• 研究者が、324人の健康な人の脳を磁気共鳴画像診断(MRT)を用いて分析した。
• すると、人間の一般常識のレベルは、脳の構造的ネットワークの接続性と関連していることが明らかになった。
• 脳内の神経線維が効率的につながっているほど、より多くの一般常識を蓄えることができるというわけだ。
私たちは、身の回りに関する知識を日常的に獲得しています。観察したり、読んだり、聞いたり、試してみたりしながら、一生を通じて私たちは大切な情報を集め、さまざまなスキルを身に付けていきます。
しかし、すべての人が全く同じスキルを持っているわけではありませんね。つまり、他の人より速く物事を学習したり、処理したりできる人が存在します。人間の知識レベルを測定する方法はいくつかあるものの、脳がどうやって一般常識を蓄え、処理するのかについてはほとんど解明されていません。
ところが最近、ドイツの神経科学者のチームが、賢い人(一般常識が豊富な人)ほど脳のネットワークの効率性が高いことを明らかにしました。彼らは磁気共鳴画像診断(MRT)を用いて、脳の機能的特性と構造的特性が共に認知機能に大きく影響していることを証明したのです。
これまで、科学者たちは流動性知能のみに焦点を当てており、同じくらい重要な対の概念である結晶性知能には注目していませんでした。
結晶性知能は、知能およびスキルの広さと深さを表すものと定義することができます。知能は、その人が蓄えることのできる知識量に左右され、それが一般常識のレベルに反映されると考えられます。
情報の保存と処理を行う神経構造
研究チームは、拡散テンソル画像とMRIに加えて、磁気共鳴画像診断(MRT)と呼ばれる特殊技術を用いて、324人の健康な人の脳を分析しました。その結果をもとに脳の構造的な接続性を導き出し、神経線維の経路を再現。そこから、複雑な数学的計算を用いて、一人ひとりの脳に固有の値を割り出しました。その値が、その人の脳の構造的ネットワークの効率性を表します。
あわせて参加者全員には、化学や生物学、芸術、建築など、あらゆる分野から出題された300以上の質問からなるテストを受けてもらいました。あとは、計算で導き出した値とテストの点数をもとに、脳の構造的ネットワークの効率性と、脳に蓄えられた一般常識の量との関連性を分析するのです。
脳の拡散テンソル画像/出典:ルール大学ボーフム Erhan Genç教授
その結果、神経接続の効率性が非常に高い男女は、そうでない男女に比べて、一般常識の量がより豊富であることが明らかになりました。
さらに、女性は機能的ネットワークの接続性から、男性は大脳皮質の体積から、それぞれの流動性知能(抽象的に考えたり、知識を持たない問題を解決する能力)をもっとも正確に推測することができることも分かりました。
研究チームによると、知識というのは一つひとつが部分的な情報として脳内に散らばった状態になっています。脳の色々な部位から情報を抽出して、その中の知識を取り出すには、神経線維ネットワークの効率性が重要になります。
脳内の接続が効率的であるほど、部分的な情報をうまく結合させることができるのです。 - ボーフムの研究者談
今回の発見によって神経科学の研究が進み、知能をはじめとする人間の頭脳の興味深い側面が、今後さらに明らかになるでしょう。