長年の心理学的研究の結果により、人間が地球上で最も知的な種であると考えられています。人間は、他の動物種よりも大きな前頭葉前部皮質(認知に関連する脳の部分)を持ち、全体的に身体に対する脳の比率が大きくなっています。
さらに、エピソード記憶【過去からの個人的な出来事を精神的に再構築する能力】、メンタルタイムトラベル【エピソード記憶とエピソード予見で考えられるシナリオを想像する能力】、より強化された感情指数などの特徴により、人間は他の種から際立たっています。しかし、知的な生物は人間だけではありません。実際、動物界には、人間にはない、ある種の認知能力に優れた生物がたくさんいるのです。
動物の精神的能力を測定することは、言語表現以外の方法を必要とするため、人間を測定するよりも困難です。道具の使用、社会的学習、新しい生息地への対応、自己認識、脳の大きさなどが、動物の知能を測る基準として用いられています。
ここでは、カラスからイルカまで、最も賢い動物8種と、その理由をまとめました。なお、見出しの番号は順位を示すものではありません。
8. チンパンジー
チンパンジーの群れ(ウガンダ)|画像提供:USAID アフリカ
チンパンジーは、人類に最も近い現存する近縁種であり、人間との共通点がたくさんあります。私たちと同じように、チンパンジーの知能やその他の認知特性は遺伝的に受け継がれています。チンパンジーゲノムプロジェクト【チンパンジーゲノムのDNA配列を決定するための取り組み】によると、コード化されたタンパク質【遺伝情報に関する】の約30%は両方の種で同一とのことです。
チンパンジーは社会性のある動物で、十数頭から150頭以上の集団で生活し、かなり複雑な社会構造を持っています。また、数字の認識、顔の表情、道具の使い方などを学ぶことができます。
チンパンジーは、自己認識(身体認識、自己認知)をすることが知られています。2000年代初頭に行われた鏡面研究(動物に鏡を見せてその反応を観察する)では、対象となるチンパンジーの多くに鏡による自己認知の特徴が見られました。
京都大学霊長類研究所で行われた数十年にわたる研究では、チンパンジーが1から9までの数字を認識して、見分ける能力を持っていることが判明しました。
7. ゾウ
アンボセリ国立公園にて、子ゾウを囲むアフリカゾウの群れ|画像提供:Amooghavarsha JS
成獣のアフリカゾウの脳は重さが5kgを超えており、陸生動物の中ではクジラに匹敵するほど巨大であると言えます。また、脳内には約2570億個の神経細胞があり、これは人間の脳の約3倍にあたります。
ゾウには、協力、思いやり、無私の心、悲しみ、ものまねなどの行動が広く観察されます。ゾウは、人間を含む類人猿、カササギ、イルカなどと並んで、自己認識を示す数少ない動物種のひとつです。
ゾウは優れた記憶力を持つことで知られています。研究によると、ゾウには高度な認知地図形成【頭の中で感じている認知を、理解可能にするために図式化すること】の能力があり、広大な空間や場所を長時間記憶することができるからではないかと言われています。人間のことも忘れません。
また、問題解決のための頭脳も優れています。2010年に行われた実験では、ゾウは他の動物種よりも効率的に協調作業を学べることが明らかになりました。その実験は、2頭のゾウが同時にロープの両端を引っ張って餌を取りに行くというものでした。
6. カラス
イギリスのカラス|画像提供:Jans Cannon/flickr
カラスは、おそらく地球上で最も知的な鳥でしょう。優れた記憶力を持ち、道具を使い、食物を隠し、お互いに学び合う能力を持っていることが知られています。カラスやワタリガラスの中には、他の種よりも認知テストの結果が良いものが見られます。
オーストラリアの東、太平洋上のニューカレドニアに生息するニューカレドニア・カラスは、獲物を捕らえるために特殊な道具を作ることが観察されています。これらの道具は高いレベルで標準化されています。
アフリカ北部のズキンガラスのように、パンくずを使ったエサ釣りをマスターしているカラスもいます。さらに、心理学の学術雑誌『Journal of Experimental Analysis of Behavior』に掲載された研究によると、ズキンガラスは(マッチングや特異性課題に基づいて)著しい数値能力を持っている可能性が示唆されています。オーストラリアのクイーンズランド州では、カラスが、摂取すると多くの動物種に致命的な影響を与える有毒なサトウキビヒキガエルを餌にする戦略を開発したようです。
