発明家、あるいはイノベーターとは、ほとんどの場合、社会に大きな利益をもたらす新しい装置、方法、あるいは形態を発見する人のことです。少数ながらアフリカ系アメリカ人も、何十年にもわたる奴隷制度、拷問、人種差別にもかかわらず、発明家として同じように成功を収めてきました。
この記事では、忘れ去られた、あるいはあまり知られていないアフリカ系アメリカ人の発明家やイノベーターを紹介するとともに、彼らに敬意を表します。
14. ロニー・ジョンソン
ロニー・ジョンソン
画像出典:米海軍海事技術本部
功績:スーパーソーカー【水鉄砲】(玩具)
スーパーソーカーで遊んだことが、きっとあるでしょう。では、誰が発明したのかご存知でしょうか?加圧式水鉄砲・玩具のアイデアを最初に出したのは、NASAと米国空軍のエンジニアであるロニー・ジョンソンです。
米国アラバマ州に生まれたジョンソンは、最も著名なアフリカ系アメリカ人科学者の一人であるジョージ・ワシントン・カーヴァーから大きな影響を受けていました。1986年に水鉄砲の米国特許を申請し、取得に成功しました。現在では、ロニー・ジョンソンは80件以上の特許を取得しています。
スーパーソーカーは市場で瞬く間にヒット商品となり、1991年には2億ドル以上の売上を記録しました。2013年、ハスブロ社はロニー・ジョンソンに総額7300万ドルのロイヤリティ【著作権使用料】を支払いました。
13. ジャン・エルンスト・マッツェリガー
ジャン・エルンスト・マッツェリガー
功績:靴の製造工程の進歩
靴は、19世紀以前は主に人の手で作られており、靴作りの工程に機械が導入されたのは産業革命の中頃でした。その機械化の第一歩を踏み出したのが、アフリカ系アメリカ人の発明家ジャン・エルンスト・マッツェリガーです。
ジャン・マッツェリガーは、1852年9月15日にオランダ領ギアナの首都パラマリボで生まれました。19歳の時に家を出てオランダ領東インド会社の商船で働き、その後アメリカのフィラデルフィアに居を構えました。この時、彼は靴の貿易について学び、この業界に人生を捧げることを心に決めたのです。
1883年から1899年にかけて、マッツェリガーは靴作りの開発で複数の米国特許を取得しています。彼が開発した自動靴型製造機は、熟練工の手による50足の靴を1日で700足も完成させることができました。
12. イライジャ・マッコイ
イライジャ・マッコイ
功績:蒸気機関自動潤滑装置
イライジャ・J・マッコイは、1800年代後半、蒸気機関の潤滑機構に貢献したことで知られるカナダ生まれのアフリカ系アメリカ人技師です。彼の設計した自動潤滑装置は、シリンダー、ベアリング、軸箱の取り付け部など、蒸気機関の様々な部分に効率よく油を供給し、停止することなく適切な状態を維持します。
一方で、イライジャ・マッコイのこの分野への貢献については、多くの歴史家が異論を唱えています。E. L Ahrons著『Lubrication of Locomotives【機関車の潤滑】』など、鉄道の潤滑に関する重要な文献には、彼に関する記述はありません。
11. フレデリック・マッキンリー・ジョーンズ
フレデリック・マッキンリー・ジョーンズ
功績:ポータブル冷凍機の重要な改良
1935年、アフリカ系アメリカ人の発明家兼エンジニア、フレデリック・マッキンリー・ジョーンズは、乳製品などの生鮮食品を運ぶトラックや車両に搭載できる画期的なポータブル空冷ユニットを設計しました。
この発明により、マッキンリーは1940年に米国特許を取得し、その後、サーモキングという温度制御装置会社を共同設立しています。また、携帯用冷凍機だけでなく、携帯用X線装置、音響装置、ガソリンエンジンなど、生涯で60件以上の特許を取得しました。
ジョーンズは1944年、アフリカの血を引く者として初めてアメリカ冷凍技術者協会に選出されています。1950年代には、国立標準局や米国国防総省の顧問に任命されました。
