・空中-水中間での途切れない通信を可能にする並進型音響無線周波数が開発された。
・2つの構成要素(水中送信機と水面上の受信機)で動作する。
水中にある機械(潜水艦など)は、陸上の機械とは無線通信できないことをご存知でしょうか? これは、それぞれが異なる信号を使ってデータを送受信しているからなのです。潜水艦はSONAR(ソナー:音響信号)、飛行機はGPSや無線信号を使っています。
音響信号は水面に反射し、無線信号は水のような高密度の媒体を通過することができません。そのため、現在でも水面を介したデータ共有はできず、多くの用途で非効率的な状況となっています。
この長年の課題を解決するために、MIT【マサチューセッツ工科大学】の研究チームは、TARF(translational acoustic radio frequency communication【並進型音響無線周波数通信】)と名付けたシステムを開発しました。これは、空気と水の境界を通信媒体として利用するというものです。
その仕組みは?
水中にある送信機を使って、ソナー信号を水面に向けて発信します。この信号は、0と1に対応する非常に小さな振動の形をしています。水面上に設置された高感度受信機は、この小さな振動を読み取り、音響信号を解読します。
画像提供:Christine Daniloff/MIT
既存のシステム(ブイなど)は、音響信号を拾ってデータ処理し、無線信号として飛行中の機器に転送することができます。しかし、その無線信号は行方不明になりやすく、狭い範囲しかカバーできないため、潜水艦から水上への通信のようなほとんどの実用的な用途には使用できません。
一方、TARFは小型の音響スピーカーを使い、周波数の異なる圧力波の形でソナー信号を送ります。これらの周波数は、データビットに対応しています。たとえば、200 Hzで進む波は2進数のビット「1」を送り、100 Hzの波は「0」を送ります。
この信号が水面に当たると、水中にマイクロメートル単位の非常に小さな波紋が発生します。この小さな波紋の高さは、信号の周波数に依存します。複数の周波数を同時に送信することで、高いデータレートを実現します。
直交周波数分割多重方式と呼ばれる変調技術により、何百ものビットを同時に送信することができます。新しい高周波レーダーは、30〜300 GHzの波長域でこれらの信号を処理します。
振動する水面に反射して戻ってくる電波信号は、水面からレーダーへバイナリデータ【2進数で表現されたデータ】を伝えます。ただし、この信号は、音響信号で送られた2進数のビットによって信号の角度が変わるという、ちょっとした変化を伴ってレーダーに戻ってきます。たとえば、水面の振動が0ビットであれば、電波信号の反射角は100 Hzで振動します。このようにして、研究チームはソナー信号に対応する変動を拾いました。
制限
もうお分かりかもしれませんが、この研究の大きな課題は、通常は巨大な自然の波に囲まれているマイクロメートルの波を集めることでした。極端な環境では、海から100万倍もの大きな波が発生し、それが極めて小さなソナーの振動に干渉してしまうのです。
この問題を克服するため、研究チームは音響振動を拾うための信号処理アルゴリズムを作成しました。通常、自然界の波は2Hzまでですが、ソナーの振動はその100倍近い速さ(100〜200Hz)です。このアルゴリズムにより、低速の波はすべて除去され、フィルターにかけられます。
テストと応用
研究者提供
研究チームは、プールと水槽で500回のテストを行いました。プールでは、送信機を水面下3.5mに、レーダーを水面上30cmに設置し、水槽では、送信機を水面下5〜70cmに、レーダーを水面上20〜40cmに設置しました。また、16cm近い波を発生させるスイマーもいました。
いずれの形態でも、1秒間に数百ビットのデータを正確に復号することができました。たとえば、「水中からこんにちは!」という文章を送信することに成功しました。
しかしながら、16cm以上の高波によるかく乱は、システムの性能に影響を及ぼしました。この技術はまだ初期段階にあります。今後、研究チームはTARFを改良し、過酷な水環境でも動作するようにする予定です。
この新技術により、空中-水中間の通信が大幅に向上します。たとえば、潜水艦が航空機に信号を送るたびに浮上する(あるいは位置を変える)必要がなくなります。また、深海に潜る水中ドローンは、データを送信するために定期的に浮上する必要がなくなります。TARFは、水中で謎の失踪を遂げた飛行機の捜索にも役立つのです。