カラスやその近縁種であるカササギなどは、人間を顔の特徴で認識する能力があることで知られています。これを確認するために、「危険な」仮面を装着したボランティアが、キャンパス内の指定されたルートを歩くという実験を全学的に行いました。その1か月ほど前には、研究者グループが同じ仮面を使用して、大学の敷地内で数匹のカラスを捕まえて閉じ込め、後で解放していました。
その結果、「危険な」仮面を装着した人がキャンパス内を歩くと、カラスがその人々に対して、とがめるように声を上げることが判明しました。
5. イルカ
バンドウイルカ
イルカは、おそらく世界で最も賢い水棲動物です。身体に対する脳の比率が1/50と比較的高く(チンパンジーよりも高い)、様々な感情を表し、ものまねや、協力、さらには計画を立てることができます。
ミラーテスト【鏡像自己認知テスト】では、イルカに自己認識能力があることが示されています。しかし、批評家は、クジラ目 (水生哺乳類) の通常の社会的行動が自己認識行動として誤って解釈される可能性があるため、ミラーテストはあまり効果的ではないと主張しています。
2004年に発表された論文によると、イルカは類人猿と共通の重要な認知能力を持っている可能性があるとされています。それとは別の、ミシシッピ州の哺乳類研究所で行われた実験では、イルカのケリーは、目先の欲求を我慢する満足遅延耐性の能力を示し、トレーナーから定期的に魚のおやつをもらうための戦略も立てました。
イルカの脳内には、哺乳類の社会的行動や判断、感情に関わるとされるスピンドル神経細胞が、人間の脳内と同じ場所に存在しているのです。
4. ハチ
ミツバチの巣箱|画像提供:Wikimedia Commons
マルハナバチやミツバチなど、よく知られているハチの仲間は、人間と同等の集団的な知性を備えた社会性の高い動物です。これらのハチは、新しい巣や食料源を見つけるために、集団的な意思決定を行うことで知られています。多くの個体の認知、協力、協調によって意思決定が行われることは、集団的知性または集合的知性と呼ばれます。
働くミツバチには、「ミツバチのダンス」【ミツバチが8の字に歩き回る行動】という複雑なコミュニケーション方法があります。オーストリアの生態学者Karl von Frischが、このミツバチの特性をいち早く研究しました。ミツバチは餌を見つけると、その場所の情報をダンスで巣の中の他のミツバチに伝えるのです。
これは、お尻を振りながらある方向に向かって直線的に移動した後、半円を描くように元の位置に戻り、ダンスを再開するというものです。踊っているハチが直線的に移動する方向は、他のハチに餌場の方向を知らせます。一方、餌場までの距離は、直線を横切るのにかかった時間によって伝えられます。1秒間のダンスは、約1キロの距離を示しています。
研究により、ミツバチのコロニーが集団で最も収益性の高い蜜源や豊富な蜜源を選び、採餌活動を急速に変化させることができることが示されています。
3. タコ
一般的なタコ|画像提供:Wikimedia Commons
頭足類は、その空間学習能力、ナビゲーション能力【方向感覚】、観察学習、そして風変わりな捕食技術から、最も賢い無脊椎動物の一つと考えられています。頭足類とは、イカ、タコ、ダイオウイカなどを含む軟体動物の分類(分類学上のカテゴリー)です。
道具を使う
タコは道具を柔軟に使うことができます。これは知性を測るための重要な要素です。メジロダコは、ココナッツの殻を用いて、移動式のシェルターとして使用することが複数回確認されています。ヤドカリなど他の海の生物も同様の行動をとりますが、研究者はタコの要塞作りの能力は他の生物よりもはるかに複雑であると考えています。また、タコは道具を拾って持ち歩き、後で使うことも知られています。
ムラサキダコのオスと小さなメスは、捕食者から身を守ったり獲物を捕らえたりするために、猛毒のカツオノエボシ【電気クラゲ】の触手を持っていることが観察されています。
ドイツの水族館のタコ、オットーは、水槽のガラスに石を投げつけることで有名でした。また、ヤドカリの束を抱えて曲芸をしていたこともありました。
コソコソする逃亡者
