降水とは、雨のことだけを指すと思われるかもしれませんが、そうではありません。簡単に言うと、降水とは、大気中で形成され、地表に降り注ぐ、液体または固体のあらゆる種類の水の粒子のことです。
METAR気象コードは、気象予報士や航空機のパイロットが使用する気象予報・報告のための国際標準です。
降水の種類
降水にはいくつかの種類があり、大きく分けて液状、氷結、凍結の3つに分類されます。液状の降水には、雨、霧雨、露があります。このうち、雨(または霧雨)が氷点下で降る場合は、着氷性の雨、または着氷性の霧雨と呼ばれます。
また、大気の状態によっては、雪、霙[みぞれ]、霰[あられ]、雹[ひょう]など、凍った粒子の形で降ることもあります。
液状の降水
1.雨
葉っぱの上の雨粒
METARコード:RA【雨】
雨は、雨粒とも呼ばれる水滴の形で地表に降る、おそらく最も一般的なタイプの降水です。雨粒の形成は、乾燥した空気の塊に大気中の水蒸気が吸収されることから始まります。
空気の塊がさらに多くの水蒸気を吸収すると、徐々に飽和点、つまりそれ以上の水蒸気を保持できない段階に達します。飽和点に達すると、その空気の塊は雲に変化します。
乾燥した空気の塊が飽和点に達するまでにどれだけの湿度を保持できるかは、その温度によって決まります。温度が高ければ高いほど、より多くの水蒸気を保持することができます。
次の段階は「併合」と呼ばれるもので、小さな水滴が結合して大きな水滴を形成します。この水滴が雲にかかる空気抵抗に打ち勝つほど大きくなると、雨として降ります。併合過程は、気温が高い雲や氷点下以上の雲で起こります。
雨粒の大きさは、2mm以下から9mm程度まで様々です。小さな水滴は球形に近い形をしています。しかし、大きくなるにつれて扁平になります。
砂漠などの高温で乾燥した地域では、降水は雲から降っても、地上に到達する前に空中で蒸発します。このような雲は、しばしば漏斗のような形をしています。このような現象は「尾流雲」と呼ばれています。
着氷性の雨
カナダでの樹木の枝に付着した雨氷
画像出典:Nicolas M. Perrault
降ってくる雨粒が氷点下でも完全に液体(過冷却液体)である場合、降水は着氷性の雨(METARコード:FZRA【着氷性雨】)に分類されます。この雨粒は、樹木、自動車、電線、航空機など、あらゆる表面に衝突して凍りつき、雨氷を形成します。
雨の原因は何か?
A. 熱帯地方で降る雨の主な原因は、対流性降水です。本質的に、水分を含んだ暖かい空気の塊が、その下にある冷たい空気の塊によって持ち上げられることによって、対流性降水が発生します。2つの前線の違いにより、天候が変化し、雨が降るのです。
B. 世界の多くの山岳地帯では、地形性の原因によって降雨が発生します。このような降雨は、湿気を含んだ空気の流れが山の風上で上昇するときに起こります。空気の塊がある高度に達すると、断熱冷却が起こり、空気の塊の相対湿度が最大となります。そして、降水に至るのです。
C. 炭素、二酸化硫黄、微粒子などの大気汚染物質は、雲凝結核(CCN)として作用し、降雨を頻繁に促進します。地球温暖化、さらに局所的には都市のヒートアイランド現象が、都市部の降雨量を激増させる主因となっています。
2. 霧雨
イギリス、ボーンマスの街で降る霧雨
画像出典:David Lally
METARコード:DZ【霧雨】
霧雨も液状の降水の一種で、亜熱帯地方、主に寒冷地で頻繁に発生します。霧雨の水滴の大きさは、雨よりも小さく、0.5mm以下です。
霧雨は、亜熱帯地方から極地域にかけての広い範囲を覆う積乱雲や成層圏の雲と強く結びついています。その低強度の性質により、人間社会に大きな影響を与えることはほとんどありません。
一方、着氷性の霧雨(METARコード:FZDZ【着氷性霧雨】)は、はるかに危険です。薄氷や透明な氷とも呼ばれる着氷性の霧雨によって、道路に薄く氷が張るだけでも、事故や車両衝突の原因になります。また、成層圏の雲に含まれる過冷却の水滴は、航空機にも危険をもたらします。機体やその他の露出部品に凍結することで、航空機の飛行中の性能を著しく低下させる可能性があるのです。
着氷性の霧雨に関連した航空機事故は、これまでに数件記録されています。1994年10月31日、インディアナポリスからシカゴへ向かう乗客を乗せたアメリカの国内線が、インディアナ州ローズランド近くの畑に墜落した事故もそのひとつです。
その墜落の原因は、着氷性の霧雨による極端な氷の付着により、航空機の重要な計器類が破損したためであることが判明しました。
凍結の降水
3.雪
2011年、シカゴ大雪の際の道路の立ち往生
画像出典:Victor Grigas/Wikimedia Commons
METARコード:SN (+/-)【雪】
雪は、氷の結晶の形で降る凍結の降水の一種です。雪は、雲の中で微小な過冷却液滴が凍りつき、氷の結晶となることから始まります。氷の結晶は、形成された時点では直径10マイクロメートル以下の大きさです。それが、周囲の水滴を吸収することで、数ミリ単位で大きくなっていきます。
降水によって個々の氷の結晶が落下すると、しばしば氷同士がぶつかり合い、結合してクラスターを形成します。これが雪の結晶と呼ばれるものです。