10. ジョージ・ワシントン・カーヴァー
ジョージ・ワシントン・カーヴァー
画像出典:タスキーギ大学公文書館/博物館
功績:代替作物技術
ジョージ・ワシントン・カーヴァーは、ミズーリ州の貧しい奴隷の家に生まれました。貧しい経済状況にもかかわらず、彼は質の高い教育を受けることができたのですが、これは当然ながら当時アフリカ系アメリカ人には制限されていたことです。アイオワ州立農業大学校で植物学の修士課程を修了しました。
その後、農業法人に就職し、アラバマ州南東部の土地改良を担当することになりました。輪作技術を開発・実施し、農家が土壌の効力を維持しながら作物の収量を向上させることに貢献しました。
9. トーマス・ジェニングス
功績:乾式精練(ドライクリーニング)
トーマス・L・ジェニングスは、自分の名前で特許を取得した最初のアフリカ系アメリカ人の一人です。自由な家庭に生まれたジェニングスは、仕立屋としてキャリアを積み、それを軸にビジネスを展開しました。1821年、彼は水の代わりに溶剤を使って繊維や衣類を洗うという独自のプロセスを開発し、特許を取得しました。現在ではドライクリーニングと呼ばれているプロセスです。
トーマス・ジェニングスは、著名な公民権運動家でもあり、人種隔離に反対する多くの運動に中心的な立場で参加しました。彼は1855年にリーガル・ライツ・アソシエーション【法的権利協会】(ニューヨーク)を設立し、ニューヨーク市内で差別に対する法的闘争を展開しました。
8. ルイス・ハワード・ラティマー
功績:改良型トイレ・システム、炭素フィラメントの製造方法の改良
ルイス・ハワード・ラティマーは、単なる発明家ではなく、優れた特許コンサルタントであり、製図家でもありました。奴隷として逃亡し、短期間米国海軍に従軍した後、1865年に特許法律事務所の従業員となりました。10年も経たないうちに、彼はその業界で最も優れた製図家の一人として地位を確立しています。1876年、グラハム・ベルの電話に関する特許を起草したのも、このルイス・ラティマーでした。
発明家としては、1874年にポータブルトイレの改良型を共同開発しました。数年後の1881年には、エジソンの紙フィラメントを発展させた炭素フィラメント電球を開発しました。
7. マリー・ヴァン・ブリタン・ブラウン
マリー・ヴァン・ブラウン
功績:ホームセキュリティシステム
原題において、監視システムのない自宅やオフィス空間を想像できるでしょうか? その答えは、誰もがご存知ですね。そして、マリー・ヴァン・ブラウンも「ホームセキュリティシステム」というコンセプトを思いつく前に、そう考えていたのです。
彼女のセキュリティシステムは、カメラ(のぞき穴の内側に装着)と双方向マイクで構成され、その両方が家庭用テレビに接続されています。そして、そのカメラとマイクをテレビに接続し、ドアの向こう側にいる人を視覚的、聴覚的に確認することができるのです。
当初は家庭用として開発されたものが、やがて職場で使われるようになり、監視技術として普及しました。この発明が評価され、ブラウンは全米科学委員会から表彰されています。
6. パトリシア・バース
功績:レーザーファコ・プローブ(白内障の治療に使用)
マンハッタン・ハーレム生まれのパトリシア・バース博士は、女性医師として初めて医療機器の特許を取得しました。1981年、白内障手術の際にレーザー機器の性能を向上させる医療機器「レーザーファコ・プローブ」を考案したのです。
この装置は白内障治療の国際標準となりました。現在、この装置に関する4種類の特許を保有しています。
5. ジョージ・ロバート・カラザース
ジョージ・カラザース(中央)と月周回衛星のメンバー
功績:紫外分光器
