世界で最も人が集まる場所の一つ、ニューヨークのタイムズスクエアには毎日7万人もの人が訪れると言われています。
そんなタイムズスクエアに企業のロゴを掲載しようと思ったら、いくらかかるのでしょう?
なんと、1年で1億~4億の掲載費がかかると言われています。タイムズスクエアは世界で最も広告費が高い場所なのです。訪れる人の数を考えるとその宣伝効果は莫大なのでしょう。もちろん、訪れる人だけではなくて、アメリカでは毎朝のニュース番組でタイムズスクエアが映りますし、SNSで拡散される効果も計りしれません。
では、もしタイムズスクエアのビルボード(広告看板)デザインの仕事がきたら、あなたならどうしますか? おそらく誰もが「人生をかけた仕事になる」と思うでしょう。
ニューヨークのスタートアップTalkSpaceのマーケティング部署のKuznetsovさんがタイムズスクエアに広告を載せるチャンスを獲得したときも、そう思ったそうです。しかし、その仕事には思いがけない制約があったのです。
「24時間以内」という時間制限です。
しかもその看板は映像広告であり、8階建てのビルに張り付けるタイプの円柱形広告。加えて、窓の部分は25か所切り抜く形にしなければならないという制約付きです。ぞっとしますね。世界で最も人目に触れるであろう、タイムズスクエアの看板をそんな過酷な条件で仕上げるなんて考えたくもありません。普通の企業ならそんな広告は出しません。しかしTalkSpaceは、二度と回ってこないかもしれないチャンスを引き受けたのです。
ぐだぐだ言っている暇はありません。まず、彼らはその大きな仕事を小さな仕事に細かく分割していき、チームに仕事を振り分けていきました。「夜中2時にピザを届けるように注文しておいて」なんてジョークが飛び交うのは、さすがニューヨーカー。
デザインチームにとっては、これまでにない大きな仕事です。それまでTalkSpaceではプロダクトデザインに力を入れていたので、デザイナーは広告の経験がほとんどなかったそうです。会社だけではなく、デザイナーやディレクターにとってもこの仕事は全く新しい仕事だったのです。
デザインのプロセスでは、まずビルボードに何を掲載するのかを決めました。円柱形のひずんだ形の広告ということで、このプロセスが最も大変だったそうです。映像広告ということでモーショングラフィックスを使うこともできます。また、窓の部分が切り抜かれるということで、その部分をデザインに活かせられないかという話し合いも行いました。
「間に合わせられるかどうかは、デザインチームの決断にかかっていました。」と、Kuznetsovさんは振り返ります。
最終的にはデザインは制限時間を考慮し、TalkSpaceのブランドに忠実でありながらも、現実的なものにするという決断を下しました。そして、デザインのコンセプトは「色々な場所にあるソファ」になりました。映像が切り替わるごとにソファが様々な場所に移動します。これは、TalkSpaceは世界中のどこにいてもセラピーをできるトークセラピーというサービスを提供しているからです。
キャッチコピーには9時間を使ったそうです。その日は、デザイナーは夜中の3時に一時帰宅して、すぐに会社に戻るという過密スケジュールになりましたが、なんとか広告が完成しました。
コチラが実際にタイムズスクエアに掲載された彼らの広告です。社員のFacebookにアップされました。
こうして、小さいチームでありながらも、大きな仕事を短時間で見事やってのけたTalkSpaceのビルボードは大企業の広告と肩を並べることになりました。この後のパーティは大いに盛り上がったに違いありません。
Kuznetsovさんはこの仕事を振り返って「小さなチームだったからこそなし得た仕事だった。」とコメントしています。大きな企業では、何段階もの承認や、予算の会議が行われますが、TalkSpaceでは迅速に意思決定を行えました。Kuznetsovさん自身がビルボードの購入を決定した本人ですが、彼は捨て身のチャレンジをしたわけではありません。費用対効果を落ちついて考えて出した結論ということで、この広告のおかげでTalkSpaceがどれだけステップアップするのか期待が膨らみますね。
この記事は「Designing a Times Square Billboard Overnight」を翻訳・再編集しています。