典型的な雪の結晶
降雪のバリエーション
降雪は、その強さと継続時間から、にわか雪(淡雪)、驟雪[しゅうせつ]、吹雪(中くらいの強さの雪)、ブリザード【猛吹雪】に分類されます。アメリカやカナダでは、持続的な風速が時速56kmに達し、視界が400m以下になるとブリザードに分類されます。
落下する雪の粒子の大きさが直径1mm以下の場合は、霧雪に分類されます。この小さな凍結粒子は羽毛状で平たく、衝撃を受けても壊れないのが特徴です。
極地域以外では、降雪は世界の山岳地帯で多く見られます。北半球の緯度48度では、海抜約2,500mで永久積雪が見られます。北緯58度から83度に位置するグリーンランドでは、このレベルは100〜500メートルです。
4. 霰または霙
雪の結晶(左)からの霰の形成(右)
METARコード:GS【雪あられ、氷あられ】
霰は、雪あられ、柔らかい雹とも呼ばれ、円形で、もろく、不透明な雪の結晶(霧氷)からなる、独特のタイプの降水です。通常、直径2~5mmの大きさです。
霰の形成は、高地で氷の結晶が過冷却水滴に接触することで行われます。この過冷却水滴は直径10マイクロメートル以下の微小なもので、マイナス40度でも液体の状態を保つことができます。
過冷却液滴は、接触すると、氷の結晶の表面で瞬時に凍結します。これが氷晶、あるいは霧氷と呼ばれるものです。雪の結晶が完全にこの形成物に覆われ、元の形を失うと、霰と呼ばれるようになります。
霰は、雹や氷あられと違い、その形や大きさ、落下する仕組みが異なります。雹は、雷雨または雹を伴う嵐のときにのみ発生し、壊れやすい霰に比べて硬く、均一な質感を持っています。
5.雹
大きな雹の粒
画像出典:NOAA
METARコード:GR【雹】
雹は、比較的大きく不規則な氷の塊として降る、別の種類の凍結の降水です。雹の粒は、霰よりも大きく、平均して直径5ミリ以上ありますす。大きいものでは、直径15cmにもなります。
雹の形成は、標高の高い氷点下の雷雨の雲の中で行われます。大きな雹の粒は、厚さの異なる複数の氷の層で構成されています。これは、強い上昇気流にのって雹が雲の中を移動するためです。
雹が移動する際に、雲中の過冷却水滴(雹の表面で凍る)が多い領域に接触すると、新たに厚い層が形成されます。一方、雹は、雲中の水蒸気量の多い場所を移動すると、薄くガラスのような氷の層を形成します。
雹は、熱帯地方から北極圏(北半球)にかけての中緯度の山の尾根沿いに多く発生します。
中国の南西部の大部分では、激しい雹が降り、しばしば死者や物的損害が発生します。米国では、ワイオミング州からテキサス州にかけての広大な地域で、定期的に雷雨と雹の降水が発生します。この地域は別名「Hailstorm Alley」【雹嵐の裏通り、の意味】と呼ばれます。
その他の降水の種類
巨大氷塊は、奇妙な大気条件下で発生する珍しいタイプの降水です。大きな雹の粒に似ています。重さは1キログラム以下から数キログラムのものまであります。
記録上最大の巨大氷塊は、重さ約400kgで、2004年にスペインのトレド市付近で発見されました。また、重さ200kgを超える巨大な塊は、1997年にブラジルで発見されました。その大きさと地表への影響から、巨大氷塊はよく隕石と混同されます。
他の降水の種類とは異なり、巨大氷塊が形成される正確なメカニズムはまだ解明されていません。しかし、これまでの研究により、雹と似ている部分があることは分かっています。
よくある質問
降水の原因は何ですか?
簡単に言えば、降水は、雲の中の水滴や氷の結晶が大きくなり、その下にある空気がその重さに耐えられなくなり、落下することで発生します。多くの場合、特に高地では、降水は雪(氷点下で水滴が凍る)として始まります。しかし、雪の結晶が暖かい空気層を通過して落下すると、雨粒になります。
霧は降水ですか?
ロンドンの霧
画像出典:George Tsiagalakis/Wikimedia Commons
霧は、降水というよりは、微小な水滴や氷の結晶まで運ぶ低層雲です。霧雨や雪のような軽い降水をもたらすこともあります。
霧は、非常に湿度の高い状態において、気体の水、つまり水蒸気が凝縮して小さな水滴になることで発生します。水蒸気が大気中で凝結するためには、塵や海塩、不純炭素などの小さな固体粒子(雲凝結核)の存在が必要です。霧は、放射霧、移流霧、谷霧、凍結霧などの種類に分類されます。
降水量はどのように記録・測定されるのですか?
降水量の計測には、雨量計という上端が開いた円筒形の小型容器と付属の目盛りが使われるのが一般的です。雨量計には、転倒ます型、記録式計量型、非記録式円筒型などの種類があります。
気象レーダーの表示
画像出典:NOAA
また、より洗練された降水量の測定として、レーダーの技術も使われています。気象レーダーは、大気からの後方散乱信号を送信して受信することで、降水の種類、粒子径、量を間接的に判断することができます。最近の気象レーダーは、ほとんどがパルスドップラー【ドップラー効果を用いて物体との相対速度を推定できるもの】です。
NASAの地球観測衛星「クラウドサット」に搭載されている「雲プロファイリングレーダー」もそのうちのひとつです。