ブロックチェーンの発展の様子を見るに、この技術こそが未来そのものであると言っても過言ではありません。
今のところ、ブロックチェーンの開発は金融機関が主導しているものの、政府機関や実体経済への導入状況はすでに目を見張るものがあります。ブロックチェーンが進化を遂げているおかげで、有望かつ今後継続していくべき展開が社会にもたらされるであろうことが明らかになっています。
そんな展開のいくつかをご紹介しましょう。私に言わせれば、どれも非常に大きな可能性を秘めたものばかりです。この記事では6つの展開についてお話ししますが、ポジティブな要因によるものと、ネガティブな要因によるものとに分かれています。
ポジティブな要因によるものは、特にユーザーの関心が要因となって特定のマーケットが発展したことにより生まれたものです。ネガティブな要因によるものは、過去の失敗を修正した結果として生まれたものです。
ポジティブな要因に基づくブロックチェーンの今後の展開
政府機関へのブロックチェーンの導入
当初、政府機関へのブロックチェーンの導入はリスクの高いプロジェクトだと思われており、小さな国に限って実行されてきました。しかし、今や状況は一変しました。
最新のニュースを見てみましょう。先日、日本の金融庁長官は、新型コロナウイルス感染との世界規模での戦いを継続するうえで、ブロックチェーン技術は欠かせないものだと述べました。タイでは新しい法人文書保存システムを立ち上げる計画がありますし、コロンビア当局は暗号通貨やブロックチェーン決済システムを支援する意思を明確にしています。
政府機関で使われているブロックチェーンについて言えば、ベトナムではすでに専用ブロックチェーンプラットフォーム「akaChain」が利用されており、同国のデジタルトランスフォーメーションの加速に一役買っていますし、韓国では、100万件以上の運転免許証をブロックチェーンシステムに適応させています。
このような最新ニュースとは対照的に、規模が拡大しつつあるブロックチェーンに対する畏れともいうべき感情は、いまやすっかり失われました。大多数の大国においては、それぞれの中央銀行がこの技術の将来的な可能性を探っている段階に過ぎない一方で、中国はすでに官製暗号資産、デジタル人民元を発行する準備を進めているのです。
現在、中国は政治経済に関わるあらゆる分野において、きわめて重要な役割を担っています。ブロックチェーンによって、中国はグローバル市場のライバルたちの手の届かない高みへとさらに登っていくことでしょう。
現状において、ブロックチェーンを日常生活に浸透させることや、デジタルトランスフォーメーションに関するビジネス知識が、国際外交におけるソフト・パワーであることは疑う余地もありません。さらに、ブロックチェーンを選挙において活用することは、これまでも、そして今後も、絶対的なトレンドであり続けるでしょう。
ブロックチェーンの実体経済への浸透
過去数年にわたる試験的プロジェクトは、素晴らしいとは言えないにしても、少なくとも満足のいくものであったことは確かです。ブロックチェーンを供給や在庫管理の分野に広く導入する時代が、本格的に到来しているのです。
2016年は、試行錯誤を繰り返した年でした。この年、食品流通の追跡を目的としてウォルマートとIBMが連携を始めたことが大きなニュースとなりました。その結果、ブロックチェーンプラットフォーム「Food Trust」の商用提供が実現。IBMはそれだけにとどまらず、2018年にはデンマークのマースク社との長期パートナーシップを結び、貨物輸送分野におけるソリューションとして、国際貿易プラットフォーム「Tradelens」を立ち上げました。
試行錯誤はついに実を結び、先駆者であるウォルマート(同社のプラットフォームでは、70社の運送会社と何百人もの小売業者の輸送を追跡するのみならず、支払い履歴まで追うことができます)だけでなく、他の企業も次々と新しいプラットフォームを立ち上げたことが報じられました。
たとえば、自動車メーカーの最大手であるボルボやフォード(リチウムイオン電池に使われるコバルトの供給を追跡)、食品会社のネスレ(コーヒーや赤ちゃん用ミルクの原産地を追跡するための試験プロジェクトを開始)、さらにはアマゾン、インフォシス、ほかにも数多くの企業(ワインの供給管理など)でこのような取り組みが始まっています。
しかも、上記はほんの一例でしかありません。実体経済におけるブロックチェーンの活用は、いまや特定の実業家だけの特権ではなく、世界的な現象となっているのです。ですから、新しく市場に参入したいなら、ブロックチェーンを取り入れるのが賢明でしょう。
さらに、大手電力会社や業界団体が多くの新しいプロジェクトを立ち上げているという事実も忘れてはいけません。たとえば、スペインの電力会社イベルドローラは最近まで、再生可能な(「グリーン」な)エネルギーをユーザーに提供するために、ブロックチェーンを使って新しいエネルギー供給源を模索していました。
また、国際団体EWF(Energy Web Foundation)が、エネルギー部門に特化した初のパブリックブロックチェーンを立ち上げようとしていることも大きなニュースになりました。近い将来、ブロックチェーン技術はガスや石油業界にも導入されるでしょう。
