・ある条件下で3つの光子をくっつけることによる新しい形のフォトニクス物質が、物理学者により開発された。
・この光子は電子の数分の一の質量しかなく、通常の光子に比べて10万倍も遅い速度で運動する。
光子【光の粒子】が互いに作用することなく、ただ通り過ぎていくことは知られています。しかし、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の研究者は、ある条件下で光子を相互作用させる方法を実証しました。
3つの光子をグループ化してくっつけることで、新しい形のフォトニック物質を開発したのです。これにより、「ライトセーバー」とまではいかなくとも、量子コンピュータに光子を利用できる可能性が出てきました。
実験
研究者は、ルビジウム原子の密な雲に弱いレーザーを照射する実験を行いました。原子の動きを遅くするため(静止に近い状態)、原子を絶対零度より100万分の1度高い温度まで冷却しました。
その結果、光子が雲の外に出ることなく、三重や対でくっついていることが確認されました。これは、光子の間に何らかの引力が働いていることを明確に示しています。
光子は質量を持たず、真空中を秒速299,792,458m【約30万km】で移動します。しかし、結合した光子は、電子の数分の一の質量しかないように見えます。また、通常の光子に比べて10万倍近くも遅い速度で動いています。
画像出典:Christine Daniloff / マサチューセッツ工科大学
さらに、原子雲から飛び出す光子を調べました。光子の数と速度を追跡し、雲を通過する前と後の光子の位相を計算しました。
位相は、光子の振動数を表すもので、光子がどれだけ強く相互作用しているかがわかります。位相が大きければ大きいほど、相互作用が強いということになります。3光子粒子の位相変化は、2光子粒子の位相変化の3倍であり、これは、3光子粒子が揃って強く相互作用していることを意味します。
この実験により、光子は互いに引き合ったり、絡まったりできることが明らかになりました。もし、異なる方法で相互作用をさせることができれば、複雑な量子計算を行うことができるようになるかもしれません。
光子の相互作用はどのように起こるのか?
ルビジウム雲を通過した光子は、隣のルビジウム原子に短時間だけ着弾し、その後別の原子に飛び移ります。同様に、別の光子が同時にルビジウム雲を通過すると、その光子は原子に短時間だけ着地し、光子と原子のハイブリッドであるポラリトン【分極と電磁波の混合状態】が生成されます。
2つのポラリトンは互いに作用することができます。原子は雲の端にそのまま残り、出ていく光子はまだ一緒にくっついています。同じことが3つの光子にも起こり、2粒子の光子よりもさらに強い結合を作ることができます。
雲の中では、このような完全な相互作用が100万分の1秒の間に起こり、雲を出た後も光子がくっついている状態になります。この結合は、量子コンピューティングのビットで最も重要な特性である「強いもつれ」と考えることができます。
これまで、光子は光ファイバーのように、データを転送するために使用されてきました。今回の研究は、光子を、量子データを配布するためにも使えることを伝えています。
次のステップは?
出典:Timothy Yeo / シンガポール量子技術研究所 / シンガポール国立大学
3光子束縛状態は、量子領域ではフォトニックソリトンとして見ることができ、様々な方向に沿って拡張することが可能です。たとえば、原子密度を一定に保ったまま媒質の長さを長くすると、散乱効果がなくなり、ソリトン結合状態の成分だけが残ります。
また、より大きなビームや楕円形のプローブビームを用い、異なる方向に沿って質量を構成することで、システムを3次元に拡張することも可能です。今のところ、この媒質は1光子、2光子、3光子結合状態のみをサポートしています。もし原子密度が3倍になれば、光子-光子散乱の共鳴が起こり、散乱長【長波長極限で散乱波の位相。シフトを与えるパラメータ】を設定できるようになる可能性があります。
研究者たちは今後、斥力(光子が互いに散乱すること)のような他の相互作用を強制するいくつかの方法をテストします。光子の反発は、規則的なパターンを生み出すかもしれないし、他の何かであるかもしれません。
この系における大きなN体力は、量子系における自己組織化や、従来の系では実現できなかった量子物質など、物質や光のエキゾチックないくつかの体相を研究するための興味深い可能性を開いていくでしょう。