2018年8月11日に、NASAの次なる科学ミッション、探査機「パーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)」が打ち上げられます。この宇宙船は、最終的には太陽の表面から400万マイル圏内に到達する予定となっています。超高温の大気圏、いわゆるコロナの中へ突入するのです。
分かりやすく例えると、太陽がものさしの一方の端に、地球が反対側の端にあるとき、宇宙船は太陽の表面から4インチ以内の範囲に到達するということです。この調査は、太陽の粒子や熱やエネルギーがなぜ太陽系内へ向かって放出されるのかを解明する手がかりになるでしょう。
パーカー・ソーラー・プローブは、100万℃を超える高温の中を飛び、激しい太陽光にさらされることになります。この驚異的な性能はどこから来ているのでしょう?どうしてこの宇宙船は、アイスクリームのように溶けてしまわないのでしょうか。
その答えは、自律型システムと、特殊な耐熱シールドにあります。コロナ物質が探査機に「触れる」ことはできても、このシールドのおかげで宇宙船は高温から守られるのです。この探査機が守られている仕組みについて、詳しく見ていきましょう。
温度 vs 熱
温度と熱とは、それぞれ異なる概念です。温度が高いからといって、必ずしも熱が他の物体へ伝わるとは限らないのです。宇宙空間の気温は時に何万度にも達することがありますが、特定の物質にそれが伝わることはありません。それはなぜでしょう?
実は、温度は粒子のスピードが生むもので、一方の熱は粒子が伝えるエネルギーの量を表すものだからです。粒子が非常に速いスピードで動くと温度は上昇しますが、粒子の数が少なければ生み出されるエネルギー量は少ない(つまり熱は少ない)ということになります。
同じことがパーカー・ソーラー・プローブに言えます。宇宙空間はほとんど何もなく、コロナの密度もそれほど高くないため、宇宙船に接触する(太陽から放出される)粒子の量はあまり多くありません。そのため過度に熱を蓄積することがないのです。
より具体的に言えば、宇宙船は数百万度の高温の中を移動するにもかかわらず、太陽に面した耐熱シールドでもわずか1,400℃くらいにしかなりません。
耐熱シールド
当然のことながら、1,400℃と言っても非常に高温です。ちなみに、火山が噴火したときの溶岩の温度は1,200℃です。このような高温の中で最適に機能させるために、宇宙船には厚さ11.5cm、直径240cmの耐熱システムが搭載されています。これによって探査機の温度(シールドの反対側)は安全な範囲(約30℃)に常に保たれるのです。
宇宙船の耐熱シールド/出典:NASA
このシールドは、カーボン合成フォームを2枚のカーボンプレートで挟んだ構造をしています。最大量の熱を跳ね返すために、太陽と向かい合うプレートにはホワイトセラミック塗料が施されており、それによって1,650℃までの温度に耐えることができます。
太陽風を計測するファラデーカップ
この宇宙船には、耐熱システムに守られていない機器が2つあります。その1つがファラデーカップと呼ばれる計測器です。これは耐熱シールドの上に設置されており、太陽の過酷な環境における電子やイオン流出、流れの角度を計測します。
エンジニアたちは、この機器が厳しい環境にも耐えられるように高度な技術を駆使しました。素材はチタン・ジルコニウム・モリブデンのシート(融点は2,349℃)とタングステンのチップ(カップに電界を発生させる。融点は3,422℃)です。
電子配線
従来のワイヤーだと、このような高温下では溶けてしまいます。そのため、エンジニアたちはニオブ製ワイヤーとサファイアクリスタルチューブでファラデーカップの配線を保護することにしました。
冷却システム
ソーラーパネルは、過剰な放射線から保護しないとオーバーヒートを起こしてしまいます。したがって、ソーラーパネルを耐熱シールドで保護し、通り抜ける太陽光の量を制限することが重要になります。しかし、太陽に近づけば近づくほど、パネルを保護しなければならなくなります。そのため、太陽電池には以下の機能を搭載した冷却装置が備わっています。
• 冷却剤(脱イオン水)の凍結を防ぐヒートタンクと2つのラジエーター
• 冷却面を増やすためのアルミ製のフィン
• 冷却剤を循環させるポンプ
冷却剤には、3.7リットルの加圧脱イオン水が使われています。これによってシステムが10℃から125℃の間に保たれるのです(ここで用いられている加圧水の沸点は125℃以上です)。
自律型システム
画像出典:NASA
宇宙船は地球のはるか彼方にいますから、地上から送った信号が到達するまでに数分の時間を要します。しかし、速やかに修正しなければならない致命的なエラーが起きたらどうしたら良いのでしょう?
エンジニアたちはそのような事態に備えて、宇宙船が安全かつ正しい軌道を維持できるように自律型システムを搭載しました。つまり、宇宙船が正しいルートを外れたら(人間が指示しなくても)位置を修正するようコンピュータに知らせてくれるセンサーが無数に取り付けられているのです。システムが飛行中に正しい判断を下せるよう、厳しいテストが行われました。
ミッション
ミッションは7年計画で、その間に探査機は太陽の周りを24周する予定です。そして太陽に最接近するたびに、コロナを調査し、太陽風のサンプルを採取します。
このミッションによって、以下の3つの主な疑問が解決するでしょう。
1. どうして太陽の大気は地表よりも高温なのか?
2. 太陽風はどのようにして生まれるのか?
3. コロナ質量放出によって何が起きるのか?
その答えはきっと、科学者たちが太陽系外の星たちの働きを理解する助けになるはずです。