・水素とヘリウムは、これまでX線による測定が不可能とされてきた。
・しかし、大気圧X線光電子分光法を用いて、両元素の振動構造を測定することに成功した。
宇宙で最も多く存在する水素とヘリウムを、X線光電子分光法(XPS)で検出することは不可能です。両元素とも光電子断面積が極めて小さく、電子を共有して他の化合物を形成することがほとんどないからです。これまでの研究でそれが判明していました。
この通説とは逆に、ブルックヘブン国立研究所、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校、ノースカロライナ州立大学、ハーバード大学の研究者らは、XPSを用いて両元素の振動構造を測定しています。
XPSは、物質内の元素組成、電子状態、化学状態を評価する有用な測定技術です。1000分の1の範囲ですべての元素を検出することができます。
今回の発見は、「リチウムより軽い元素は電子の光放出確率が低いため、XPSスペクトルを得ることは不可能である」とする科学文献をすべて否定するものです。
何がこれを可能にするのか?
研究者らは、大気圧XPS(AP-XPS)測定により、非常に明るいX線源を用いてヘリウムと水素の気相XPSスペクトルを取得できることを実証しました。国立シンクロトロン光源II【ブルックヘブン国立研究所にある研究施設】でのビームの並外れた明るさにより、大気圧で光子が気体原子と衝突する可能性を飛躍的に高めることができます。
ヘリウムガス分子のスペクトルは、その軌道から対称なピークを示すのに対し、水素ガスのスペクトルは非対称なピークを示し、これは最終相の複数の可能な振動モードに関連していることがわかります。
これらの成果は、XPSスペクトルの限界をよりよく理解するために重要な意味を持ちます。さらに、この研究により、XPS技術は水素やヘリウムの直接的な研究にも有用となります。
技術的な詳細
XPSで水素やヘリウムを観測するには、シンクロトロン放射光の利用が重要です。通常、これらの光源は10兆ほどの光束を持ち、これは従来の実験室の光源よりも3桁も高いものです。
水素(左)とヘリウム(右)からの電子の光放出を誘発するX線
出典:ブルックヘブン国立研究所
シンクロトロンは、光子のエネルギーを設定できることが望ましく、たとえば、国立シンクロトロン光源IIにあるコヒーレント軟X線散乱・分光ビームラインでは、250eVから2000eVまでのエネルギーがあります【eV:電子ボルト、エネルギーの単位】。
低エネルギー領域では、水素の1s軌道【水素電子が占める軌道】の断面積はほぼ1kBarnです。これらを合わせると、水素の1s光電子強度は、ラボ型XPSよりもシンクロトロン放射光型XPSの方が6桁も高いことがわかります。
AP-XPSでは、特に水素を検出する可能性が高くなります。過去20年間に大きく進歩したこの手法を用いると、液体または固体試料が数Torr【トル:圧力の単位】までの圧力の気体周囲にさらされることになります。今回の研究では、AP-XPSとシンクロトロン放射光の両方を利用して、気相中の水素とヘリウムの光電子スペクトルを取得したのです。