ジョージ・ロバート・カラザースは、アフリカ系アメリカ人の物理学者、発明家で、ワシントンDCの米国海軍研究所に生涯の大半を費やしました。米国海軍研究所に在籍中、遠紫外線分光器とカメラを考案し、アポロ16号で有効に活用されています。それ以前には、電磁波による「イメージコンバーター」を発明し、1969年に最初の特許を取得しました。
アメリカ天文学会、アメリカ航空宇宙学会(AIAA)、アメリカ地球物理学連合、全米黒人物理学者協会など複数の学会で名誉会員を務めました。
2013年には、バラク・オバマ元米国大統領から2012年度国家技術勲章を授与されています。
4. オーティス・ボイキン
オーティス・ボイキン、インク画による略伝
画像出典:米国エネルギー省
功績:各種電気抵抗器、心臓ペースメーカーの制御装置
オーティス・フランク・ボイキンは、テキサス州ダラスの平凡な家庭に生まれました。母親のサラは、彼がわずか1歳の時に心不全で亡くなっています。この悲劇的な出来事から、彼は既存の人工ペースメーカーの改良に協力するようになったのです。
電子抵抗器に関する彼の業績は、他の追随を許さないほどです。1960年代初頭には、より高温高圧で動作する、より効率的なプロトタイプを開発することができました。
現在では、ラジオ、テレビ、コンピューター、ペースメーカー、誘導ミサイルなどに、彼の設計した抵抗器のバリエーションが使用されています。
3. アニー・マローン
功績:化粧品とヘアケア製品
アニー・マローンは、米国の発明家であり実業家です。アフリカ系アメリカ人女性のニーズに合わせて作られた、最も成功した化粧品ラインのひとつを築き上げました。
アニー・マローンがヘアケア製品のラインを開発したのは、化学とヘアケアに対する彼女の幼少期の関心からでした。まもなく、彼女の会社は、特別なオイルや縮毛矯正など、他の化粧品の生産と販売を開始しました。
彼女は、アフリカ系アメリカ人の血を引く女性として、初めて億万長者になった一人です。
2. シャーリー・ジャクソン博士
バラク・オバマ元米国大統領と並ぶシャーリー・ジャクソン博士
画像出典:president.rpi.edu
功績:光ファイバーケーブルや重要な細胞技術に関する貴重な研究
シャーリー・ジャクソンは、おそらく米国で最も著名な女性物理学者・技術者の一人です。彼女は、アフリカ系女性として初めてマサチューセッツ工科大学で博士号を取得し、物理学で博士号を取得した全米で2人目の人物となりました。
シャーリー・ジャクソンは、発明家として高く評価されているわけではありませんが、AT&Tベル研究所時代には、数多くの研究プロジェクトの責任者を務めました。
彼女の研究は、タッチトーン電話、光ファイバーケーブル、発信者番号通知技術など、様々な技術の開発に重要な役割を果たしています。
1. マーク・E・ディーン
功績:16ビットISAバスと1ギガヘルツのコンピューター用プロセッサチップ
1980年代、すべての始まりとなったIBMの初代パーソナルコンピューターを覚えていますか? RGBiモニターディスプレイと最大256KBのメモリを搭載した、あのかさばるシステムを覚えていらっしゃるのなら、このマシンを開発したコンピューター科学者のマーク・E・ディーンに感謝しなければならないでしょう。テネシー州ジェファーソンシティに生まれたマーク・ディーンは、幼少の頃からテクノロジーへの愛情を垣間見せていました。
テネシー大学を卒業後、フロリダ・アトランティック大学(FAU)に進学し、その後スタンフォード大学で電気工学の博士号を取得しました。IBM時代、ディーンは他の研究者とともに、IBM PC用の16ビット内部バス(ISAバス)を開発しています。
また、最初のギガヘルツチップの設計に携わったコンピューター科学者の一人でもあります。現在までに、彼は様々な発明で20以上の特許を取得しました。その功績により、1997年には全米発明家殿堂入りを果たしています。