人間や多くの哺乳類、そして鳥類でも、睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠という2つの異なる睡眠相の間を行き来しながら、繰り返されています。レム睡眠(急速眼球運動睡眠)は、目の動きが速く、筋肉の緊張が少なく、鮮明な夢を見やすいという特徴を持つ睡眠相です。
レム睡眠が不足したり、睡眠サイクルが不規則になったりすると、様々な睡眠障害の原因となります。ナルコレプシーもそのひとつで、これは、日中において場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主な症状とする睡眠障害です。
また、「睡眠麻痺」【日本では「金縛り」と呼ばれる】という症状もあります。睡眠麻痺は、ヒプナゴジア(覚醒と睡眠の間の移行状態)またはヒプノポンピック(覚醒直前)の間に、一時的に身体を動かしたり話したりできなくなることです。
そのような経験をしたことがありますか?ない場合でも、一生のうちに少なくとも1回は睡眠麻痺に遭遇する可能性があります。この症状では、実際には存在しないものが聞こえたり、感じられたりすることがあり、ほとんどの場合、恐怖を覚えることになります。なんだか興味をそそられますよね?それでは、睡眠麻痺についてもっと詳しく見ていきましょう。
18. なぜ起こるのか?
睡眠麻痺は、レム睡眠の途中で意識を取り戻し、身体の筋肉が不活発な状態のまま起こるものです。1回の睡眠麻痺の時間は、数秒から数分程度です。
17. 睡眠麻痺の2つのタイプ
長年の研究により、科学者は、睡眠麻痺にはISPとRISPの2種類があると結論付けています。ISP(isolated sleep paralysis【孤発性睡眠麻痺】の略)の人は、睡眠麻痺を一生に一度か二度しか経験しません。しかし、RISP(recurrent isolated sleep paralysis【反復性孤発性睡眠時麻痺】の略)では複数回、この症状に遭遇することになります。
16. 『夢魔』
ヨハン・ハインリヒ・フュースリー作『夢魔』
1781年に描かれたヨハン・ハインリヒ・フュースリーの名画『夢魔』は、睡眠麻痺と密接に関連している点が数多くあります。この絵は、睡眠麻痺の症状としてよく取り上げられる「胸の圧迫感」を表現しているのかもしれません。
15. 睡眠麻痺中は目を覚ますことができない
この症状を経験したことがある人なら、症状が起きている間は、自力では何もできないことをすでにご存知かもしれません。しかし、いくつかの研究では、足の指をある程度動かしたり、表情を変えたりすることはできるかもしれないものの、完全に目を覚ますには、それをやり過ごすしかないことが指摘されています。
14. 一般的に信じられているような害はない
睡眠麻痺が危険であるとか、致命的であると指摘する研究はひとつもありません。どんなに強烈で頻繁な症状であっても、睡眠麻痺が身体に害を及ぼすことはなく、純粋に睡眠麻痺が原因で死亡したという記録は現在までありません。
13. 睡眠麻痺人口の統計的研究
睡眠麻痺の症状はあらゆる年齢の人が経験し得るものですが、3歳から13歳までの子供は、なぜか経験しにくいと言われています。10代と成人は比較的睡眠麻痺の影響を受けやすく、30代後半まで症状を経験する可能性がありますが、中には老年期になっても発症することがあります。
12. 睡眠麻痺の最古の記録は10世紀までさかのぼる
睡眠麻痺の最も古い記録は、10世紀のペルシャの医学書に見られます。一方、最初の臨床的観察は、1664年にオランダの医師Isbrand Diemerbroeckが行ったもので、悪夢に悩まされる老婦人を治療したときのものです。
11. 私たちが思っているよりも一般的な症状である
睡眠麻痺は非常に珍しい症状だと思われていましたが、日本、中国、カナダ、米国で行われた多くの研究の結果、科学者たちは、世界の総人口の約40%~50%が一生のうちに少なくとも一度は経験していると確信しているようです。また、多くの研究により、この割合は60%以上に達する可能性もあるとされています。
10. 寝るときの体勢も重要な要素である