電力分野におけるブロックチェーンへの投資は、2025年までに30億ドルにまで膨らむと見られています。昨年、同様のプロジェクトに投資された額は合計で約6億ドルですから、これは十分に実現可能な数字と言えます。
銀行が主導する金融業界の進化
ブロックチェーン技術はかなり急速に発展を遂げてきましたが、その道のりはスムーズとは言えないものでした。近年特に話題になった問題は、次のようなことです。
・何度か延期になっていた仮装通貨イーサリアムの大型アップデート「イスタンブール」が実施され、同ネットワーク上のスマートコントラクト(自動契約技術)機能に問題を生じさせた。
・仮装通貨イオスが、ネットワークの混雑や集中化といった問題を解決しようとしている。
・仮装通貨トロンの北京オフィスで抗議活動が起こり、コードに致命的な脆弱性があった。
パブリックブロックチェーン市場は確実に競争が激化しており、その勢いは今後しばらく衰えないでしょう。この状況において成功を収めることができるのは、内部の矛盾を解決できるだけでなく、この技術の新しい方向性を考えることができるプロジェクトだけということになります。特に、分散型金融のエコシステムや、さまざまなブロックチェーンの相互運用性のプロトコルなどが挙げられます。
ブロックチェーン推進の指標となった主な出来事のひとつとして、規制当局との対立が新たなレベルに踏み込んだことが挙げられます。この対立は、政府の決済システムのトップたちが同様の民間システムの構築支援に無関心であることが原因です。これは理にかなっていますし、理解できることではありますが、社会からは否定的な反応があがっています。
その顕著な例としては、最近行われた仮装通貨リブラに関する公聴会や、米国証券取引委員会によるテレグラム社およびその子会社であるTON Issuer Inc.に対する訴訟の問題などが挙げられます。
最初の対立は、リブラがFacebookが抱える膨大なユーザー情報にアクセスできてしまう可能性や、それを大手のテクノロジー会社や金融会社が利用する可能性に関して規制当局が懸念を示したことが話題となりました。
その結果、FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、米国規制当局から許可が下りない場合はリブラをローンチしない旨を議会で確約しなければならず、それによってPayPalやVisa、MasterCard、eBay、Stripe、Mercado Pagoといった企業がリブラ協会から離れていきました。
それでもまだ、ザッカーバーグ氏と彼のチームは諦めていません。ステーブルコインを証券として扱うべきとする法案が米国下院に提出されて以降は特に。法的観点で言えば全てが順調に進んだものの、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ、米国、フランス、そして日本の当局から批判が相次いでいることから、このプロジェクトを進めるのはしばらく時間をおいてからの方がよさそうです。
テレグラム・グループの状況は、まる法律論争のようです。はじめ、米国証券取引委員会の代表者は、グラムトークンは有価証券にあたり、ICO(新規通貨公開)は違法な未登録有価証券の販売とみなされるべきだと主張していました。すると、テレグラム・グループがこの判断に異議を唱え、2020年1月10日、米国証券取引委員会は第三者を含む公募期間が終了した後もグラムトークンの販売が行われていたことを示す証拠を提出しました。
これにより、1月13日に裁判所はテレグラム・グループに対し、グラムトークンの販売に関する銀行取引のデータを2月26日までに開示するよう命じました。
上記の事実が示すのは、ブロックチェーンは斬新で有益な技術ではあるものの、政府の規制当局と戦うのは時期尚早であるということです。しかし、ユーザーはすでに新しいプラットフォームの可能性に気づいており、銀行よりもそういった新しい技術のほうを信用する流れが生まれているため、もう後戻りはできません。
すぐにこういった問題に対する解決策が打ち出され、大手の金融機関が次々とブロックチェーンを導入し、現在のトレンドになっています。この話題に関連して特筆すべき最新ニュースを以下にご紹介します。
・ドイツ証券取引所とHQLAx社が共同で立ち上げたプラットフォームで、コメルツ銀行、クレディスイス、UBSが初めての取引を行った。
・ノーザン・トラスト社が、個人投資家向けに、ブロックチェーン技術を使った債券の分割取引のテストを行っている。
・BNYメロン、三菱UFJフィナンシャルグループ、クレディ・アグリコルが貿易取引プラットフォーム「Marco Polo」に参入した。
・サンタンデール銀行が、2019年9月にブロックチェーン上で発行した2,000万ドルの債券を償還した。
・JPモルガンは信用取引の自動決済にブロックチェーンを利用している。
・HSBCは、ブロックチェーンを利用して、ペルシャ湾地域の企業との信用状のトランザクションを2件実行した。
ネガティブな要因に基づくブロックチェーンの今後の展開:
(端的に説明すると、ネガティブな問題には、ソフトウェアや競争ではなく、ものの見方が関係していることが多く、つまりは人的要因がほとんどです。)
ブロックチェーンに関する誤解を解かなければならない
1)ブロックチェーンの多彩な機能の見過ごし
ブロックチェーンが監査ログを作成できるツールであることが見過ごされているのは深刻な問題です。ガートナー社が述べているように、ITディレクターたちはブロックチェーンを導入してはいるものの、一般のデータベースでも簡単に解決できてしまうような問題にしか利用していないケースがほとんどです。
その結果、トークン化、スマートコントラクト、分散型コンセンサスといった、ブロックチェーンのキーとも言うべき機能が無視されてしまっています。
専門家は、ブロックチェーンプロジェクトの90%は、1年以内に入れ替えが必要になるだろうと予測しています。いま急速に時代の流れとなりつつあるこの問題に対する解決案は明らかです。ブロックチェーンが単なるデータベース以上のものであり、もっと難解なタスクに対応するために作られているという事実を認識することです。
この問題と表裏一体なのが、ブロックチェーンの利用範囲に関する誤った認識です。ブロックチェーンを単なるデータベースやデータ保存システムと考えているために、現時点ではスケーリングにかなりの問題点があるということを忘れてしまうのです。
その原因は、アップデートのたびにP2Pネットワーク内の各ノード内に台帳のコピーが保存されるため、パフォーマンスと成長とが反比例してしまうことにあります。これに対する解決策は、問題に対する意識的なアプローチも示唆しています。
つまり、専門家はブロックチェーンシステムにおけるデータ管理の要件を見直し、場合によっては、ほかのデータ管理システムのような従来的なソリューションを利用することを推奨しています。
2)本番環境向けに準備が整っているという思い込み
大半の企業は、ブロックチェーンをすぐに本番環境で実用できるものと思い込んでいますが、それどころか、マーケットのシェアを占めているプラットフォームは、まだ企業の運営に本格的に導入することには全く対応していないものが大半なのです。
これらはみな実用性以外の部分を重視して作られているからです。あるものは機密性を、あるものはトークン化を、そしてあるものはユニバーサルコンピューティングを、といったように。
既存のシステムの大半はセキュリティ基準を満たしていないうえ、多くの最新のネットワーク管理サービスとも連携していません。だからこそ、一般的なデータベースの代わりにブロックチェーンに基づいたシステムを導入するならば、そのシステムが必要なものを提供してくれない場合があるという事実を十分に認識したうえで、慎重に決断すべきなのです。多くの場合、この原因は人的要因にあるのではなく、現時点での技術の限界にあります。
結論として、最初から過度な期待をせずに、ブロックチェーンもメリット・デメリットを併せ持つツールだと考えたほうがいいでしょう。
3)プロトコルとビジネスソリューションの混同
ブロックチェーンはあくまでもテクノロジー基盤としての技術であって、ユーザーインターフェースやビジネスロジック、データの永続性、相互運用のメカニズムを備えた完全なアプリケーションというわけではありません。
このことをもっとも分かりやすく説明しているのが、エイドリアン・リオ氏の次の言葉です。
「ブロックチェーンに関して、単なるテクノロジー基盤なのに、単体で完全なアプリケーションのように使えるという誤解が見られます。しかし、実際はそうではありません。ブロックチェーンは、アプリケーション全体の中で特定のタスクを実行する一種のプロトコルである、と考えれば分かりやすいでしょう。eコマースシステムや分散型ブロックチェーンソーシャル・ネットワークを、アプリケーション抜きにプロトコルだけで使うことができると考える人はいないでしょう。それと同じです。」
スマートコントラクト(自動契約技術)の問題を解決する
現在、いわゆるスマートコントラクトは、ブロックチェーンのもっとも強力な機能です。
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上の取引に動作を与える機能です。概念的には、スマートコントラクトは特定の取引履歴と紐づけられたストアドプロシージャであると理解することができます。しかし、中央集権的なシステムのストアドプロシージャとは違って、スマートコントラクトはP2Pネットワークのすべてのノードで実行されるため、スケーラビリティや管理性の面でまだ十分に解決できていない課題が残っています。
このため、ビジネスアナリストたちは、スマートコントラクトはまだ本格的な導入を図る段階になく、先に小規模な実験をするべきであると述べています。
テクノロジー同士の連携
現在のところ、多くのブロックチェーンプラットフォームは開発中の段階です。そのため開発者たちは、将来ほかのテクノロジーと連携させることについてはまだあまり考えていません。現時点では想定するのが難しいためです。
したがって、あなたが利用するブロックチェーン技術が他のベンダーのテクノロジーと連携されるかどうかは一種の賭けとなってしまいます。
あなたも、ブロックチェーンを上手に利用しましょう!