タコはコソコソする捕食者です。餌の大部分はカニですが、大きなカニは爪が強力で動作が素早いため、タコが直に捕まえることは困難です。その代わり、ロブスターの罠を待ち伏せして獲物を捕まえます。また、漁船内の死んだロブスターを入れた容器の中に忍び込むこともあります。
また、タコは脱走魔としても有名で、囲いの中から脱走することもよくあります。2016年には、ニュージーランドに生息するタコのインキーが、国立水族館の水槽から脱走した後、50メートルの排水管を使って逃走しました。
2. アライグマ
人間の集団に近づくアライグマ|画像提供:Wikimedia Commons/Paxson Woelber
アライグマは、様々な環境に適応することで知られる、賢くて知的な動物です。犬や猫に比べると、アライグマの認知能力を調べる研究はまだ少数です。
鍵開けの名人
1908年、行動生態学者のH.B. Davisが行った実験で、アライグマの鍵開け能力が明らかになりました。アライグマは、複雑な錠前を十数回の試行錯誤で開けることができたのです。それだけではありません。錠前を逆さにしても、同じ動作を繰り返すことができました。H.B. Davisは、アライグマは学習能力が高いだけでなく、錠前の概念的な原理も理解していると結論づけました。
1960年代以降、アライグマの記憶力に着目した研究がいくつか行われています。1992年に発表されたその一つの研究では、アライグマは3年前の最初の学習段階で教えられた記号を簡単に区別できました。
認知神経科学者で作家のStanislas Dehaeneは、著書『The Number Sense』の中で、アライグマはブドウが2個または4個入った果物箱と、ブドウが3個入った果物箱とを瞬時に見分けることができると報告しています。
また、アライグマの脳の大きさは猫と同じながら、大脳皮質の神経細胞の数は犬と同じであることがわかっています。
アライグマはその俊敏な前足と知性により、ビンの蓋を開ける、ボトルのコルクを抜くなど、人間と同じような多くの動作を行うことができます。経験を積むと、ドアノブを回したり掛け金を外すこともできるようになるのです。
1. ニワトリ
おんどり|画像提供:Wikipedia
通説とは異なり、ニワトリは知的で敏感な感情を持つ鳥です。ニワトリや一般的な家禽類は世界で最も多く生息する鳥類で、2019年現在、259億羽が生息すると推定されています。しかし、この鳥類については多くの誤解があります。
ニワトリは通常、高度な認知能力を持たない知能の低い生物と考えられています。また、嬉しさや悔しさ、寂しさといった感情のない生物だと思われています。しかし、実際にはそうではありません。
認知的な研究によると、ニワトリは少なくともある程度の自己認識能力、感情的な知性を示す能力、数字の理解、操作能力を持っていることがわかっています。
教えやすい
2015年、オーストラリアのアデレード大学の研究者が行った研究により、ニワトリは学習能力が高く、新しい芸や操作を教えやすいことが明らかになりました。また、この研究では、ニワトリは感情豊かな生物であると結論づけています。
The Kimmela Center for Animal Advocacy【ユタ州の動物擁護団体】のLori Marino氏は、ニワトリの認知、感情、個々の性格に関する厳選された、同業者による論評の対象となる研究を調査し、哺乳類を含む他の脊椎動物と比較しました。著者によると、この科学的論文は、科学的な手段を用いて、この家畜について一般の人々を啓蒙することを目的としています。ちなみに、同氏は、バンドウイルカの鏡による自己認知に関する史上初の論文を共同執筆しています。
基本的な算術能力を持つ
イタリアのパドヴァ大学の心理学者Rosa Ruganiは、生まれたばかりのヒヨコの算術能力を分析するために、様々な実験を行いました。ヒヨコには、まず5つの同じ物体が与えられました。
数日後、その物体を2枚の黒いスクリーンの背後に3個セットと2個セットに分けて隠し、すべてのヒヨコに見せました。すると、ヒヨコは本能的により多くの物体のあるスクリーンを探りました。
続いて、2枚のスクリーンの背後にある物体を入れ替えて実験を行ったところ、結果はまったく同じで、ヒヨコは物体の移動を把握しているらしく、より多くの物体のあるスクリーンに近づきました。この研究により、ニワトリは幼い頃から数や数的課題について基本的な理解をしていることがわかりました。