・トヨタがネオジム使用量を削減したモーター用新型磁石を開発。
・ネオジムの一部を安価なレアアース【希土類元素】のセリウム(Ce)とランタン(La)に置き換えた。
・ネオジムの使用量を最大50%削減しながら、同等の耐熱性と保磁力を実現した。
トヨタ自動車は、世界初の省ネオジム耐熱磁石を発表しました。ネオジムの使用量を減らし、極端な温度環境下でも良好に動作することを可能にするものです。
ネオジム磁石は、ホウ素、鉄、ネオジム合金からなる正方晶の結晶構造を持つ希土類磁石です。ネオジム磁石は、電気自動車で一般的に使用される高スループットモーターなど、いくつかのタイプのモーターで主に使用されています。また、電気自動車のトレンドは急速に成長しているため、近い将来、この種のモーターの高い需要が期待できます。
ネオジム磁石は最も強力な永久磁石のひとつで、他の磁石に代わって、マグネットファスナー、ハードディスクドライブ、コードレス工具のモーターなど、様々な最新機器に使用されています。
ネオジムはレアアースの中でも産出量が多く、電気自動車の普及に伴い、将来的に不足する可能性が高くなっています。そこでトヨタは、ネオジムの使用量を減らそうとする技術を開発したのです。
新しい磁石
4代目プリウスモーター
出典:トヨタ自動車
トヨタが開発した磁石は、高耐熱ネオジム磁石の開発に欠かせない希少なレアアースであるディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を使用していません。ネオジムの一部を、より安価なレアアースであるセリウム(Ce)とランタン(La)に置き換えています。
この置換により、磁石に使用されるネオジムの量が減少します。ネオジムは高い磁力(保磁力として知られる)と耐熱性を担っているため、その量を大幅に減らしたり、他の物質に置き換えたりすると、モーターの性能が低下する恐れがあります。
そこでトヨタは、ネオジムをセリウムとランタンに置き換えることで、保磁力だけでなく耐熱性の低下も抑える新技術を開発しました。ネオジム量を50%まで減らしながらも、同等の耐熱性と保磁力を持つ磁石を開発したのです。
次の3つの組み合わせにより、この磁石は極端な温度下でも保磁力を維持します。
1.磁石を構成する粒の微細化:磁石を構成する粒を、従来のネオジム磁石の1/10以下にまで微細にし、粒と粒の間の仕切りの面積を大きくすることで保磁力を高温でも高く保つことができるようになりました。
画像出典:トヨタ自動車
【左:従来のNd磁石(顕微鏡写真)と模式図
右:粒を微細化したNd磁石(顕微鏡写真)と模式図】
2.粒の表面を高特性にした二層構造化:ネオジムの濃度を磁石の粒の表面で高くし、内部では低く保ちます。これにより、保磁力は従来とほとんど変わらず、磁石全体のネオジム量を減らすことができるようになりました。
【左:従来の粒。Ndが粒全体にほぼ均等に存在
右:二層構造化した粒、粒の内部はNdが薄く、粒の表面はNdが濃い】
3.セリウムとランタンの合金比率:安価で豊富なレアアースをセリウム:ランタン=3:1という特定の比率で合金化しました。これにより、耐熱性と保磁力の低下を抑制できるようになりました。
今後の目標は?
この新しい磁石は、自動車やロボットのほか、貴重なレアアース資源の需給バランスを保つために利用されるでしょう。
トヨタは今後、この製品の性能をさらに高め、潜在的な用途を分析しながら、量産に向けた技術開発を進めていく予定です。当面は、いくつかの用途の電気モーターへの早期採用を目指しています。
同社はさらに、電気自動車の大量使用を支える基盤の整備にも取り組んでいきます。バッテリー、インバーター、モーターなど、機械の要素技術開発には多くの研究開発が必要ですが、トヨタはどの分野においても着実に成長させていく方針です。