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DARPAが遺伝子ドライヴ研究に1億ドルを資金提供

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本記事は、DARPA Invests $100 Million For Gene Drive Research
翻訳・再構成したものです。
配信元または著者の許可を得て配信しています。

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読了時間 : 約4分14秒

• DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が、特定の遺伝子を絶滅させる技術の開発に1億ドルの資金提供を行った。
• この「遺伝子ドライヴ」によって、伝染病を媒介する昆虫をコントロールすることが可能となる。
• これによって、デング熱やマラリア、ライム病、ウエストナイル熱、睡眠病といった病気を一掃できるかもしれない。

 

DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)は、外来種のネズミやマラリア蚊、その他の生物種の遺伝子を絶滅させる技術の開発に多額の投資を行っています。今回1億ドルを投資したことで、DARPAは遺伝子ドライヴ研究の世界最大の資金提供者となりました。

 

この報告は、情報公開請求によって入手したEメールにもとづくものです。また、DARPAが、遺伝子ドライヴ開発に取り組むすべての主要機関や企業、そして遺伝子編集技術CRISPRに関する特許の主要な保有者に対して、資金提供あるいは協力を行っていることも、これらのEメールから明らかになりました。

 

「遺伝子ドライヴ」とは?

遺伝学上の「遺伝子ドライヴ」とは、特定の遺伝子が偏って子孫に継承される現象のことをいいます。たとえば、ある遺伝子の2つのパターンが特定の子孫に遺伝する確率は本来50%ずつですが、「遺伝子ドライヴ」の影響でこの確率が高まることがあります。

 

これを利用して、個々の生物の繁殖力を低下させる遺伝子までも、種全体に広めることができる可能性があるというわけです。

人工的な遺伝子ドライヴ

遺伝子ドライヴを利用することで、特定の遺伝的変異をわずか数世代のうちに、対象とする生物種全体に広めることができるかもしれません。この技術は、その種全体の特性に手を加えることができるので、生態系の持続的に管理する強力なツールとなる可能性を秘めています。

 

しかし、技術の進歩に伴って、この人工的な遺伝子ドライヴがもたらす可能性は、新たな懸念材料にもなり始めています。

 

遺伝子ドライヴの利用可能性

遺伝子ドライヴを使って、昆虫が伝染病のDNAを保有・媒介しないように手を加えれば、たとえばデング熱やマラリア、ライム病、ウエストナイル熱、黄熱、睡眠病といった危険な病気を一掃できる可能性があります。

 

また、外来種を駆除したり、除草剤や農薬への耐性を無効化することで、持続的な農業への道を切り拓くこともできるでしょう。

 

安全な遺伝子ツールキットの構築

実は、遺伝子ドライヴを用いて病気を媒介する昆虫をコントロールするというアイデアは、ここ最近のものではありません。この言葉が誕生したのは1940年代のことでした。近年の新しい点は、ほぼどんな遺伝子でも改変することができ、何世代にもわたってその変異を拡散させることのできるツールを研究者たちが手に入れたということです。

DARPAは、遺伝子編集技術の基本的な仕組みを理解し、それを有益な目的のために安全にコントロールするべく、「Safe Genes Program」を立ち上げました。また同プログラムでは、故意にせよ偶発的にせよ、この技術を誤用することで引き起こされる可能性のある健康被害や安全上の懸念にも取り組むとしています。

 

このプログラムは、近年の遺伝子ドライヴ分野の進歩に触発されたものです。研究者たちは、自己増殖型の遺伝子ドライヴについて10年以上研究を重ねてきましたが、2012年にCRISPR-Cas9システムが開発されたことで、試験的な遺伝子ドライヴの利用可能性が一気に高まりました。

 

CRISPR-Casシステム

Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats (CRISPR)とは、バクテリア内で獲得免疫系として機能する一連のDNA配列のことをいいます。このDNAの断片が類似するウイルスのDNAを識別し、破壊するのです。生物の遺伝子を特異的に変化させるCRISPR-Cas9システムの基礎を形成するうえで、このDNAが非常に重要な役割を果たします。

医療研究者はCRISPR-Cas9システムを用いてDNA配列の一部を追加、除去、変更することにより、ゲノムのどんな部分でも編集することができ、有効かつ正確なゲノム編集ツールといえます。CRISPR-Cas9システムには、「Cas9」と呼ばれる酵素と、「ガイドRNA」(またはgRNA)と呼ばれるRNAの断片が含まれており、キーとなるこれら2つの分子が、DNAの改変を可能にします。

 

DARPAの資金提供

2017年7月、DARPAは同一のミッションに取り組む7つの研究チームを公表しました。今後4年間でSafe Genes Programに6,500万ドルを投じる計画で、この7チームが実験データを収集し、汎用性の高いツールを構築していきます。それらのツールを組み合わせて、あるいは単独で使うことで、生物学的脅威に対抗し、生物学的イノベーションに貢献することができるでしょう。

 

このチームには、ハーバード大学医学大学院、Broad Institute of Harvard and MIT(ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設)、ノースカロライナ州立大学、マサチューセッツ工科大学、マサチューセッツ総合病院、カリフォルニア大学バークレー校およびリバーサイド校が含まれています。

 

Safe Genes Programが掲げる3つの技術目標は以下の通りです。

1. 生物内のゲノム編集を一時的、あるいは可逆的にコントロールする遺伝子構築物を開発する。

 

2. ゲノム編集を制限、あるいは予防する分子レベルの対抗策を構築し、生物種のゲノムの完全性を保護する。

 

3. 不必要な人工的遺伝子を環境から除去して、遺伝子の状態を基準値に戻すシステムを開発する。

 

DARPAの資金提供はアメリカ国内にとどまらず、現在はイギリスやオーストラリアの遺伝子ドライヴ研究者にも直接提供を行っています。

 

アメリカ政府は2008年から2014年の間に、合成生物学の研究におよそ8億2,000万ドルを投じましたが、2012年以降の資金の大半は、DARPAやその他の軍事機関によって提供されたものです。過去には、DARPAはGBIRd(Genetic Biocontrol of Invasive Rodents/外来種のげっ歯類に遺伝子操作を行うプログラム)にも6,400万ドルの投資を行っています。

 

この遺伝子編集技術を低コストで入手しやすくなるということは、従来のコミュニティや国際的な規範の外にある国々や人々も利用できるようになる(良い用途にせよ悪い用途にせよ)ことを意味します。

 

インペリアル・カレッジ・ロンドンのAndrea Crisanti教授が主導する研究の一環として、不要な遺伝子ドライヴを検出・無効化する技術の開発のために、DARPAと250万ドルの契約を締結したことも分かりました。

 

また、遺伝子編集技術の開発に着手するために、DARPAは全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、全米医学アカデミーの遺伝子ドライヴに関する報告書にも共同出資しています。

 

DARPAはSafe Genes Programへの真剣な取り組み姿勢と、高い透明性を示しています。今後は、独立した専門家たちがDARPAを手助けし、LEEDR(法律、倫理、環境、民生用および軍事用の両面での利用、そして責任あるイノベーション)の観点からこの問題を考えていくことになるでしょう。

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