・研究者たちが初めて、化学合成のビデオを原子レベルの分解能で撮影した。
・撮影されたものが本物であると査読者に納得させるのに12ヶ月近くかかった。
・この研究は、医薬品開発や材料科学に非常に役立つ可能性がある。
動いている個々の分子を観察するという2世紀前の夢が、2007年に現実のものとなりました。それは、1分子蛍光顕微鏡と分光法によって可能になったのです。この方法は、現在ではよく知られており、最新のレーザー、顕微鏡、検出器を使えば比較的簡単に応用できます。
東京大学の研究者たちは、この夢の先に到達しました。化学合成のビデオを原子レベルの分解能で撮影することに成功したのです。
今回の発見は、化学プロセス【含まれる物質の構造と、原子と分子の構成によって決定される過程】の様々な段階を示すものであり、科学者たちがこれまで以上に精密に制御された化学物質を開発するのに役立つ可能性があります。また、この研究は医薬品開発や材料科学にも大いに役立つでしょう。
正確には何を行ったのか?
結晶学や分光学のような伝統的な分析技術は、化学プロセス中に何が起こるかを教えてくれます。しかし、複雑な化学反応の過渡的段階には、ほとんどの反応の始まりと終わりの間に起こる複数の中間過程が含まれます。
個々の段階を観察することはできますが、各段階で生成物を分離し、それらが時間とともにどのように変化したかを観察することは、信じられないほど難しいことです。研究チームはこの問題に10年近く取り組んでおり、このたび分子電子顕微鏡法という技術を開発しました。
この問題は、規模の大きい(1)と小さい(2)に分けられます。
(1)高速・高感度撮像センサーと高分解能電子顕微鏡を融合し、連続ビデオ撮像を得る。
(2)標的分子を捕捉し、カメラがその作用を捕えられるように固定する。
研究チームは、特定の分子を分離・固定するために独自のカーボンナノチューブを使用しました。これには、近くの分子を引っかけて所定の位置に保持することが含まれていました。反応の各段階は、電子顕微鏡の焦点位置に置かれたナノチューブの先端で行われました。
研究チームは、カーボンナノチューブが分子の反応を妨げないことを確認しました。そして2013年、ついに、その結果を反応のリアルタイム・ビデオに変換したのです。
それ以来、研究チームはこのメカニズムを有用なツールにするための研究を続けています。今回の研究では、金属有機構造体(MOF)の反応混合物における単一の前核クラスターを示しました。
MOF結晶に重要な立方体分子
出典:研究チーム
具体的には、MOF-2とMOF-5の形成には、2つの異なるタイプの単一前核クラスターが関与していることを発見しました。単一分子原子分解能リアルタイム電子顕微鏡法を用いて、MOF-5合成における1ナノメートルの立方体と立方体のようなクラスターを少量捕らえました。
捕えたものが本物であることを査読者【研究の重要性、新規性、信頼性を判断する、該当分野の研究者やその分野に知見のある専門家】に納得してもらうのに、研究チームは12ヵ月を要しました。この発見により、化学者は化学物質をより精密かつ制御された方法で合成できるようになります。研究チームはこのプロセスを『合理的合成』と名付けました。
反応のあらゆる側面をリアルタイムで観察することは、科学者がプロセス全体を逆行分析するのにも役立つでしょう。
2世紀前、私たちの夢は分子を観察することでした。そして今、その夢は、生命を救うための新薬や建築用の合成鉱物などを生産するために、分子を精密に操作することなのです。