・ある詩人がトポロジカル量子コンピュータの法則を詩で表現しようとした。
・その詩は、視覚的構造と言葉の選択の両方において量子物理学を翻訳している。
詩は、意味的・観念的な内容ではなく、言語がその美的特質のために使われるニュアンスのある形式です。一般的な散文とは異なる、聞き手や聴衆が「感じる」ような言葉が使われます。
複雑な現象を探求し、通常では考えられないことを描くために、詩はリズム、語順、改行、視覚的構造を用います。多くの詩人が、舞い上がるワシや荒れ狂う海の描写に頭を悩ませるのに対し、エイミー・カタンザーノ【アメリカの詩人、1974年生】は量子論の美しさを引き出します。
彼女は、詩によって、量子論をうまく説明できると信じています。詩は考えを表現するための豊かな言葉遣いを提供するからです。感情を効果的に説明するために、彼女はイタリアの物理学者ジュゼッペ・ムサルドの助けを借りました。
量子スーパーコンピュータの詩
通常、量子論は世の中で目にする論理に逆らいます。例えば、量子物質が道を進んでいて分かれ道にさしかかった時、必ずしも右か左かを選択する必要はありません。その代わり、両方のルートを同時に通ることができるのです。これは、他の通常の物体には不可能なことです。量子の挙動を特徴づけるために、物理学者は厳密な数学的表現を用いますが、これは私たち全員にとって非常に理解しにくいものです。
エイミー・カタンザーノは、この問題の解決策を持っています。それは、言い表せない量子の世界を正確に表現できる新しい言語やツールを開発することです。彼女は『World Lines : A Quantum Supercomputer Poem』(世界線【四次元時空の中である粒子が動く経路】:量子スーパーコンピュータの詩)と題した新しい詩を書くことで、この考えを実践しようとしました。これはトポロジカル量子コンピュータの法則を表しています。
彼女によれば、詩的な言葉は人々の認識に挑戦し、形作ることができ、それは物理的な世界に対する私たちの基本的な概念に挑戦することができる、ということです。
4量子ビットのトポロジカル量子コンピュータの設計
出典:APS / Alan Stonebraker
彼女が書いた詩は、トポロジカル量子マシンの実現可能なアーキテクチャを表しています。これは4つの量子ビットを持ち、それぞれがエニオンと呼ばれる2つの準粒子を含んでいます。計算を実行するには、隣接するエニオンが特定の順序で入れ替わります。出力は、エニオンの経路が重なり合うことによって生成される、いわゆる結び目や編み目の中にあります。
カタンザーノの詩では、これらのエニオンの編み目は、互いに二等分する4つの詩的連句に置き換えられています。2行の交点は、アンオンの結び目を連想させる言葉を共有しています。
読者は、これらの結び目(下の画像、白字で表示されている単語)を、経路の分かれ道として見ることができます。テキストを続けて読むこともできるし、そこ(結び目の単語)から別の行にジャンプすることもできるのです。異なる経路は、異なる結果を導く特別な世界の編み目を生成します。これは量子コンピュータが行っていることとよく似ています。
量子スーパーコンピュータの詩
出典:APS / Alan Stonebraker
この詩は、視覚的構造と言葉の選択の両方において量子物理学を翻訳しています。カタンザーノはこの実践を量子詩学と呼んでいます。
物理学の概念を文学的手法で表現しようとする試みは、今回が初めてではありません。物理学者たちは昔から、複雑な概念を単純化するために比喩を使ってきました。「entanglement(もつれ)」という言葉もそのひとつで、2つの量子粒子が互いにつながっているという概念を説明するのに使われます。ですが、この比喩は多くの誤解を生みます。
これまでに、量子物理学の法則を正確に捉えることのできる効果的な言葉遣いは見つかっていません。今のところ、この詩が、私たちがたどり着いたベストなのです。