ポルトガル第2の都市で、西欧の中では物価も安い港町ポルト。そんな街で、エンジニアとして働く長澤さんへのインタビュー記事です。
――長澤 光希(ながさわ ひろき)
ポルトガル/ポルト
タスク管理アプリ「Todoist」エンジニア
大学を卒業後、大手IT企業「DeNA」に新卒入社。EC事業の新規事業としてトラベルに関連するアプリを開発。その後、ヘルスケアサービスのiOSアプリの開発などに携わる。
約2年間働いた後、現在勤めている「Doist」に転職。「Doist」オフィスのあるポルトガル・ポルトに移住し、エンジニアとして働いている。
仕事場は世界中どこでもいい
――今はどこで何の仕事をされているのですか?
長澤 光希(以下、長澤):ポルトガルの第2の都市ポルトという街で、エンジニアとして、「Todoist」のiOS/macOS/watchOS向けアプリ開発をやっています。主に、自社のアプリを改善したり、新機能の実装などをしています。またどうやったらバグが少なく品質の高いプロダクトを作れるかなどを考えて日々改善しています。
――「Todoist」とはどんなアプリなんですか?
長澤:仕事でもプライベートでも使える「やることを整理して、重要なことに集中する」をテーマにしたタスク管理ツールです。あらゆるデバイスにも対応していて、オフラインでも使えます。タスクを1箇所で管理できるのはもちろん、入力することで期限を知らせてくれたり、プロジェクトの進捗管理もできます。オフィスはポルトガルなのですが、日本語化もされているので、日本でも使ってくださっている方が増えていると思います。
――長澤さんはそこで、どのように働いているんですか?
長澤:基本的に、全員リモートワークの会社です。僕はオンオフの切り替えのために、オフィスに通っているのですが、どこで仕事をしてもいいので、世界中どこにいても安定したインターネットがあれば、会社的には問題ないです。機会があるときは、近くのポルトガルの町や他のヨーロッパの国、日本などのコワーキングスペースから働くことも増えてきました。
――会社に行かずに好きな場所で仕事ができるということですか?
長澤:はい。現在フルタイムの社員は63名いて、27つの違った国籍を持ち、26つの違った国から働いています。僕が通うポルトオフィスに出社しているのは10人くらいですかね。ただ自分も含めて、毎日出社しないこともあるので、全員は常にはいないような状態です。
――極端な話、日本に帰国してそこで仕事をしてもいいということですよね。
長澤:そうですね。日本に帰った時は、日本のコワーキングスペースにて仕事をしていました。僕の場合はポルトに住みやすさを感じたこと、ヨーロッパに来てやってみたいことや、行ってみたい場所があったので、ポルトガルを拠点にしています。
またヨーロッパ内にいると、近隣の国を回ることも簡単なのは嬉しいですね。最初は、英語圏に行くことを想定していたのですが、今の環境に居心地のよさを感じています。
全社員が顔を合わせるのは、年に1度。プライベートを大事にするのが当たり前。
――1回も顔を合わせたことがない同僚もいますか?
長澤:年に1度、社員全員が参加する社員旅行があって、それが唯一全員集合する機会です。
ちょうど僕が入社する直前のタイミングでギリシャで行われたこともあり、僕の場合は全員と顔を合わせてから仕事に入ることができましたが、全く顔を合わせないまま仕事をスタートすることも普通に有り得ますね。
――先ほど、メンバーが世界中にいらっしゃると言っていましたが、仕事をする上で時差の問題はないのですか?
長澤:社内コミュニケーションは「Twist」という自社で開発しているコミュニーケーションツールを使っているのですが、メンバーが世界各地に散らばっていて時差があることが前提なので、即レスを求められることはありません。自分が仕事しているときに返信すればOKで、休みの時は通知をオフにすることもできます。バケーションの人はバケーションのアイコンになって、通知が届かないようになっています。
――そんな自由に働けて、しかも長期休みまで!うらやましい!
長澤:休むことが許されているというより、推奨されていて、余った有休消化はある程度翌年に繰り越されます。私自身も、自分のタスクはありますが、ある程度決まった時期にちゃんと休むようにしています。みんながみんな、プライベートを大切にするのが当たり前の文化という感じです。
ただ、みんな仕事をしていないわけではないですよ(笑)みんな会社にいるときは、ヘッドフォンをして、自分の世界に入って仕事をしています。
僕もひとりの「Todoist」ユーザーだった
――今の会社を選んだきっかけはなんだったんですか?
長澤:今の会社のアプリを知っていたということが大きいですね。「Todoist」というアプリを一人のユーザーとして使っていて、それが好きで今の会社に入ったような形です。あとは、インタビューを通して話した過程で、会社のやっていることに共感できたというのもあります。
――海外で仕事をしたいという希望も強かったのですか?
長澤:はい。前職の時にフィリピンのセブ島で研修があって、そのときから英語を利用する環境での仕事をしてみたいと思っていました。ただ、アメリカの場合はビザのハードルが高くて、よほどの大企業に入るとか、かなり高いスキルを持っているとかではないと難しい印象を受けました。なので、ヨーロッパを中心に探していました。
日本の企業の海外支社や外資系企業に入るという選択ももちろんあったとは思いますが、それだと入社してから海外に派遣されるまでに時間がかかる場合が多い印象を受けました。すぐに海外で働くためには、そのまま海外の企業に就職する方がいい。そう思って、オファーをもらい次第、決断しました。
――具体的には、どのように海外就職活動をしていたのですか?
