・物理学者たちが、17世紀に導き出された円周率の古典的な公式が水素原子を特徴づけることを偶然発見した。
・この導出は、純粋数学と量子物理学を結びつけるものである。
円周率は元々、円の直径に対する円周の比として定義されていましたが、現在では多くの等価な定義があり、数学と物理学のあらゆる分野で幅広い公式が用いられています。
1655年、イギリスの聖職者であり数学者でもあったジョン・ウォリスは、比の無限積【無限個の積のこと】としての円周率の公式を記述した論文を発表しました。当時はまだ無限小微積分が存在しなかったため、この公式の収束問題を分析することは非常に困難でした。しかし、後に代数学の基本定理と無限積の定理によって「ウォリス積」が確認されました。
円周率を無限積とする公式
2015年、ロチェスター大学の研究者たちが、同じ古典的な公式が水素原子のスペクトルの変分計算から導き出せることを発見しました。1655年に導き出された純粋な数式が、3世紀後に発見された物理システムを示しているという事実は、実に興味深いことです。
純粋数学と量子物理学の結びつき
この発見は、素粒子物理学者カール・ハーゲンが量子力学の講義を行っていたときになされました。彼は、変分原理と呼ばれる量子力学的手法を使って水素原子のエネルギー状態を計算する方法を詳しく説明していました。
量子物理学では、変分法【ある未知の関数とその導関数を含む定積分として表される値を、与えられた条件の下で最大または最小とするような関数を求める方法】を分子に適用してエネルギー状態を近似することができます。通常、この手法は、正確なエネルギー状態を求めることが不可能な、大きくて複雑な分子に使われます。
水素は軌道に電子が1個しかない最も単純な元素であるため、そのエネルギー準位【原子や分子・電子などの定常状態のエネルギーの値】は正確に計算できます。ハーゲンはこの元素に変分原理を用い、その結果を厳密解【ある与えられた方程式について、誤差なく求められた解。数値計算に頼ることなく、代数的または解析的に得られた解を指す】と比較して推定誤差を測定しました。ここで彼は珍しいことを発見したのです。
近似の誤差は基底状態【量子力学において、系の固有状態のうち最もエネルギーの低い状態】で15%、最初の励起状態【基底状態よりも高いエネルギーの固有状態】で10%でした。励起状態が広がるにつれて、誤差は小さくなりました。変分法はエネルギー準位が低いほど誤差が大きくなるため、これは非常に驚くべきことでした。
研究チームはさらに掘り下げ、変分原理による極限が、物理学者ニールス・ボーアが1913年に発見した、電子の軌道が完全な円形であることを示す水素モデルに近づいていることを発見しました。
さらに、対応原理から、半径の大きな軌道では、量子システムの振る舞いは古典物理学で十分に説明できます。低エネルギー軌道では、電子の軌道は非常にあいまいです。より励起された状態に移るにつれて、軌道はよりシャープに定義され、半径の矛盾は少なくなります。
エネルギー準位の上昇に伴う変分原理の極限から、研究チームは円周率の「ウォリス積」を抽出することができました。この新しい導出は、純粋数学と量子物理学を結びつけるものです。