・物理学者たちは、熱力学的な「時間の矢」とは逆方向に動く量子状態を作り出すことに成功しました。
・また、この状態を2量子ビットおよび3量子ビットの量子コンピュータで実証しました。
・これにより、エラーやノイズを低減し、量子コンピュータの精度を高めることが可能になるかもしれません。
時間対称に見える物理学の法則から、どのようにして不可逆性が生まれるのでしょうか。科学者たちは、何年も前からその答えを見つけようとしてきました。
古典的な統計力学の枠組みの中においてこの問題は、エネルギーがある形から別の形に変化したり物質が自由に移動したりすると閉じた系のエントロピーが増加する、という熱力学の第2法則と結びついています。
2018年にモスクワ物理工科大学のロシア人研究者は、「マクスウェルの悪魔」と呼ばれる装置を通じて、熱力学第2法則の反例を報告しました。そして今回、彼らは別の角度からこの問題に取り組み、熱力学的な時間の矢とは逆方向に動く量子状態を開発したのです。
研究チームはまず、真空中の電子が本能的に近い過去へ戻っていく確率を評価しました。その結果、新たに局在化した100億個の電子を宇宙の全寿命にわたって毎秒観測した場合、電子の状態が逆に進化するのは1回だけであることがわかりました。
この場合でも、粒子は1ナノ秒以上も過去にさかのぼることはありません。これが、私たちが物事の逆行を観測できない理由です。なぜなら、物事の逆行が観察できるようになるには、膨大な数の粒子がはるかに大きな時間スケールで展開される必要があるからです。
4段階の実験
研究者たちは、2量子ビットおよび3量子ビットで構成された量子コンピュータの状態を分析しました。
1.オーダー:初期状態では、各量子ビットはゼロを表す基底状態です。
2.劣化:「進化プログラム」を起動し、量子ビットの状態を1と0、または両方に同時に変化させます。
3.時間反転:この研究で開発された独自のアルゴリズムにより、量子コンピュータを、混沌から秩序へと逆方向に進むように変化させます。
4.再生:進化プログラムを再度起動し、量子ビットの状態を過去に巻き戻す。
2量子コンピュータは85%の確率で初期状態に戻りましたが、3量子コンピュータは2量子コンピュータと比べて多くのエラーが発生し、成功率は50%でした。これらのエラーは、既存の量子コンピュータの欠陥によって発生したものです。今後、より高度な量子コンピュータ技術が開発されれば、エラー率は大幅に減少すると期待されています。
今後の展開は?
この時間反転アルゴリズムは、より精密な量子コンピュータの開発に利用できる可能性があります。近い将来、量子コンピュータのために書かれたソフトウェアをテストしてエラーやノイズを減らすために改良されるかもしれません。
今回の研究では、状態成分を1つずつスクロールさせていましたが、量子並列性をフルに活用したものではありませんでした。次の課題は、O(N)個の素粒子ゲートを使うよりも効率的に時間反転を実行する量子アルゴリズムを開発することができるかどうかということです。