・研究者は、50ナノケルビンという極低温で、カリウム・ルビジウム分子からなる記録的な量子ガスを発明しました。
・この発見は、従来の環境と量子的環境における化学反応を比較するのに役立つと思われます。
量子力学では、区別のつかない粒子でできているものを量子ガスと呼びます。複雑な動きをするため、古典的な気体では、気体の構成要素の一つ一つに理論的なラベルを付けることができますが、量子学の観点では各粒子の位置や運動量を個別にラベル付けできません。
気体は、極低温や高密度で量子的な動きをします。絶対零度より少し高い温度では、気体の分子を制御することが簡単にできます。
アメリカ標準技術研究所の研究者たちは、超低温分子の構成をよりよく理解するために何年も研究を続けてきました。原子と比べて、超低温分子はエネルギー準位がいくつもあり、回転や振動の性質が複雑であるため、研究が困難です。
最近、彼らは量子力学の波動パターンを示す分子の記録的な低温ガスを作成しました。この発見によって、量子コンピューターやデザイナーズケミストリーの分野を強化できるかもしれません。
具体的に何をしたのか?
研究者達は、50ナノケルビンという低温でカリウム・ルビジウム分子の気体を作りました。この分子は最も低いエネルギーを持つので、「負のフェルミガス」と呼ばれます。
ガスに含まれるカリウム原子とルビジウム原子は、それぞれフェルミオン(奇数個の素粒子、たとえば中性子と陽子)とボソン(偶数個の素粒子を含む)です。最終的に分子はフェルミの性質を持ち、数秒の間持続します。
研究チームは、この分子を作るために、カリウムとルビジウムの超低温原子にレーザービームを照射しました。次に、これらの原子に磁場をかけて、それぞれの原子を1個ずつ含む大きな弱い結合の分子を作りました。
カリウム・ルビジウム分子から構成される最も冷たい量子ガスの芸術的なイメージ | 画像元: Steven Burrows/NIST
さらに、これらの分子を波長の異なる2つのレーザーを用いて強く結合した分子に変換し、ガスの温度を上げることなく、結合エネルギーを光に変換することに成功しました。これらの分子は近赤外レーザーを吸収しながら赤色光を発し、その90%が最も安定なエネルギー状態に変換されます。
活用方法は?
量子ガスなので、物質の波としても粒子としても動くことができます。研究者たちはこれを量子縮退と呼んでいます。科学者たちが、累積的な量子効果による各分子の化学変化を見たのは、これが初めてです。
今回発見されたのは、カリウム原子に負の電荷、ルビジウム原子に正の電荷を持つ「極性分子」と呼ばれるものです。電場を変化させることで、この分子を正確に制御・調整することができます。
この研究成果により、以前からある環境と量子的環境における化学反応の比較や、電場が極性相互作用をどのように変化させるかの解析が可能になります。具体的には、新しい精密測定装置(例えば、分子時計)や、超低温分子を量子ビットとして用いる量子コンピュータの新しい技術の開発に役立つと期待されます。