・研究者たちは、小規模な研究で人間の加齢の側面を調査している。
・彼らは、人間の生物学的年齢を逆行させることができるという証拠を発見した。
・この結果は有望であり、研究者は適切な規模の追跡調査でこの結果の再現を試みている。
人口の高齢化は、先進国においてますます重要な問題となっており、医療、心理、経済、社会、政治など様々な問題を引き起こしています。
過去数年にわたり、老化を食い止めるための数多くの生物医学的方法が、動物モデルを用いて検討されてきました。しかしながら、そのいずれからも、全身の老化を逆行させることができるという証拠は得られていません。
最近、カリフォルニア大学の研究者たちが、人間の老化について調べる小規模な臨床試験「TRIIM」を実施しました。その結果、驚くべきことに、体内エピジェネティック時計(人の生物学的年齢を測定する時計)を逆行させることができるという証拠を発見したのです。
この臨床試験の目的は、51歳から65歳の比較的健康な男性を対象に、rhGH(遺伝子組み換えヒト成長ホルモン)を用いて免疫老化(自然加齢による免疫システムの緩やかな低下)の兆候を防止または逆行させる可能性を分析することでした。
この研究では、9人の健康な被験者が3種類の一般的な薬(糖尿病薬2種類と成長ホルモン1種類)のカクテル【混合物】を1年間飲み続けました。研究者が被験者たちのゲノムのマークを分析したところ、平均して生物学的年齢が2.5歳低下していることがわかりました。また、免疫系にも若返りの兆しがみられました。
この結果は有望と思われるものの、研究者は、この臨床試験は小規模であり、十分なコントロールがなされていないため、結果は予備的なものであると注意を促しています。
加齢のバイオマーカー【生物指標化合物】
この臨床試験は、成長ホルモンを用いて胸腺の組織を回復させることができるかどうかを検討するために特別に企画されたものです。胸腺は、肺と胸骨の間の胸部にある免疫系の特殊な一次リンパ系器官です。
ここで白血球が成熟して特殊なT細胞になり、身体が病気や感染症と闘うのを助けます。しかし、思春期を過ぎると、この腺は縮小し始め、次第に脂肪で詰まっていきます。
これまでの研究で、ヒトを含む動物の成長ホルモンが胸腺の再生を促進することが分かっています。しかし、成長ホルモンは糖尿病のレベルを上昇させる可能性もあるため、研究者は一般的な抗糖尿病薬2種類をカクテル療法に使用しました。
研究チームは、米国食品医薬品局から承認を得て、2015年にTRIIM試験(Thymus Regeneration, Immunorestoration and Insulin Mitigation【胸腺の再生、免疫回復およびインスリンの軽減】の略)を開始しました。
治療期間中、研究者は被験者の血液サンプルを採取し、様々な方法で分析しました。すべての検査で、各被験者の血球数が若返っていることが確認されました。
また、試験開始時と終了時にMRIを用いて胸腺の組成を調べた結果、7人の被験者の蓄積された脂肪が、再生された胸腺の組織と入れ替わっていることがわかったのです。
被験者の生物学的年齢を正確に評価するために、研究者は4つの異なるエピジェネティック時計を使用しました。その結果、いずれの場合にも有意な逆行が認められたうえ、この治療法の生物学的効果は、6人の被験者で6カ月間持続しました。
研究チームは、心臓病や癌などの加齢に伴う自然疾患に対する薬剤の保護能力についても試験を行っています。この研究で使用された3つの薬剤は、独自の技術により生物学的老化効果に別々に寄与している可能性があります。
研究者たちは、今回の結果を、適切な検出力を備えた追跡調査で再現することにより、検証を試みる予定で、すでに、異なる年齢層や人種の男女を含む、より大規模な研究を計画しています。