仰向けで寝た場合は、胸を下にしてうつ伏せの姿勢で寝た場合よりも睡眠麻痺を起こしやすいことが、様々な研究で明らかになっています。
9. 診断が容易である
睡眠麻痺は通常、自己診断もできますが、多くの場合、他の睡眠障害の可能性を排除するために、医療機関の助けが必要です。そのような場合、医師は一般的に、睡眠麻痺と共存する可能性が高いナルコレプシーの明確な兆候を探します。
反復性孤発性睡眠時麻痺の診断には、Fearful Isolated Sleep Paralysis Interview【恐怖の孤発性睡眠麻痺面接、の意味】やミュンヘン・パラソムニア・スクリーニング【マックス・プランク精神医学研究所で開発・標準化された睡眠時随伴症に関する自記式質問票】などの信頼できる手法があります。
8. 睡眠麻痺は部分的に予防できる
孤発性睡眠麻痺のリスクを高める要因はいくつかありますが、すでに発症している人は、生活習慣を見直すことで回避することができます。睡眠を整え、睡眠衛生【質の良い睡眠を得るために推奨される行動・環境の調整技法】を保つことで、将来的に睡眠麻痺の症状に遭遇する可能性を減らすことができることは、統計的に証明されている事実です。
しかし、遺伝的な要因が関与している場合、睡眠麻痺を回避するためにできることは何もありません。また、いくつかの研究では、定期的な瞑想が睡眠麻痺に苦しむ患者の助けになるかもしれないと指摘されています。
7. 性別には関係ない
睡眠麻痺は性別に関係なく、男性でも女性でも同じ割合で経験する可能性があります。35の異なる研究から得られたデータによると、一般人口の約7.6%、学生の28.3%、精神科患者の31.9%が、人生のある時点で少なくとも1回は睡眠麻痺を経験しています。
6. 睡眠麻痺は「誘拐後症候群」を引き起こす可能性がある
「誘拐後症候群」とは、人間以外の生命体に誘拐されたと主張する人々が、誘拐の身体への影響を説明するために概して使用する、広く普及している用語です。医学的には認められていませんが、このような人々には、心的外傷後ストレス障害によく似た症状が出る傾向があります。
5. 幻覚
睡眠麻痺に伴う幻覚には、いくつかの種類があります。例えば、部屋の中に侵入者がいる、浮遊感がある、怪物や悪魔が近くにいる、といったものです。
神経学的な仮説によると、睡眠麻痺中には、身体の動きを調整したり、身体の姿勢に関する情報を伝達したりする複雑なメカニズムが活性化するものの、実際には動きがないため、心が浮遊感を誤認してしまうのだということです。
4. そのような幻覚は脳の機能障害で起こる
侵入者幻覚は、側頭頭頂接合部(部分葉と側頭葉の接合部)における身体の多感覚処理の機能障害によって引き起こされるとする神経科学的な説明が一般的です。睡眠麻痺の症状が起こっている間は、運動実行と手足からのフィードバックの間に非同期が生じ、その結果、神経細胞の接続が破壊されるのです。
3. 過剰警戒の脅威
睡眠麻痺の症状が起こっている間の幻覚は、私たちの心の過敏な状態によってさらに助長されることがあります。過剰警戒とは、基本的に感覚的な反応性が高まった状態のことです。通常、人が麻痺状態に入ると、中脳で緊急反応が活性化され、攻撃への恐怖と無力感が引き起こされます。
この無力感は、自分の身体の脅威反応を、通常の夢のレベルよりもかなり高いレベルにまでエスカレートさせる可能性があります。さらに、睡眠麻痺の症状における鮮明なビジョンを説明できる可能性もあります。
2. 睡眠麻痺には遺伝的要素がある
ある研究チームが、睡眠麻痺に遺伝的要素があることを発見しました。一卵性双生児を対象にした研究で、双子の片方が睡眠麻痺の症状を経験すると、もう片方の双子もそれに続く可能性が高いことがわかったのです。また、この結果は、生理的なレベルで何らかの機能が阻害されていることを指摘しています。
1. 睡眠麻痺の病態生理学
睡眠麻痺の原因については、いくつかの有力な説がありますが、その生理的過程はまだ完全には解明されていません。そのような説のひとつは、睡眠麻痺は睡眠時随伴症であり、睡眠のレム相と覚醒相が重なることによって引き起こされるという前提に基づいています。
また、睡眠麻痺は、体内の睡眠を司る神経機能がバランスを崩し、異なる睡眠段階が重なることで引き起こされるという説もあります。