長澤:日本での準備期間を2年間設け、自分が探しているポジションに当てはまるJobに応募をしていましたね。主に採用サイトからのJobページをみて応募していたのですが、できる限り履歴書や添付書類をちゃんと書くようにしていました。最初は、とりあえずあまり興味がない会社でも、インタビューの経験になると思い、書類レビューが通ったところはほぼ次の技術面接なども受けていましたね。
あとはHoneypotというサービスでも、いくつかの企業とマッチングできたのでこちらの方がより面接できる確度は高い気がしました。
少し慣れてきたころで、自分が本当に行きたい、あるいは興味を持っている会社にもアプライするようにしていきました。今いる自分がいる「Doist」は、自分が好きなサービスの1つで、そこにたまたま自分の希望するポジションがあり、かつリモートワークもOK。そして、ポルトにあるオフィスで働くことも可能とのことでしたので、興味を持ちアプライしました。
――ビザの問題は大丈夫だったんですか?
長澤:海外就職活動をする中でアメリカの企業だとやはりビザの問題で難しいことを実感していたので、ドイツの首都であるベルリンまたはヨーロッパを中心に探していましたね。
今の会社に関しては、最初の1年間は、ワーキングホリデービザを利用してポルトガルやEUに滞在できるようにしています。
同僚にロシアからポルトに移住してきた方がおり、会社もできる限り支援してくれるので、今は会社のサポートを受けながら正式なビザの手続きを現在進行中です。ヨーロッパの会社だとビザのサポートはしてくれることが多い印象はあります。
――海外で働くとなると語学力もかなり要求されるのではないですか?
長澤:ITの世界では、ビジネス英語をペラペラ喋ることができる必要はなくて、基本的な社内でのコミュニケーションがスムーズにできれば問題ないと思います。
ただ、日本で仕事をしていた2年間で、英語に自信がなかったのでSkype英会話や街中の英会話カフェを利用して、可能な限り日本にいても英語を使う環境に慣れたり、プログラミングスキルの向上のための努力はしていました。英語学習のモチベーションとして、TOEICやTOEFLもたまに受けていました。
プログラミング言語は世界共通ですし、語学力よりも開発力の方が問われます。
――働き方に関して、待遇などの面はいかがでしょうか?
長澤:エンジニアの待遇は海外の方が良い場合もあり、自分のケースにおいては日本の時よりも待遇は良くなったと感じています。
世界的にもエンジニアは人手不足なので、技術があればやっていける世界ではあります。社内には、フルタイムですが個人請負のような形でやっていて、フリーランスに近い方も多いのです。もちろん、日本と違って解雇もあると思いますが、今のところ終身雇用ではないことに対する不安はありません。
未来に貢献するツール開発
――海外での生活はいかがですか?
長澤:ポルトガルはヨーロッパの中でも比較的物価が安い国なんです。そう言った意味では、嬉しいですし、食べ物もおいしい!仕事のスタイルに関しては、自由にバケーションも取れ、プライベートな時間を大切にする文化があることに、すごく働きやすさを感じます。
エンジニアのスキルにも高くたくさん刺激を受けますし、自分のスキルを高めるにももってこいの環境だと思っています。
――今後の会社が進んで行く方向や、長澤さんの展望を教えてください。
長澤:現在「Doist」では、Todoistというタスク管理アプリに加えて、Twistというチームコミュニケーションツールを開発しています。
会社としては、会社を大きくすることや、買収されることを目標とせず、本当に人々の役に立ち必要とされるものを提供することにフォーカスしていると思います。Twistというチームコミュニケーションツールは、僕たちの会社のような社員が、世界の様々なところにいることを前提にして開発されており、まさに自分たちが必要なものを開発しています。ほとんどの社員がリモートワークで働いている場合、リアルタイムでのコミュニケーションを取ることは難しいので、そのようなタイムゾーンの違いがあっても、ちゃんとコミュニケーションが取れたり、情報を見逃したりすることのないよう工夫されています。まだリモートワークはマイナーかもしれませんが、自分たちはゆくゆくはそれが当たり前になっていくと思っており、それに先立ってこのようなニーズのためのツールを開発しているんです。
現在世の中にはたくさんのアプリがあり、中にはユーザーの意思に反して意図的にアプリに没頭させたり、より長く使わせようとしているアプリもあります。
そんな中、「Doist」では本当に人々の生産性に役に立つものであったり、生活を楽にするものを作っているので、自分としてはやりたいこと、本当に必要なものを開発できているという認識があります。少し先の未来にあるニーズに答えたものを開発しているので、僕は今後それがどうなっていくのか、すごく楽しみですね。
編集後記
淡々と、でも深く細かく質問に答えてくれて、真面目な印象を与える長澤さんですが、なんとこの日は奥様同伴でのインタビューでした(笑)
隣で明るく笑いながら会話に入ってきてくださる彼女と長澤さんはとってもお似合いで、慣れない土地での生活も彼女が支えてくれているんだなと感じました。
よりよい条件を求めて海外へ。まるで海外のチームに移籍していくスポーツ選手のようで格好いいなと思う反面、日本から優秀な人材がどんどん出て行ってしまうのかなという不安も抱きました。
▼タスク管理アプリ『Todoist』
▼チームコミュニケーションツール『Twist』
※本記事は「働き方メディア Fledge」との提携により掲載を許可された記事です。
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