ塩がナメクジやカタツムリを殺すのか、不思議に思ったことはありませんか? ナメクジの湿った皮膚は半透膜の役割を果たしています。ナメクジの皮膚に高濃度の塩が付着すると、浸透圧によって細胞内の水分を外に出します。
水が出てくるのは、ナメクジの皮膚の外側と内側の塩分濃度が等しくなるからです。他の多くの生物と同様に、ナメクジも活動するためには水が必要です。そして、水分が失われすぎると、しなびて死んでしまうのです。
9. 真水に投入された赤血球
タイプ:内方浸透
赤血球は、血液に特徴的な色を与え、酸素を肺から各細胞組織へと運びます。哺乳類の赤血球は小さくて丸く、横から見るとダンベル型に見える双曲線で、半透膜を持っています。
真水の中に入れると、水が浸透して細胞内に入り、細胞が膨らみます。これは、イオンなどの溶質粒子の濃度が、赤血球の内部では外部よりも高いために起こる現象です。
細胞内に入ることのできる水の量は、細胞膜の圧力が細胞の内容物に作用することによって制御されます。多くの場合、細胞は細胞膜が処理できる以上の水を消費し、細胞が破裂してしまいます。この現象は「溶血」と呼ばれます。
しかしながら、赤血球を溶質濃度の高い溶液の中に入れると、水は細胞の外に出ます。その結果、細胞は小さくなり、円鋸歯状の形になります。
8. 魚が皮膚とエラで水を吸収する
タイプ:内方浸透または外方浸透(魚の種類による)
海水魚や淡水魚を塩分濃度の異なる水の中に入れると、細胞内に水が入るか、あるいは出て、魚は死んでしまいます。
淡水魚の血液や体液は、彼らが泳いでいる水よりもはるかに塩分が多く、そのため、エラから水が入ってきます。同様に、海に住む魚は、エラから水を失う傾向があります。
人間の身体と同じように、魚体も特定の濃度の塩分を必要とします。エラから出入りする水の量が多すぎると、魚は耐えられません。淡水魚は破裂し、海水魚はしなびてしまいます。
しかし、エラには、血液中の塩分を選択的に送り込む特殊な細胞があるため、このようなことは起こりません。淡水魚の細胞は定期的に塩分を取り込み、海水魚の細胞は定期的に塩分を排出します。海水はとても塩分が多いので、魚はエラと腎臓を使って余分な塩分を排出しているのです。
7. 塩水でうがいをすると喉の痛みが和らぐ
タイプ:外方浸透(喉の組織から余分な液体が出る)
塩水で喉の痛みが治るわけではありませんが、痛みや不快感が軽減されます。これは、塩水に含まれる溶質(塩)の濃度が、喉の組織に含まれるものよりも高いためです。
具体的には、塩水の浸透圧は、周囲の細胞の流体内の圧力よりも高くなります。そのため、うがいをすると、喉の組織から余分な水分が押し出され、腫れがひいて痛みが和らぐのです。
6.苺に砂糖をかける
タイプ:外方浸透
苺の外膜は、内部と外部を隔てる半透膜の役割を果たしています。内部にはすでに水分と天然の糖分が含まれています。切った苺に砂糖をかけると、果実の細胞外にある糖分の量が多くなり(糖分は水を引き寄せる性質があります)、水が苺の表面に移動します。
この現象を利用して、苺の漬け込みやゼリー、ジャムなどのおいしい食品を作ることができますし、賞味期限を延ばすこともできます。
5. 食品を保存する
タイプ:外方浸透(バクテリアの細胞が水分を失う)
私たちがジャムやピクルスを長期にわたって安心して食べられるのは、浸透のおかげです。どちらも濃縮食品であり、砂糖(ジャムの場合)、塩、油、酢、香辛料(ピクルスの場合)などが大量に含まれています。
これらは味を良くするだけでなく、バクテリアを殺したり、他の有害な微生物の繁殖を防いだりする優れた保存料としても機能します。
高濃度の砂糖や塩は、バクテリアの細胞に対して高張性【溶液の浸透圧が、その中に置かれた細胞よりも高い状態】を示します。バクテリアの細胞は、外部の高濃度によって水分を失い、微生物の成長を支える導電性が低下します。
4. 消化された食物が小腸と大腸で吸収される
画像提供:Cancer.gov
タイプ:内方浸透
水を飲んだり、食物を食べたりすると、食物は口から食道(10インチ【25.4cm】の伸縮性のある管)を通って胃に入ります。胃の中では、食物はたくさんの小さな部分に分解され、胃液と混ぜ合わされます。この混合物は、糜粥【びじゅく:胃内消化で食物が粥状になったもの】と呼ばれる厚い半流動性の塊を形成します。糜粥が小腸に移動すると、浸透が起こります。
腸上皮細胞(腸の内壁を形成する細胞)の濃度は、糜粥よりも低いため、平衡状態になるために、溶媒(水)が半透膜を通って、栄養分を含んだ状態で細胞内に入ります。
上皮細胞の近くには毛細血管があります。栄養分と水の両方が、毛細血管の細胞を通って、血液中に移動します。
3. 病原性細菌が腸管細胞に干渉する
走査型電子顕微鏡で撮影されたコレラ菌
タイプ:外方浸透
コレラ菌のような少数の病原性細菌は、人間の腸管細胞のイオン輸送チャネルに干渉する能力を持っています。このような細菌は、細孔を生成することによって腸壁の上皮細胞の透過性を変化させる腸毒素を生成します。
浸透の結果、水やその他の液体化合物が体外に流れ出し、重度の脱水症状や下痢を引き起こします。その結果、コレラ菌は腸の細胞に付着し、胃の中にいる一般生菌は洗い流されてしまいます。このようにして、コレラ菌は増殖するのに十分な領域を得ることができるのです。小さくても賢い微生物ですね。
2. コンタクトレンズ誘発性ドライアイ(CLIDE)
タイプ:外方浸透
コンタクトレンズを生理食塩水に浸す理由をご存知ですか? なぜ純水ではないのでしょうか? それは、コンタクトレンズ用の生理食塩水には、眼球と同じ濃度の塩水が含まれているからです。
レンズを溶液の中に入れておくと、レンズはしっとりとして柔らかく、快適な状態を保つことができます。そうしないと、レンズは装用中に水分を失うため、浸透によって目から水分を吸収してしまいがちです。
1. 浄水
タイプ:逆浸透
最も一般的で費用対効果の高い浄水技術の一つが逆浸透(RO:Reverse Osmosis)です。その名の通り、浸透を逆にしたプロセスで、浸透圧よりも大きな静水圧をかけると、溶媒が半透膜を自然浸透とは逆方向に通過します。
簡単に言えば、逆浸透とは、圧力(浸透圧よりも大きい)を使って半透膜に溶媒を強制的に通し、一方の側に溶質(汚染物質)を保持し、もう一方の側に純粋な溶媒(飲料水)を通す分離技術です。
このプロセスは、鉛農薬、硝酸塩、フッ化物、硫酸塩、ヒ素、バクテリアなどの一般的な汚染物質を水から除去するために広く使用されています。